地竜車運送屋の危険な日常 前編
神暦三千年
魔法の息ずくこの世界には、解っているだけで六千年以上の歴史を持つ知的生命体が存在していた。
そして、現在この世界において最大の国であるアエリカ
その国の建国三千年と神暦四千年を記念した国家プロジェクトとして打ち出されたのが『建国からの歩み』と題して国の二千年の出来事を記録し、テレビの番組として放送する企画があった。
元々は失伝した魔法技術を知るために使われていた時越えの魔法を使用したもので、その魔法を使い歴史の中の大きな事件の真実や魔法の歴史、そして勿論カエリカの起こりを伝える物である。
そのプロジェクトの一つとしてカエリカの民に密着する部署である第四部署に、今時越えの魔法を使い過去へ行く途中のものが一人。
「それではニルス君がんばってくれよ!」
少し肥えたスーツ姿の中年の男性が期待を込めて言った。
「勿論です、部長!
しっかりと記録してきます。」
その期待に応えるようにハッキリとニルスは応える。
「ソレでは最終確認です。
行き先は神暦二千百四年の4月13日。
対象は都市ブルペンの地竜車を使う配達人です。
聴きたい事があれば何時でも魔動通信機で連絡してくださいね。」メガネの女性サリスがニルスの着ている当時の服や目立たないように装備してある魔動通信機を確認しながら言う。
「それと、何度も言っていますけどくれぐれも当時の人に味方したりはしないでください、歴史が変わってしまいますので。」
「解ってますよ、もう三回目ですよ?」
「それでもです」
チリリン
時越えの魔法が発動するアラームが鳴る。
「それじゃあ頑張ってくれ(くださいね)」
二人が声をかける中ニルスの意識は途絶えた。
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ニルスの意識が戻った時、ニルスは林の中に立っていた。
ニルスは魔動通信機を使用した。
「こちらニルス。時越えの魔法による倦怠感が多少ありますが成功しました。
二、三キロほど先に街が見えるのでブルペンだと思われます。」
『了解しました。ブルペンに到着次第調査に当たってください。』
サリスとの通信も終了し、街道を歩いてブルペンに向かう。
その時ドドドドっと重鈍な音をたてて何かがニルスの後ろから近ずいてくる。
振り返ると、地竜車が時速二十キロほどで街道を移動していた。
ニルスは街道の端による。
すると、何故か地竜車はニルスの横で停車した。
ニルスは地竜車を見る。
程なくして地竜に跨がっていた男、ザンクがニルスに声をかけた。「おい兄ちゃん!街まで後二、三キロだが乗せてってやろうか?」
ニルスは少しの間思案している。
「解りました、いくらですか?」
地竜車乗りの繋がりで何か聞き出せるかも知れないとニルスは誘いに乗った。
「いや、金はとらねぇーよ、荷物も配達し終わって帰るところだしついでだ。」
「この地竜車は配達用の地竜車何ですか?」
もし、そうなら手間が省けたと思いながらニルスは尋ねた。
「ああ、そうだ。」
「では、乗せてください。」
ニルスを乗せて地竜車は走る。
「どこの街に配達に行っていたんですか?」
ニルスが尋ねる。
「ここから地竜車で三時間位のアトスって言う村だ。
アトスからブルペンに運ぶ荷物も預かったからな。
兄ちゃんの横の箱に入っている奴だ。
ニルスは自分が座っている横をみる。
そこには確かに大人二人は何とか入れるくらいのゴツい木箱がある。
「この中には何が入っているんですか?」
「手紙と小包だな。」
「ブルペンに着いたらどうするんですか?」
「次もアトス位離れた村のヘラクに荷物を届けに行く予定だ。」
「なら、ついていって良いですか?」
ニルスは特殊な交渉魔法の魔法具を使いながら尋ねた。
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ブルペンに着くとニルスは魔動通信機で連絡をとった。
「こちらニルス、対象を決定しました。
これから取材に移ります。」
『了解しました。
何か危険な事が起きたら直ぐに緊急脱出して戻ってきてくださいね。』
ニルスは通信を切り街に入ってからザンクは地竜車を歩行者と同じスピードにしている。
「おい、着いたぞ。」
前を見ると石造りの二階建ての建造物と横に地竜が何匹か寝ている小屋がある。
その小屋に地竜と地竜車を停めて石造りの建造物にニルスとザンクは入っていく。
「お~!ザンク、丁度良いところに来た、ヘラクに運ぶ荷物は用意しているからしばらく休んでから出発してくれ。
ドアを開けると直ぐにザンクが話し掛けられたら。
「ザンクさん、この方は?」
ニルスはザンクに尋ねた。
「ああ、コイツはガルだ、一応はここの社長でな。
あくまで仲間内で会社を建てたときに社長になっただけで立場上は同列だよ。」
「ご紹介に預かったガルだ。
ザンク、コイツは?」
ザンクはこっちを見ながら
「ニルスです。
そこの街道を歩いている所を乗せてな。
んで、物好きな事に次の配達について行きたいんだと。
良いだろ、ガル?」
「別に構わないが別に何て事は無い道のりだぞ?」
少し説明がややこしい事になりそうだな
とニルスは考えてザンクにも使った魔法具をガルにも使った。
「解った、許可しよう。」
暫く三人が雑談をしていると
ガチャ
「・・・すまん
配達を頼めるか?」
ローブを纏った男が文庫本サイズの布にくるまれた荷物を手に持って入ってきた。
「ああ、ドコまで運べば良いんだ?」
一瞬でガルが営業スマイルになる。
この時ザンクが小声で
(コレが社長をしている理由だよ。
ガルは商売上手で知り合いも多い。
このままいけば会社は多少大きくなるぞ)
(へぇ~、人は見かけに寄りませんね。
所で、この会社何って名前何ですか?)
(確かガルが黒竜運送社とか言う名前にしてたな。
名前とかあまり興味無いからどうでもいいが)
「えっ!!」
ニルスは声に出して驚いてしまった。
黒竜運送社と言えば黒竜コーポレイションと言う大企業の前進である。
創業千五百年以上の老舗で海外にも沢山の系列会社を進出している。
(・・・絶対にちょうだい企業になりますよ)
(はは、お世辞でも嬉しいよ。)
などと二人がひそひそ話している時ガルとロープの男は
「・・・一番早く出るのはどこ行きだ?」
すると、ガルの目が鋭くなり
「おいおい、ヤバい物は勘弁ですよ。」
「いや、そちらに迷惑は掛けんよ。
もう一度聴く、今すぐ出発するのは何処だ?」
ローブの男がドスの利いた声で話す。
「・・・ハァ、解ったよ。だが本当に迷惑は掛けないんだな?」
「・・・いや、少し言い方を間違えたようだ。」
すると、男はローブの中から高そうなペンダントを取り出しガルに渡した。
そのペンダントを見た瞬間ガルの顔が驚愕に染まった。
「わかりました。
お受けいたします。
一番早いのはヘラク行きになりますがよろしいでしょうか?」
「構わんが急いでくれ。」
ローブの男は持っていた小包をガルに渡し出て行った。
「おい!ガル何だったんださっきのは」
するとガルは黙ってザンクにさっきのペンダントを手渡した。
ニルスはそのペンダントに向けて目に仕込んでいる魔動ビデオコンタクトで撮って魔動通信機に画像を乗せて送信した。
そして、魔動通信機を使用して連絡を取る
「こちらニルス、今送った画像のペンダントについて詳細をお願いします。」
『了解しました。
少し待ってください。
確認しました。
そのペンダントは刻んである紋章から、当時の貴族制があった時ブルペンを治めていたブルペン侯爵家の物だと思われます』
「ありがとうございます。
わかりました。
それと黒竜コーポレイションの初代社長の名前を教えてください。」
『黒竜コーポレイションですか?
確かガル・ブラックと言う人物だと思いますがそれがどうかしましたか?」
『いえ、何でもありません。』
ペンダントを見たザンクは暫く考えて
「解った、ガル早速ヘラクに行ってくるわ。」
そして、ザンクは思い出したようにこちらを見て
「ニルスはどうするんだ?
行くんだったら少しめんどくさい事になりそうだが。」
「ついて行きます。
逃げ足だけは速いので大丈夫です。」
「物好きここに極まれだな。」
「じゃあガル、ヘラクに運ぶ荷物を準備してくれ。」
ザンクがガルにペンダントを受け取ってから出発した