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聖セルヒオ教会の裏庭に行くには、二種類の行き方がある。
ひとつは教会の外周をぐるりと回り、海と建物を隔てるブロック塀の狭い隙間を横這いになってカニ歩きして尻や肘をすり傷だらけにして行くルートと、
一度教会の中に入り、礼拝堂を抜けて私室や客室へと繋がる関係者以外立ち入り禁止の通路抜けて、裏庭へと行くルートだ。選択肢はふたつあるのだが、舞哉の場合は二メートル近い身体が通らないという理由で当然のように一択。バケツを持ったまま悠々と礼拝堂を突っ切った。
鼻歌交じりで磔像の前を大股で横切り、客室と私室の扉の前を素通りして裏庭へとつながる扉を開く。が、いつもなら扉は景気よく全開になるのだが、扉の向こうに何か障害物が置かれているのか、がつんとぶつかって半分くらい開いたところで止まった。
「おっと、いけねえ」
危うく扉をぶつけて壊すところだったようで、舞哉は今さらになって扉をそっと扱う。ドアノブをごつい指でつまみ、扉が向こうの何かにぶつかる寸前までそっと押し開く。
がつん、
「あ」
さっきより勢いはかなり弱かったものの、やはりぶつけた。虎徹は思う。目の前の大男は、実は神父の格好をしたゴリラか熊なんじゃないだろうか。いや、ゴリラや熊の方がまだ知能が高いような気がする。ただ気になるのは、前々からがさつで繊細とは程遠い男だというは知っていたが、ここまで粗雑で不器用な男だったろうか。もしかしたら、師匠ももう歳なもかもしれない。老眼とか。
舞哉は弟子がそんな事を思っているなどとは露知らずといった感じで、扉を向こうの障害物に当たるギリギリまで開くと、その隙間に巨体を押し込めるようにして裏庭へと出た。
舞哉の後に続いて裏庭に出ると、ずらりとガラクタの山が並んでいた。この山のひとつが、扉の行く手を阻んでいたのかと、わかってしまえば酷くどうでもいい。
ガラクタは多種多様で、ブラウン管やチャンネルつきのテレビが数台積まれていたり、型遅れのパソコンとCRTモニターが数セットまとめて置かれていたり、元の持ち主が死んでるんじゃないかと思うほど事故でボロボロになったバイクと、車のエンジンらしき鉄の塊が数台の冷蔵庫と一緒に置かれていたり、聖セルヒオ教会の裏庭は今や、粗大ゴミ置き場かジャンク屋の倉庫かといった有り様だった。
「何だこりゃ……」
数日見ない間に劇的な変化を遂げた裏庭に、思わず虎徹がつぶやく。家庭菜園の域を少々超えた畑があるのは相変わらずだが、むしろその畑や作物たちが違和感を与えるほど鉄と油の臭いにあふれていた。
そんなジャンクの山をふと見れば、山と山のわずかな隙間に厚手のベニヤ板を組み合わせたいかにも即席の作業台があり、銀色の長い髪をした少女が車のフレームに馬乗りになって何か工作をしていた。
少女は四つん這いになって、一心不乱にフレームを撫で回している。デニムのオーバーオールとグレーのシャツ、そして手にはめたぶかぶかの軍手が雰囲気を出しているが、何となく子供がごっこ遊びを真剣にしているようで微笑ましかった。
「おいスフィー、連れてきたぞ」
舞哉が声をかけると、スフィーはマウントポジションの体勢から顔を上げる。耳にかけた長い銀髪がほつれ、汗をかいた頬に貼りつく。
「またお主はイノシシみたいにガツガツ当てよって、傷がついたり壊れたりしたらどうするんじゃ」
「うるせえ。ハナっからジャンクじゃねえか。それにどうせお前が直すんだから、どうなってもいいだろ」
自分の娘みたいな少女に説教されて、舞哉はぶちぶち文句を垂れながらバケツの中の雑草を畑の横に掘られた穴に埋める。どうやらこれで腐葉土を作るつもりらしい。
「どうでもいいけど、用件は何だよ? こちとらヒマじゃないんだ。さっさと済ませてくれ」
どうせ帰ってもメシ食って風呂入って寝るだけだが、常にヒマそうにしてると思われるのも癪なので、とりあえず忙しそうなフリをしておく虎徹。
「ああ、すまんな。呼んでおいて何じゃが、もうちょっと待ってくれ」
スフィーはちらりと虎徹の方を見てぞんざいに言い放つと、再び作業に戻ってしまった。
「ちょっと待てよ――」
あまりの勝手さにスフィーを作業台から引っぺがそうと虎徹が近づくが、その足が数歩で止まる。
見れば、スフィーは車のフレームに馬乗りになって、ただ掌で撫で回しているだけに見える。だが、それだけなのに何故か車の形をしていたフレームがその凹凸を消していき、見る見るうちに一枚の鉄板に姿を変える。まるで紙のしわでも伸ばすように、作業台いっぱいに広がった鉄板が出来上がった。
「おいおい、どうなってんだよこりゃ……」
目の前で高度な手品を見せられている気分だった。ただ分かるのは、これには恐らくタネも仕掛けもない。虎徹などには到底理解できない、高次元な科学的何かが作用しているのだろう。もの凄く曖昧だが、そこまでは何となく理解できた。
「ふう、ひとまずこれで良し、と」
加工の出来に満足し、スフィーは軍手の甲の部分で額の汗を拭い、真っ白な広い額を汚した。作業が一段落したところを見計らって、虎徹は思い切って声をかける。
「なあ、おい、スフィー」
「なんじゃ?」
スフィーは足元の鉄板に体重で凹みをつけないように、一度尻もちをつくようにして慎重に作業台の上から降りる。
「今の、どうやったんだ?」
「今のって――ああ、素材の分子構造をちょいと並べ替えて形成し直してやっただけじゃ」
簡単に言ってのけるが、虎徹には意味がよくわからないし、どうやったら工具も使わずに軍手をはめた手だけでそれができるのか皆目見当もつかない。
「まさかその軍手に秘密が!?」
「いや、これはただの軍手だが」
スフィーの両手を取ってまじまじと軍手を観察しても、彼女の言う通り何の変哲もないただの軍手だった。ではなぜ――、
「小僧、物質が存在する条件とは何じゃ?」
いきなり質問されても、虎徹には答えられない。
「え、ん、いや、え~と……」
「馬鹿もん。『発生・構築・認識』じゃ。これくらい連邦学術院では常識じゃぞ、憶えとけい」
常識だと言われても、そんなの聞いた事もない。するとスフィーは何だまだ理解できないのかこの馬鹿は、という顔をして、
「いいか、よく聞けよ、まず『発生』、これは無から有が生まれんように、物質はその元になる物がなければ誕生せん。次に『構築』、これは発生した何かが元になった物や環境に見合った形になることじゃ。そして最後の『認識』。これが一番重要だの」
「どうしてだよ? むしろ前の二つで事足りてるような気がするぞ」
「阿呆。どれだけ物質が構成されようが、それを『認識』する第三者がおらねば、それは無いも同然じゃ」
「――ここで量子力学がからんでくるのかよ……」
「当然じゃ。『有る』という事は、そこに『有る』という事を『視る』者がおってこそ初めて成立する現象だからの」
それで『認識』か、と虎徹は一応は納得する。だがまたすぐに別の疑問にぶち当たる。
「で、どうしてこれが軍手の話とつながるんだよ?」
「馬鹿もん、人の話は最後まで聞け。お前が無知なばっかりに、話が迂遠になっただけじゃ。本題はこれからよ」
ケツを蹴られた。全然痛くないけど。
「物質の基礎理論が『発生・構築・認識』だというのは理解できたか? ではどうすれば、こんな軍手ひとつであんな芸当ができるか。それは、わしら科学者が物質を『理解・再構築』しとるからじゃ」
「『理解・再構築』?」
何だかどこかで聞いたような単語が出てきた。虎徹はあからさまに胡散臭いという顔をする。
「何じゃ、そのツラは? 当然、誰にでもできるというわけではないぞ。わしほどの天才を除けば、宇宙広しと言えどあと数人といったところかのう」
「いや、いくら理解したところで、機械は道具を使わないと直したりバラしたりできないだろ」
「それは、お主らの『理解』がそこまでだというだけじゃ。構造や原理を知った程度では、真の理解とは言わん。わしレヴェルになると、その物質の分子構造、分子の結合面、電子の流れから素粒子の形まで手に取るように理解できる。そこまでして初めて、素手で分子の組み換えができるというものじゃ」
自信満々で語るスフィーの姿に、虎徹は呆れてものが言えなくなる。彼女は科学の話をしているつもりだろうが、聞いてる虎徹の、いや、地球科学の水準からすると、もう魔法やファンタジーの話と大差がない。一体どのくらい次元が違えば、ここまででたらめな事ができるのだろう。少なくとも、虎徹が生きてる間に地球の科学力が彼女に追いつく事はまずないだろう。
「そんな電子顕微鏡レベルの世界を、どうやって理解しろってんだよ。そもそも肉眼で見えないんじゃどうしようもないだろ」
虎徹の言葉に、心底呆れたという顔をするスフィー。馬鹿だ馬鹿だと思っていたが、まさかここまでとはと言わんばかりの顔だった。
「では小僧、貴様は風がどちらから吹いておるのか目で見んとわからんのか? 水もそうじゃ。目で見なければどちらが上流かわからんか?」
「馬鹿にすんなよ、それぐらいはわかるさ。風も水も、肌で感じればいいんだろ」
そこでようやく、虎徹はスフィーが何を言いたいのか理解した。
「そうか、流れを感じるのか」
「左様。この宇宙に存在するすべての物には、流れというものがある。血流しかり、電流しかり、磁場しかり。その流れを肌で感じ、余すところなく読み取って、さらにそれを意のままに操ってこそ初めて、物質を『理解』したと言える。知識や思考は関係ない。大事なのは感じる事じゃ。考えるな、感じろ」
ブルース・リーかよ、と言いかけた言葉を、虎徹はぐっと飲み込む。
「流れを操る、か……」
虎徹は噛み締めるようにつぶやく。が、風や水ならともかく、電気や磁場の流れなどどうやったら感じられるのかさっぱりわからない。操る以前の問題だ。
「ところで、さっきから何を一生懸命作ってるんだ?」
「これか? これはのう――」
スフィーがよくぞ聞いてくれましたとばかりに、均したての鉄板をぱんぱん叩く。その表情に虎徹が『うわあまいったなあ、この話超長くなりそうだぜ』と、ヤブをつついてヘビを出したような顔をしたその時、
「姐さん、そろそろ――」
ジャンクの山の奥から、メリッタとプシケがひょっこり現れた。二人ともお揃いのオレンジ色のツナギを着ている。手には軍手をはめ、足元はワークブーツとこれまたジャンク屋の従業員のようだ。
「おう、小僧たちならもう来とるぞ」
スフィーが親指を向けると、メリッタとプシケはそろってその指を目で追う。そして虎徹の姿を見つけると、
「兄さん!」と嬉しそうに駆け寄ってきた。
「お久しぶりッス、兄さん!」
「最近は姐さんの手伝いばっかりで、ずっとご無沙汰だったの~」
姉妹は猫のように、虎徹の肩や背中に頭をすりつける。
「だから、誰が兄さんだっつーの! 人の身体に臭いをすりつけるな!」
サルトゥス星人の親愛を込めた挨拶だと言うが、どう見てもさかりのついた猫がじゃれついているようにしか見えない。もしこの場にエリサがいたら、人でも殺しそうな顔で睨まれることだろう。
「ええいっ、いつまでじゃれておる! 小僧たちを呼びつけたのはお主らであろう!」
「そ、そうでした」
スフィーがどやしつけると、姉妹はそろって気をつけをする。その隙に虎徹は二人から離れた。
「なんだ、お前らが呼びつけたのかよ」
虎徹は姉妹にさんざん頭を擦りつけられ、猫臭くなった制服に顔をしかめる。
「いや、それが兄さん大変なんッス!」
「あたしたちももうビックリしちゃって、飛んで帰ってきたの~」
姉妹はそれぞれ「それはもうとんでもない重大ニュースを持って帰ってきた」という感じを全身を使って表す。そののっぴきならない雰囲気に、虎徹は緊張のあまり唾を飲み込む。
「驚かないで聞いてくださいよ、兄さん……」
「お、おう……」ごくり、と虎徹は唾を飲む。
「なんと~、あのヴァルコクルスがこの地球に向かってるそうなの~!」
「お、おう……」
「なんと~、あのヴァルコクルスがこの地球に向かってるそうなの~!」
「……いや、二回言わなくてもちゃんと聞こえてるから」
沈黙。虎徹のあまりの反応の薄さに、姉妹が引きつけのように息を呑む。そんな悲壮な顔されても知らないものは知らないので、どう反応していいかわからない。
「ヴァルコクルスって言やあ、あの超長距離狙撃のか?」
暗澹たる空気に光を射したのは、舞哉だった。姉妹もこの機を逃すまいと、大仰に手を打って盛り上げる。
「そう、そのヴァルコクルス!!」
「さすが元賞金首! その筋に詳しいの~!」
「知ってるのか、師匠?」
「まあ俺様ほどじゃないが、有名人だな」
舞哉は自慢気に無精髭をさする。まあ宇宙連邦治安維持局と連邦宇宙軍の両方に賞金をかけられた男は、宇宙広しと言えどこの男くらいだろう。しかもその総額が、小さな星なら丸ごと買えるほどとなれば、こんな辺境くんだりまで有名人が出稼ぎに来るのもうなづけるというものだ。
「で、そのヴァル……なんとかって賞金稼ぎは、そんなに凄い狙撃手なのか?」
「いやそれが兄さん、厳密にはヴァルコクルスは狙撃手じゃないんスよ」
「ヴァルコクルスは宇宙船から地上の目標を狙撃するのが専門で~、今まで一度も目標の前に姿を現した事がないの~」
「俺んときもそうだったな。宇宙からチマチマ狙い撃ちしてきやがったから、叩き落としてやったぜ」
「すげぇな師匠。そんな遠くから狙ってくる相手を、どうやって叩き落としたんだよ?」
虎徹の質問に、舞哉は「こうやるんだよ」と当時を思い返して力が入ったのか、やたらキレのいい廻し受けをして見せる。
「宇宙格闘術奥義、宇宙廻し受けにかかれば、ミサイルだろうがビームだろうがそのまま相手に返せるからな」
そんな馬鹿な、と虎徹は一瞬そう思ったが、この男なら本当にそれくらいやってのけるかもしれないという気になるから困る。
「て言うか兄さん、そもそもヴァルコクルスは賞金稼ぎじゃないっス」
「殺し屋なの~」
「え?」
殺し屋という聞き慣れない言葉は、一度虎徹の耳から入って脳を素通りする。が、言葉の持つ意味はがっちりと虎徹の心臓を握り、鼓動を二秒ほど止める。
殺し、
殺される。
一度殺された魂の記憶と、殺されかけた肉体の記憶と、脳の深淵に無理矢理押し込めていた死ぬかもしれないと覚悟を決めた記憶が蘇り、虎徹は視界がぼやけ平衡感覚が失われていくのを感じる。
だがそれも時間にすればほんの一瞬のことで、停止していた鼓動が元に戻る頃には、胸の奥を紙ヤスリで撫でたようなざらついた感触と記憶はすっかり鳴りを潜めていた。そんな微かな虎徹のぶれを舞哉は目ざとく見つけるが、何を言うでもなくただ無言だった。
「おいちょっと待てよ! どうして殺し屋が出て来るんだよ!?」
「そりゃあ兄さんにかけられた賞金はハンパないっスからねえ。殺し屋だって出て来ますよ」
「兄さんぶっ殺せば一生どころか向こう十代は人生安泰なの~」
「賞金かけられたの俺じゃねえだろ!」
「賞金がかかってるのはアペイロンだからな。お前もいい加減諦めろ」
「諦めきれねえっ!!」
舞哉がグローブみたいな手でバシバシ肩を叩いてくる。何の慰めにもならない上に、肩が外れそうなくらい痛い。
「とにかく、ヴァルコクルスはそーとー危険な相手っス。兄さんはくれぐれも用心してください」
「用心って言われても、具体的にどうすりゃいいんだよ? 狙撃されないように家から一歩も出るなって言うのか?」
だとしたら、当分学校にも行けないのだろうか。それそれでまあ、今進めてるRPGのレベル上げがはかどるだけだが。
「あ~それが兄さん……」
公然とサボる口実ができて自然と顔がにやけるのを噛み殺している虎徹に、メリッタが申し訳なさそうに耳を伏せつつ申し上げる。
「残念ながら、どこに身を隠そうとヴァルコクルスには無意味っス」
「この惑星のどこに居ても~射程距離内なの~」
「射程距離?」
「驚かないで聞いてくださいよ。その距離なんと、40万キロっス」
「40万キロぉ!?」
オウム返しで驚いたのは、虎徹ではなく舞哉だった。虎徹の方は、40万キロと言われてもピンと来なかった。地球一周より遥かに遠いこともわかっていない。そもそも地球の外周なんて知らない。
「おいおい待て待て! 俺と戦った時はせいぜい4万キロぐらいだったぞ。どこをどうやりくりすれば、射程距離が十倍になるんだよ!?」
「そんなことあたしらに言われても困るっス」
「聞くところによると~、ある日突然新兵器が送られてきたらしいの~」
「どこかで聞いた話だな……」
虎徹はちらりとガヴィ=アオンを見る。彼も何者かが送りつけてきたジェネレイターを使ってネオ・オリハルコンの剣を稼働させ、アペイロンと互角以上に戦ったのだから。
「それに、飛躍的に向上したのは射程距離だけじゃないんス。威力もそれまでとは比べ物にならないくらいアップしてて、最近じゃあ目標だけの狙撃にこだわらず、手こずるようなら星ごと消したって話もちらほら出てるんス」
「目的のためなら手段を選ばないルール無用の悪党なの~。むしろそっちの方が問題なの~」
かつて犬飼浩一を人質にとってアペイロンの戦闘力を封じたことなど忘却の彼方なのか、義憤に燃えるプシケ。
「いくら殺し屋だからって、手段を選ばなすぎだろ……。っつかよくそれで自分が賞金首にならないな」
「いや、ヴァルコクルスはとうの昔に賞金首っスよ」
「殺し屋だから当然なの~」
「ですよね~……」
「で、その殺し屋が地球に到着するのはいつじゃ?」
言いながら、スフィーは目の前に両手をかざしてALFの画面と操作盤を出現させる。
「えっと、」
同じようにメリッタも眼前にALFの画面を開く。衛星軌道上に待機させてある自分の宇宙船に繋ぎ、自分たちの航海記録のフォルダを表示。「これっス」と手で払うようにして画面ごとスフィーに投げ渡す。
「ご苦労」
滑るように飛んできたALFの画面を受け取ると、スフィーは一度両手でくしゃっと潰して圧縮し、自分が開いたALFの画面にそれを重ねる。すると次の瞬間にはデータを解析し終わり、ヴァルコクルスの予想到着時刻が表示された。ただし日本語ではないので虎徹には読めない。
「おい、何て書いてあるんだよ」
「そうじゃのう、ざっと十二時間後というところじゃ」
「十二時間……」
長いのか短いのかわからないタイムリミットに、虎徹は自分がどんな表情をしているのかわからなかった。
次回更新は12月15日(予定)です。
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