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第1話 喪失

初めまして。遅筆ですが頑張って書いてみます。良かったら読んでください。感想、誤字脱字の指摘などいただけると幸いです。

「ふぅ・・・ようやくテストも終了したな」


 帰りのホームルームが終わって、全員がわいわいと騒ぎながら帰る支度を始める。


「うんうん、みーちゃんともっちゃんとサーティワン行くけど、孝志もくるー?」


 幼馴染にしてクラスメイトの高藤 由紀が俺をアイス食いに行こうと俺を誘う。暑い。アイスは食いたい。我が幼馴染は俺が生まれた時から隣の家に住んでいる。可愛らしい顔立ち、よく変わる感情豊かな表情が明るく快活なイメージを与え、それでいてあどけなさを残す。そして身長150Cmと小さい癖に出るところは出ている。成績優秀、運動神経抜群、重ねて言うが可愛い。おまけに隣の家ではあるが、俺の家の4倍くらいある隣の家で両親共に会社経営者と、天は二物も三物もこいつに与えた。ただ、両親が忙しいのでうちで預かることも多く、ほとんど兄妹同然に過ごしてきたせいか、こいつの俺への無警戒っぷりは時々恐ろしいものがある。

 アイスは食いたい。幼馴染に誘われたら行ってやりたい。しかし俺の財布の残金は残り110円、安目の自販機でジュース買えたらいいな、くらいのため丁重にお断りする。


「わりい、金ないんだ」


「えー、奢るからおいでよー」


 クラス中の男子から、おいてめえ調子こいてんじゃねえぞ、俺達の高藤さんに誘われてるばかりか、アイス奢らせるとかブチ殺されてえのかクソが?くらいの視線が送られている。


「いや、俺そういうのよくないと思うから、マジでうん。また埋め合わせするからこれ以上その話題を出すな」


 まったく空気読まない我が幼馴染は、なおも何か言いたそうにしている。クラスの男子の視線は、そうそれでいい、だがしかし!高藤さんを泣かしたら殺す!というプレッシャーを与えてくれていた。


「じゃあ今度お金あるときに行こうね。あ、でも最近超必殺マジキチ男出るらしいから、行く時はお迎えきてね?」


 おい、なんだそのふざけた名前の変態は・・・そしてヤメロ。それ以上言うな、クラスの俺の居場所無くなんぞ?というかこれ絶対はぶられる・・・。


「あ、アイスもいいけどプールも行きたいね?まだ水着見てないからついでに今度一緒に見に行ってー?」


 終わった。俺の学園生活終わった。もう気配を一切見ないことにした。振り返ったら俺の後ろには幾万もの殺意と怨念の亡者が犇めいている。怖すぎて見れない。きっとこのあと体育館裏か便所に呼び出されてフルボッコされる。



俺はそそくさと逃げるように教室を退散することにした。





「おお、相葉!いいとこにいたな。すまんがこれを運ぶのを手伝ってくれよ」


 逃げ切ってやるぜ!!と廊下を歩いていた俺は担任の水無月先生に呼び止められていた。水無月先生は社会科担当の先生なわけだが、割とファンキーな先生として有名だ。年齢は20代後半程度、さばさばした性格と言えば聞こえはいいが、俺はどちらかと言うと男前すぎる先生だと認識している。整った顔立ち、均整のとれたプロポーションに加え、近くに寄るとなんか甘い良い香りがして、一瞬ドキッとさせてくれるが、運動部のバカ話に自然に溶け込んでオヤジギャグを飛ばしてみたり、かと思えば女子グループが恋ばなとかで盛り上がっているところに乱入して、ドン引きするほどえぐい話をしてみたりと、まあ要するに美女の皮をかぶったおっさんじゃないかと思うわけで・・・非常に残念な人だ。そして今、目の前の水無月先生は、教材として地球儀やら地図を持っているのはわかるのだが、人体模型や人骨標本を一緒に抱えていた。身長は172センチの俺より少し低いくらい。女性としてはだいぶ背が高い方だが、さすがに荷物がかさばっているだけあって重そうに見える。


「はあ、ところでなんで理科の道具もあるんです?」

 

 俺が率直に聞くと先生は遠い目をして言った。


「ああ、これは私の私物なんだ。悪いね」


 人体模型と人骨標本の私物って何だと思いながらも、とりあえず二つを運ぼうとしたところで呼び止められる。


「あー、そっちは私が持つからこっちの地球儀を頼むよ。重くて正直きつい」


 水無月先生は地球儀を俺に寄越す。あ、本当に重てえ。というか重すぎる。どう考えても20キロかそこらはあった。


「おい、なんだこれ!?」


 俺があまりの重さに驚愕すると、水無月先生は薄い笑顔でつぶやいた。


「ふ、貧弱ね・・・」


 俺の中の男としてのプライドが、そのまま床に置こうと思う気持ちを凌駕した。


「は、ははは。これくらいならまあいけますけどね!」


「さすが男の子!がんばってー」


 先生は楽しそうに笑っていたが、小脇に抱えた標本達が色々と残念な光景だった。

 肩に担ぎ、なんとか進み始める。亀のごとくのろのろと歩く俺。

 すれ違う生徒には何かしら言われている。クソ、惨めだ!?


「ようやくついた!!」


 水無月先生の社会科準備室に到着した俺は、すっかり汗だくになっていた。正直体力はあまりない。まして今は7月である。


「ごくろー。ほい、報酬」


 冷蔵庫から缶ジュースを取り出した水無月先生が、俺にそれを投げつける。思ったより速度の出ているそれはコーラだった。とりそこなった俺の顔面に直撃する。甲子園狙えるレベルの速さだ。


「ぶっ」


 鼻をへし折らんとばかりにすっぽ抜けたコーラが顔面にめり込む。鼻血がぼたぼたとしたたる。


「うわ、大丈夫?」


 原因たる先生は、特に悪びれた様子もなく、何か哀れなモノを見る目でティッシュを差し出してきた。


「ひでえっす・・・」


 抗議の目線を送ると、まあ、しばらく休んでいくといいと言われ、椅子に座ってしばらく休むことになった。やることも特にないので先生と他愛ない話をする。クラスはどうだ?とか、彼女はできたのか?とか、あんたお父さんか!?と突っ込みたくなるような無難な話だが、何故か長引いてしまった。



「やべえ、もう15時だ」


「下校時間じゃないか、早く帰りなさい」


 自分は関係ないと言わんばかりの態度で水無月先生は俺をしっしと追い出そうとする。


「うす。じゃあまた明日」


 細かいことを突っ込むと何かと猛反撃されそうなので素直に退散しようとする俺が、ドアに手をかけると、呼び止められる。


「あ、そうそう、女子達の噂話なんだが、最近夕方以後に超必殺マジキチ男が出るらしいぞ?気をつけて帰るように」


 超必殺マジキチ男ってネーミングがバカすぎる。ただ、最近この界隈で失踪事件やら、行方不明の届け出が多いのは事実らしい。


「先生の方こそ気をつけてくださいよ」


 と、一応心配する素振りを見せると、先生の表情が、否、目が獣の眼光を放った。


「私が遭遇したら、時速200キロでひき逃げするから大丈夫」


 ぜんぜんだいじょばないセリフだが、確かに先生の車・・・ハマーだったか?で撥ねられたら通り魔だか殺人鬼だかもただでは済まないだろうな・・・と思った。


「じゃあ、お疲れ様です」


「ほい、気をつけて」


 


 先生と別れた高校からの帰り道、俺はとんでもないものを目にしてしまった。見渡す限りの赤、赤、赤、おびただしい量の血液が道路に撒き散らされていた。被害者を引きずった跡が細い路地へと続いていた。


 ゴクリ


 喉が鳴った。7月の陽気はセミこそまだ鳴いていないが、15時だというのに充分すぎる程の熱量を持った太陽光線が降り注いでいた。確かに暑かったはずの日差しの中にいて、俺の背筋は冷え切っていた。


 以前から噂話は聞いていた。しかし噂は噂、近所の小学生や女子共がくだらない話を広めているだけだと、俺は思っていた。だから、幼馴染の高藤 由紀がしてくれた噂話しも所詮は噂でしかないと思っていた。先生からの注意も人ごとだと思っていた。だが目の前のリアルはそれを許さなかった。そして血痕の中に俺は見てはいけないものを見つけてしまった。


「嘘だろ・・・」


 その血だまりの中には、由紀の愛用している手作り孝志君携帯クリーナーが落ちていた。しかも首と手が引きちぎれていて無惨。


 俺は考えていた。由紀が危ない可能性が高い。もう手遅れかもしれない。人を呼ぶか?武器がいるか?そもそも俺が行ってどうにかなるのか?

 

「お、相葉だ。どうした?」

 いいタイミング、嫌、最悪のタイミングだが、俺の知っている中で最も便りになる男が現れた。


 西園寺 彰人、生徒会長にして、番長。ルックスが良くて、頭も良くて、ケンカも強い。おまけに人脈も多い。由紀がお姫様なら、こいつは皇帝だ。


「西園寺、すまん、まだ校内にお前のパシリいるようなら、水無月先生にここのことを伝えてくれ。俺は血痕を追う!」

 

「おいおい、これひょっとして噂話のアレか?俺も行こう。スリルがありそうだ」


 そう言うと電話をかける西園寺。実はこいつとも古い付き合いだ。由紀を狙っていたのだが振られたらしい。その結果グレにグレてこのあたりの不良を制覇してしまったという恐るべき武勇伝の持ち主だ。


「由紀が被害にあってる可能性が高い。急ぐぞ」


「由紀ちゃんが!?さっさと言えよ!行くぞ!!」


 こいつは本気で動いてくれるだろう。それくらい目がマジだ。こうして俺と西園寺は血痕を追って一件の家にたどりついた。


「西園寺・・・ここは・・・」


 俺は顔から血の気が挽いていた。

 路地を進みに進んだ結果、大きな家にたどり着いた。そこは俺や西園寺なら決して近寄りたくない場所だった。


「ああ・・・。山村の殺された廃屋じゃないか・・・。」


 旧帝国陸軍大佐、東郷某が建てた豪邸が廃屋として残っていた。小学生の頃の俺達は山村という友達と3人でよく遊びに行ったものだった。山村はここでお化けに殺されたはずだった。お化けに腕を掴まれ、引きずられていく山村。全力で嫌がる山村を助けようと俺と西園寺は本気で戦ったが、叩きのめされ、山村は連れて行かれた。学校の先生に泣きながら報告し、先生、警察を動員しても山村はみつからなかった。そして山村の両親は自宅で何者かに殺されていた。

「マジか。またここに入るのか・・・クソ」


 俺の声は震えていた。


「行くしかねえ。怖いならそこで他の奴が来るまで待っていろ」


 西園寺はさっさと塀をよじ登ると、門を裏から開放してくれた。

 探索はあっさり終わった。

 玄関の鍵を開けるとホールに出る。そこに由紀は居た。


「おい・・・嘘だろ」


 西園寺は膝から崩れ落ちた。


 俺は何を絶叫したか最早わからなかったが、そこにはばらばらにされた高藤 由紀の亡骸が散乱していた。

 頭の中をフラッシュバックするのは今までの思い出。そしてこれからも続くはずだった日常の光景。全て一切合切がなくなってしまった。俺は散乱する臓物を踏まないように、慎重に歩み寄り、上あごから上だけになった由紀の顔を拾い上げた。眼球は両方抜かれているためおちくぼんでいる。まるで別人だ。別人であって欲しかったが、目の下の泣きボクロや、八重歯が由紀の特徴を色濃く残している。俺は頭を抱きかかえて泣いた。


「孝志、おい、孝志・・・犯人、殺そうぜ」


 西園寺は、まるで何かに取り憑かれたような顔をしていた。きっと俺も同じような表情をしているのだろうと思う。


「ああ、やろう」


 特に武器もないが、今なら殴り殺せる気がしていた。そっと由紀の頭を床に置くと、俺は西園寺と共に屋敷内の捜索を始めた。


 1階の廊下を探索していると、ソイツは突然現れた。驚いた俺はたまたま尻餅をついて助かった。しかし横にいた西園寺はそいつの攻撃をまともにくらい、下半身を残して上が消滅していた。

 なんだこれ、なんだこいつ、なんだこの状況は。

 歪な人型をしたソイツの右腕からは銀色に輝く球体がめり込んだ触手が生えていた。数百本近いそれは、丁度西園寺の上半身をことごとく串刺しにし、あたかも消滅したかのように粉砕したのだった。

 一本一本が意思をもつかのようにうねる触手。ソイツは薄汚い布をマントのように巻きつけ、頭から上半身までを覆い尽くしていた。ビュルビュルと、気持ち悪い音を出しながら触手が腕の形に戻る。ソイツが俺に狙いを付けたところで、壁が爆発した。


「おー、ひき逃げとはいかないが、うまく行ったわ。相葉、お前一人か?乗りなさい」


 壁ごと怪物を轢いた水無月先生のハマーが目の前にあった。俺は急いで助手席に乗り込む。


「中から絶叫が聞こえたから当たりをつけて突っ込んだが・・・思ったより最悪みたいだね」


 ハマーが一気にバックして屋敷から逃げる。屋敷内で雄叫びが聞こえる。


「生きてますね」


 俺はそれだけ言うので精一杯だった。


「ああ、逃げるぞ」


 少しだけ遅かったらしい。屋根に何かが飛び乗り、車の天井が破れる。水無月先生の左肩にあの触手が刺さっていた。そのままコントロールを失ったハマーはトラックに追突した。

 

 俺は車の中で意識を失った。




「孝志、助けて」


「孝志、あいつを殺してくれ」


 夢を見ていた。由紀と西園寺が俺に訴え掛ける。胸糞が悪い夢。二人には笑っていて欲しかった。由紀が上あごから上だけになる。西園寺の上半身が消滅する・・・。

「うわあああああああ!?」


 俺は凄まじい寝汗と共に飛び起きた。


「おお、良かった。起きたか」


 目が覚めた俺にコップを突き出してくれる人がいた。


「由紀!!生きていたのか!?あれは・・・俺の夢だったのか!?」


 目の前の由紀は頭を振る。


「いいかい、落ち着いて聞いてくれたまえ。私の名前はアイリ・ミナヅキだ。君は少し興奮しているようだから、もう少し寝て頭を冷やしたまえ」


 アイリ?ミナヅキ??なんの冗談だ??俺は体を動かそうとして仰天した。


「おい、俺の右腕はどこいったんだ?足も感覚ないんだけど、由紀、お前なんか知ってるか?」


「もう一度言おう、私はアイリ・ミナヅキだ。君はタカシ・アイバで間違いないか?君の冷凍保存カプセルを見つけた時点では、右腕、左大腿から先、右膝から下は既に無かった。むしろ私が事情を問いたいくらいだ。もっとも、治療自体は済ませたから痛みはないと思うのだが・・・どうした?」


 冷凍保存?四肢の欠損?なんだ、俺は、俺何してたんだっけ?

 逃避しようとする中で、一つの予測が飛び出した。


「アイリ?今は西暦何年だ?」


「西暦は2025年で終了した。今は崩壊歴321年だ。ようこそ、過去の人」


 俺はショックの余り再び昏睡した。


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