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少年は目を開けられぬ程の眩しさを放つ、光り輝く彼女に懺悔する。


「俺は……親友を失った。だから」

「だから、ここにいるのですね」


その言い方にはなんとも言えない深みを伴っており、少年の心は見透かされているようだった。


「……俺の何を知っている?」


少年の目が鋭く光り、神に挑戦するようなキツい目付きで少女を睨んだ。


「……んー、私にもわかりません」

「なら、何故、そんな、俺の、こ、心を、見透かしてる」

「心を見透かしてるのは、貴方が素直だからです。……それにしても、ここの景色は相変わらず暗いですね」


まるで鏡みたいです、と少女は首を上に向ける。そこには黄昏れている空。


「…………なあ、この場所が何か知っているか?」


少年は伺うようにして、少女の横顔を見る。


「……知りません」


少女はそのまま幼い子供のみがなし得る無垢な笑みを浮かべ、質問を投げかけた。


「逆に貴方はここが何の場所か知っていますか?」


少年は答えない。無気力に前を見る。

少女は視線を追う。なにも見えぬただの空間。少年は何を見い出すだろうかと。

永遠にも思える時間が流る。

お互いに何も喋らない。

そんな時間の片隅で少年はようやく口を開く。何度か開閉した後、乾いた喉をいたぶるようにゆっくりと呟いた。


「ここは……かつて俺と親友との秘密の場所だ」


徐々に自身にも分からぬ笑みを顔に出しながら。


月曜日――学生にとっては5日間。社会人になったら6日間。地獄の皮切りになるその日を好きな人はあまりいないであろう。

そんな欝な日にも負けない、ねっとりとした深青色の欝なオーラを出す男が他の有象無象の中に紛れ込んでいた。


「でねでね、れーきくん。スーパーマリ……3の1で……王冠」

「…………何故こうなった」


彼は土日にあったことに考えを巡らせては頭痛にあっている。原因はわかっている。隣にいる奴のせいだ。

元々種を巻いてしまったのは自分であることもよく理解していた。それが余計に彼を落ち込ませる。


「――ああ、俺の青春……」

「って、聞いてますか?」

「はいはい、それで?」


他人には見えない少女の霊にこの二日間のことを怒りたいと切に思う。

しかし、彼女の言葉の端々には言い知れぬ歓喜が宿っていたが、目にはまだ得体の知れぬわだかまりがあることに気づいていた。


幽霊の少女、亜緒と共に土曜日は勿論、日曜日も絶えず一緒に過ごしていた。

勿論、誰が見ても美人な亜緒。零輝も一緒にいることに悪い気はしなかった。

だが、3時間も一緒にいるうちにお互いが少しギクシャクしているのに気がつく。

相づちをうちながら見た亜緒の目は喜色に混ざって深く、濃い悲しみと諦めが宿っていた。


居なくなってしまった親友と同じ目をしている、と零輝は思う。他人のためには自分の犠牲を恐れない、それでいて誰かを求めている目。

もっと自分を大事にして欲しい。もっとわがままになって欲しい。なにより居場所をつくったのだから、そこにいることで他人に迷惑をかけてしまうなんて考えないで欲しい。


亜緒が自分といることに迷いがあり、ちょっとしたことで何処かに行ってしまうのでは、と思うと怒れない。

しかし、それはそれ。これはこれであり――彼女はとにかく話したがる。

風呂に入ろうとしても離れようとしない。一々ダルそうに注意していったら体力が無くなってしまった。

以上の他に語りきれない程の経緯があるため、月曜日をさらに暗い気持ちで登校するはめになっているのである。


「……もうすぐ学校につくから静かにしてくれ」

「何でですか?」

「虚空に向かって喋っている奴をみたら普通の奴はどう思うだろうな」

「いいじゃないですか、別に。精神科にもか……あ、すみません」

「…………」


出会った当初なら謝らず、言い切っていたであろう言葉。今は飲み込んでしまう。

何故だか堪らなく悲しく、とるべきリアクションも思いつかない不器用さが恨めしい。


「でも、私の姿は意識したら大抵の人には見えるし、声も聞こえると思います……」

「それはそれで問題なんだよ……」


既に母親には声を聞かれ、父親には姿までもを朧げながら発見されていたりもする。霊感はそこまでないと亜緒に言われた二人ですらこうだ。

厄介なことに亜緒の霊力は高すぎるらしい。今も家は幽霊捜しの真っ最中である。

零輝は帰ったら不毛な霊探しに付き合わされるんだろう、と思い深く嘆息した。


「はぁ、わかった……だが、とりあえず面倒はごめんだから静かにしてくれ」

「……よくわかりませんが、同意しておきます」

「学校お……」


そう言いかけた時だった。突然、後ろから肩を平手で強く叩かれる。


「オース!泉田。今日も相変わらず……」

「黙れ、脳筋が」

「……ぐおっ、と」


方向は後ろ。距離は1M。いや、それ未満。反射的に振り向きざまのキレているフックを放っていた。狙いたがわず直撃し、思わずたじろぐ脳筋。


「痛えじゃねえか!」

「……どうしてあれが痛いですむのかねぇ」


またこいつか、と溜息をつく。

短髪黒髪の日焼けした馬鹿こと青山周。一応小学校の時からの知り合いでいわゆる幼馴染みという奴だ。

三神が消えて以来、零輝は人との交友関係を絶っていた。友人の急な変貌についていけず友は周りから去っていった。が、その中で周は未だに構ってくれている。

零輝も感謝はしているが……とにかくこの男は暑苦しい。昔も今も変わらない印象である。


「……やはりフックじゃ足りねえか」

「ん?確かにな。キレはそこそこあるけど全体重をかけたストレートぐらい放たないと俺という壁は壊せんぞ」

「……うっぜぇ」


心底ダルそうに呟く。浅黒のその男はふふん、と胸を張って立っている。正直、鬱陶しい。

とりあえず、気をとりなおし亜緒が見えていないことを確認してみる。


「ところでシューさんや」

「なんだい、泉田屋さん」

「俺の周りに何か見えるか?」

「お主も悪よのぉ、って某徳川一門の悪役の真似じゃないのかよ。予想外だぜ」


心の底から純粋に周を殴りたくなる。しかし、二度はやらないお約束なのだ。

今日の八時からのドラマの著作権は侵害しない方向なのだ。

こみかめに手をやり一回咳払い。


「……俺の周りにひ」


――それ以上言ったら痴漢と叫びますよ


「どい顔をした人がいないか?」


霊力で話しかけてきたその言葉には本気の殺意が籠っていた。

どうやら彼女はこの言葉に必要以上に反応するらしい。


「お前の周り?いや、俺の目には該当する奴は一人しか見当たらない」

「……ならいい」

「知りたいか?それはお前だ……って俺の振りにちゃんと乗ってくれよー!!」


バカらしい。本当に馬鹿丸出しで周は泣き出す。とにかく暑い男なのだ。


「くくくっ……朝から相変わらずのテンションだね、二人とも!」


突如後ろから笑い声を含む独特の女の子のアニメ声がした。振り返るとやや身長の低い少女がセーラー服を着て鞄を胸に抱えていた。八重頭明子だ。

また厄介な奴が来たと頭を抱えるなか、周とは反対側の零輝の隣にくる。


「おはよう、シューにレーキ。今日も一日頑張ろ」


ため息。同時に彼女を見る。それから、脱力しそうになりながらダルそうに周を見た。

周にもこちらを見られていた。ブレザーに身を包んだお互いを。


「……八重。今度はなんでその格好なんだ?」


今回は零輝が負けてしまい、仕方な~く尋ねる。相手の答えも予想通りのものだった。


「ん~。着てみたかったからかな」

「うちの学校の制服は?」

「家!私は理由もなく縛られるのがだいっ嫌いなの!」


とまあ、八重頭は自由奔放なのである。普通に授業中に弁当を食いながらノートをとっているような奴だ。

それでいて入試では上位の成績をとり奨学金を貰って学校に通っている。

容姿も端麗。イギリス人の血が1/4混ざったさらさらの金髪を腰まで伸ばし、両側をリボンで結んだいわゆるツインテールにしている。小悪魔系とでも表現するのだろうか、勝ち気で真ん丸の二重にイタズラそうな口、など諸々の顔のパーツが綺麗に整列している。

本人は少し丸顔なのを気にかけてはいるが、整った顔には変わりがない。

更に、出るところは出て、引っ込むべきところは引っ込んでいる。小柄の体にもて余す程胸は出ている。

天は二物を与えず、というが学才と美才を八重頭はもっていた。

世間の理不尽さをひしひしと感じながら周と零輝はダラン、と腕を垂らす。


「まあ、こないだの暑いからって着てきた水着よりはましだわなあ」

「……あの時は本当に死ぬかと思ったぜ」


お互いを見つめ合いため息をつく。

諦観。達観。人はそれを諦めと呼ぶ。

所詮は変人の集まりでしかないお互いを見て、零輝はさらに脱力。


「類は友を呼ぶってね……」


――失礼ながら私は変人じゃありません


「どう?可愛いでしょ?」

「……えーと?」


八重頭はその可愛らしい顔で様々なポーズをとる。

対して零輝は言霊と発言、両方に首を捻ることで疑問をアピールする。


「……はあ、お前が色気を使うとろくなことがねぇ。嘘をつけない零輝を困らせんな」


あとお前に向けられているんだからな、と周に横目で見られながら忠言される。

無論、零輝は聞いていない。


「あはは、シュー。わ、私、色気なんか使ってなんかいないんだから。お、面白い想像だねぇ。こ、このわ、私がレーキのために毎日服を変えている、って。お、オタク系のライトノベルでも書いたらどう?」

「全てのライトノベルに謝れ!というか、口が言葉よりもものを言っているぞ」

「……馬鹿だな。それを言うなら目だろ」


捕捉しておくと、零輝は八重頭に先程からチラチラと顔を伺われていた。

ただ、気がついてはいないし前を向いている。

もう、全ての無視を決め込んでいた。


「こいつは態度がものを言っている。ていうか何故あれで気付けない」

「……学校とかダルいな」

「はあ……鈍感だねぇ……ってまたお約束を破られた?!え、何?そこは“なんのことだ”とか言うとこじゃない?」

「……え、テニス部?遠慮しとく」


きいてねー!、と周は天を仰ぐ。そんな周に八重頭が捲し立てた。


「それよりシュー。私はレーキのことなんて……好きだけど嫌いと言うか、発展したいというかとどまりたいというか」

「……なあ、俺もう先行っていい?なんか朝から疲れたわ」

「式は国内でいいというかいけないというか、子供を産みたいというか産みたくないというか」

「もう、前の2つは前提じゃねえか。よかったな2つ解決して。あと、先に行っていいな」

「とにかく、女の子がちょっとサービスしただけで、色気使ったとか思っているの?それ、エロゲーとかでついた偏見だよね?もっと現実見なきゃ駄目だよ!」

「とりあえず俺は先に行きたいんだが」

「自称テニス部のエース!あなたを……恋してなんていないようなでも少し気になる人がいる乙女が調教します」

「……誰も俺の話を聞いてくれないなあ!!てかお前のデレはウゼェ!!」


周は八重頭に引っ張られ、先に行ってしまう。

普段、毎日見る光景だ。……が、例外が一つ。亜緒の存在だ。

話に加わりたくてウズウズしていた亜緒は口をヒクヒクさせ、胸の前で拳を上下に振っている。


「……たく、今から学校につくまではもう俺に興味ある奴いないから話して大丈夫だ」


二人の姿が見えなくなってから、喋れる喜びを全身で表す。

亜緒は浮かれて気が付かなかったのか足元の石につまづき、コケた。

それでも笑顔だ。よかった、とこの瞬間だけは素直に思える。


「面白い方達ですね」

「いや、どちらかといえば面倒な奴らだ」


首を横に振る。素直な気持ちだ。

鬱陶しい。本当にあいつらは馬鹿だ。


「でも、れーき君は少し生き生きしていました」

「……そうかな」

「そうですよ」


零輝にとって周・八重頭の存在は未だに自分に好意を接してくれる友達だ。他の人よりは明るく接している自覚はある。


「ちなみに彼女との関係は?」

「……お前以上周以下だ」

「つまりませんね。もっと上の関係かと思ったのに」

「……例えば?」


そうですね、と亜緒は少し考え言った。


「二番目、ってとこですかね」

「はあ?」

「三神さんの次、ってことです」


困ったことに亜緒の勘違いはまだ終わっていなかったし、それに零輝も気づいていなかった。


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