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「お客様~、牛丼定食と牛丼の特盛をお持ちしました。どうぞ召し上がりください」


料理の品を持ってきた店員の声さえ、雑音にしか聞こえない。


「少し無駄話をし過ぎましたね」


亜緒は食事前に変な気分にさせたことに申し訳そうにしながらも


「では次に“霊感”について話しましょうか」


と、強引に話を続ける。零輝はおう、と返し力なく備え付けの箸をとった。


「まず、霊感というのは霊を感じることができる能力のことを指します 」

「霊耳とどう違うんだ?」

「まず、霊耳は霊の発言だけでなく私達の生活音――足音とか物音とか幽霊の遠隔通話方法――言霊とでもいいましょうか、とにかくそのような音を聞くことができます。今回、私の音を聞くことができたのもそれのおかげですし、普通の霊感の強いだけの人では無理なことです」

「つまりは俺でなければならなかった、と」

「ええ……そうです。それに関しては感謝しています」


あれだけしつこくされれば誰だってなぁ、と腹の中で呆れる。

だが、目を反らしながら紅潮した亜緒の姿を見ると悪い気はしなかった。

今までの気分が回復したような気がし、相変わらずのローテンションで質問を続ける。


「で、霊感というのは?」

「霊感は……今、私が見えるのが霊感が働いてる証拠です」

「だろうな。そういうのってむしろ“霊視”とかの言葉があてはまる気はするが」

「少し違いますね。例えば貴方は私ははっきりと見えますよね?」

「つまるとこ、考えたくもないが、あの昼間の青色も見える人が見たら人に見えたと?」


零輝は一瞬、亜緒が詰まるのを見逃さなかった。が、とりあえず放っておくことにする。

亜緒もなんでも無かったように話を続けた。


「……はい。とはいえあの程度の霊力では規格外の霊感が要りますが。更に言うなら霊視は、見えることに特化した能力なので、もうちょと特殊な事……そうですね、“遠視”みたいなことができると思います」

「……結局、霊耳も含めて、霊に五感で干渉できる能力って感じか」

「そうですね、それでいいと思います。あと」


亜緒は何かを思いだすように言葉を付け加える。


「霊感が強いかどうかでは霊力の強さに関わります」

「霊力?それは生命力みたいなものだと考えればいいのか?」

「少し違いますが……まあ似たようなものかと。私達はそれがないと自身の力を発揮できません」

「力、ってポルターガイストみたいなものか?」

「はい。ただ、痛いのであまり使いませんけど。あと、霊力の伝わりやすさは霊力によって比例するんですよ」

「要は高ければ高い程伝わりやすいのか?」

「そういうことです……霊は霊力が尽きてしまったら、その場で動けなってしまうんです。でも霊感が高い人間がいたら簡単に霊力は補給できるんです。だから今回、触っただけで私が動けるようになったんですよ?」

「つまり、亜緒は霊力がなくなって動けなくなり、俺が動けなくなった亜緒を助けたか。……カーレスキュー隊かよ」


急に密かに感じていた、やったことへの達成感が馬鹿らしく感じた。

それから、食事が終わるまでお互いに無言で箸を運んだ。


「……まあ、大体わかった」

「よくこんな非現実的な事がわかりましたね……」


いつの間にか特盛の牛丼を食べ終えていた亜緒はあきれぎみに呟く。少し疑問を覚えるが、代わりにもう一つ気になっていたことを質問した。


「そういえば……俺は君と話している間、霊力の受け渡しをやってるのか?」

「……まあ、接触はしてないので微量ですが、そう思います」

「亜緒は霊力を使いながら生きてるんだよな?」

「少し私は他の霊と違うのでその言い分は間違ってますが、大まかに言うとそうですね」

「つまり……俺は亜緒にとりつかれたのか?」

「 ……えっ?あ、そうなるんですかね?」


ニヤリ、と笑って亜緒は手を差し出す。


「これからは私の専属として宜しくお願いしますね?」

「誰が……」


なるか、言いかけ、亜緒の先程の顔を思い出す。

物憂げで寂しそうなその顔は何故か脳裏に焼き付いていた。払いかけた手を凝視し、それから瞳を見つめる。


「やっぱり……駄目ですか?」


ウルウルと揺れる瞳で見上げてくる亜緒は美しい。

でも、その目にはあきらめと許容、そしてほんの少し、僅かに感じとれるだけの期待の色しか宿していない。

はそれがとてももどかしく――どこかの不器用な誰かさんを思い出す。

亜緒の手を放すのはとても危なっかしく感じ、その上、美しいはずの瞳を、絶望で染められた瞳をこれ以上見るのは耐えられなかった。

なんでもいいから亜緒の喜ぶ姿が見たい。だから――


「わかったよ……だから……泣くな」


だから、零輝は亜緒の手を握る。

やってしまってから、気恥ずかしくなって目を逸らす。


「え?今……なんて?」


そんな零輝を覗き込み、亜緒は驚いたような顔で聞き返した。

顔には先程と違い驚きと喜びが混ざりあっている。

零輝は覚悟を決めて、亜緒の冷たい左手を、両の手で強く、強く握り締め、目を見つめて叫ぶ。


「ああ、契約してやる!“僕”が契約してやるよ!話相手にもなってやる!もう、寂しい思いなんかさせない!」

「…………っ!」

「だから!約束しろ!もう泣かないって!笑う!笑って暮らす!って!……でないと“僕”の親友に申し訳がたたない」


一瞬の間。零輝はまた目を逸らす。どうにも気恥ずかしくて仕方がない。

他人には見せたくない地まで出してしまった。

でも、それだけ亜緒を、失われてしまった親友のように、ただ見つめているのは――

できなかった。


「れいきくん。れーきく…ん!れーきくん!うわぁぁぁん」


零輝は亜緒に胸へと飛び込まれる。

今までの不安、悲しみ、切望、孤独など全ての感情をぶつけられながら、強く、強くすがりつかれる。

優しい笑みを浮かべ、亜緒の背に手を添えようとして、


「…………………っ?!」


ようやくあることに気付く。

直ぐ様真っ赤になって亜緒を必死に引き剥がそうとした。

お忘れかも知れないが、零輝達は○野家の店内にいた。残業帰りのおじさんのたむろする吉野○の中に。


「…………ふぅ、あの席に烏龍○を2つ。会計は俺に足してくれ」

「……あの客にとん汁を頼む。会計は俺にお願いする」

「…………悪いがこのガリガ○君をあの席に届けてくれないか?」


しかも、紳士なおじさん達は野次を飛ばすわけでもうるさいと怒り出すわけでもなく彼らを応援――実際そういう間柄でもないのに――してくれているのだ。

やりにくいことと恥ずかしさはこの上ない。


「あの~お客様。非常に申し訳ないのですが他のお客様の迷惑に……」

「いいじゃねえか。吉○家の角で彼らはラブを叫んでいるんだ」

「はぁ……しかし……」

「……(フルフル)」


無言で首をゆっくり振るおじさん。

唯一の味方店員ですら、ハードボイルドおじさん同盟には撃沈してしまう。

逃げよう、思った時には出入り口は何故か塞がれていた。

挙げ句の果てに――


「えっと、私の専属として霊力を提供する契約をしていただけるんですよね?」

「そう言っただろ!!というよりどう……うにゃっ?」

「早速行使させていただきました♪」


亜緒は握っていた零輝の手を放し、生命力と霊力ってほぼ同義なんですよ、と言ってスルリスルリと出ていってしまう。

何だか疲れてしまい机の上に伸びた。


「ふっ……若いねぇ……」

「俺にもほろ苦い思い出があるよ」


なんか、同じ席に移ってきた。


「不幸だ……」


夜空を仰ぎながらそう呟いたのは、無言の圧力をかけてくるおじさん達にあることないこと話し、泣かれたり、同情されたり、応援されたあと、やっと解放された一時間後のことだったりする。

BGMは負けないで、とコールしていた。


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