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零輝は昨日、声の主に時間と正確な場所を聞きそびれたため、余裕を持って朝早くに家を出た。

服装は黒のトレーナーに灰色のジーンズ。最後に黒いコートをである。

このコートにはポケットが10個付いていて、修学旅行の際、万が一怪我した時ための絆創膏や緊急時のアラーム機、メモ帳やペンなど色々な物を入れてある。


「まさか、こんな時に役に立つとはなぁ……」


現実逃避気味に中学での修学旅行のことを回想する。


友達と回った地味な印象を否めない京都市街や八坂神社。

金色に光っていたものの、安っぽく見えた金閣寺。

地味で普通のお寺と変わらない銀閣寺。

刺激的でなかった修学旅行も いつも共に笑い、共に行動をしていた、三神の存在があった。


(三神……今となってはどうでもいいことだが、俺は本当にこういう人を助ける等百害あって一利なし、っていうのはガラに合わねぇんだよ)


今は無き親友に愚痴ろうが鬱な気分は全く晴れそうもない。自分がいかにお人好しかを考えながら歩き続ける。


直線距離2.5キロ。実質5キロちょっと。その長い道程を経て零輝はようやく笹金横丁に辿り着いた。


「予想外に時間がかかったな……」


若干千鳥足になりながら電柱にもたれ、“笹金横丁”と書かれた看板を見上げる。

さっき市街地で見た時計の短針は10と11の間を指していた。

これからどうしようか、と思い方法が何もないことに気付く。


「……いやどうすればいいんだ?」


手掛かりは夜に少女がくれた“ここに来い”というメッセージしかないし、肝心の道しるべは昨日の夜以来方向を示していない。


「おーい。いるかー?生きていたら返事をしろー!」


大きめの声を出して呼び掛けるも返事はなく、


「……セルフサービスに喜べるのは10才までだと思うんだ」


零輝はポツリ、と呟いた。


結局、迂闊に笹金横丁に入らぬよう、闇の奥底を見るかのように、笹金横丁入口の元・商店街を凝視することにする。

右手から八百屋、家具屋……左手から時計屋、骨董屋……商店街という名の通り色々な店が立ち並んでいた。が、すべて埃被ったシャッターで閉ざされている。

閉鎖物の所々には黄色と黒のストライプ模様のビニールテープが×印に貼られ、中にはうっすら卑猥な落書きがされているものもあった。


「……本当にやばそうだ……」


何が不味いのかはわからないのだが、脳は肉体に危険を告げる。

空気は重く耐え難く――どんな鈍感なやつでも直感的にここの黒い雰囲気がわかる、とさえ思わせる。


「……行くか」


知らず知らずのうちに汗をかいていた拳を握りしめ、覚悟を決める。零輝は笹金横丁と書かれた古い看板の下を潜った。


笹金横丁の中は予想を遥かに飛び越えるひどさであった。

至るところにシャッターを閉じた店に落書きは勿論のこと、おびただしい血痕がついたシャッターまである。

臭いもひどい。

かび臭いのは序の口。あちこちに生ごみをぶちまけたような鼻につんざく臭いもし、歩いている最中に鼻を手の甲で覆った。

しかし、慣れは怖いもので、徐々にそのような光景、臭いに慣れていく。

零輝は商店街の至るところをくまなく歩きつくす。肝心な手掛かりは未だに見つからない。


――どうすればいいんだよ?


内心、焦りはじめていた。

笹金横丁や少女について聞こうとしても、人の姿がない。自分を呼んだ声も聞こえない。

時間だけが無情に過ぎていき、精神もそれに比例して擦り減る。

通り過ぎようとした、横丁中心部の広場の時計台は2時を指そうとしていた。


「お腹空いたな……」


空腹感に耐えながら路を一歩一歩踏み締め歩き探し回る。

が、疲れも溜まっており、再度広場に着いた時には、広場の角にある木のベンチに体を放り出した。限界を越えたミシミシという悲鳴がこだまする。


「……何もないのにどうしろと?」


少し怒気の入った言葉を呟くと、足をブラブラと揺らす。ベンチがミシミシと立て続けに音を出した。


「俺の幻聴だったのかな……」


自分置かれている状況が分からなくなり、ボーと広場の中央にある時計を見上げる。

いつの間にか3時も過ぎていた。

足も棒になるほど疲れ、空腹感は痛みに変わりつつある。


「……はぁ」


溜息をつきながら、帰ろう、と椅子から重い腰を上げた。無駄に危険な行動をしたことに自分の精神衛生を再度疑い帰り道への歩をいくらか進めたところで――

例の少女の声が聞こえた。


――助けて、助けて


零輝は立ち止まりコミカメに手を差し、鬱陶しそうに言い放つ。


「もう、ダルいんですが……

というよりもうちょっと早く登場していただけないものかねぇ。

……まあいいか。何言っても無駄そうだし。……さっさと場所を教えろ」


――私は笹金横丁の裏通りにいます


「……行き方は?」


――裏通りは普通には行けないのです。まず、広場から入り口に向かって行き、二番目の角を右に曲がってください。そして、途中に『島田屋』という呉服店があります。まずは、その店の中に入ってください


「……わかった」


返事をして即座に向かう。指示に従い入り口に向かって2番目の通路を曲がる。

時代錯誤としか言い様のない、古く派手な、ショッキングピンクの看板が見えた。黒い文字の塗装はほとんど剥がれていたが、薄く『島田屋』と書かれていたことはわかった。


「ここか……」


しかし、どこの商店もシャッターで固く閉ざされているように、『島田屋』も閉じられていた。


「……いるのか?とりあえず入る方法教えてくれ」


いるのか、いないのかも分からない声の主に問いかけるが、無音だ。


「俺、このまま帰っても誰にも文句言われない気がするんだけど……」


呆れながらもとりあえずシャッターに軽く蹴りを入れてみる。

すると老朽化していた年代物のシャッターは轟音を立て店内に倒れた。


「器物損害罪にならなきゃいいんだが」


ポリポリと頬をかくと零輝は砂埃を舞い上がらせ店内に入る。中にはまだ呉服店であった頃の名残が残っており、辺りには服が散乱していた。

急に奇妙な違和感を覚える。店の入口をはさむようにあるガラス張りのウィンドーショップを振り返る。

左手のものには雑で寂れてはいるもののマネキンがあり衣服がかけられている。

対して右手には衣服らが全く飾られていず、ひび割れたガラスが存在した。

何かしらな違和感を感じ、ガラス製のドアを開け、中に入る。


「……ごほっ。埃まるけだ」


かつて色々な服が飾られていたこの部屋は、塵芥が光によって見えるほど住み着いていた。


――助けて、助けて


再度少女の声が響く。

何故かはわからないが、何となく近くにいる気配が感じられた。


「はいはい」


適当に相槌を打ち部屋の右側を探り、隠し通路捜す。……何もない。

左手を見る……何もない。

八方塞がりだ。


――助けて、助けて


また聞こえた。どうやら左右からではない。

零輝は床を辺り隈なく凝視する。

今まで聞こえてきた脳内の響きが今は下の方からしてきた気がしたのだ。

よくよく見ていると右奥のタイルがずれていた。

両手を使ってタイルを外す。


「隠し通路か……」


零輝の前に地下へと続く、人が一人通れるくらいの幅の階段が現れる。傾斜は急で中は暗い。

零輝は少々の危険を感じながら、両手を壁につけ、階段を下っていった。



――助けて、助けて


階段を下りきり、じめじめとした陰気な地下通路を通り抜ける。表の世界とは別の通りに出た。


空が灰色だ。周りの壁も灰色だ。

前後にのびる通路は灰色だ。

無数にでる横道さえ灰色だ。


「ああ……灰色だ……」


零輝の心は同化するよう灰色になりつつあった。自分の存在意義から疑いにかかってしまうような、そんな灰色に。

灰色は世間の象徴だ。灰色は死の象徴だ。

負けない。負けたくは、ない。


「信一は生きている」


彼の帰りを待つ。今の零輝が望むことの全てだ。拳を握り締め、空気に抗う。

渦巻き、うねり、威圧をしてきた負の空気はおさまってきたように感じた。


――助けて、助けて


耳に聞こえる声に我に帰り、現在地を確認する。どうやらここが知る人のみぞ知る、“裏通り”のようだ。

声は奥から聞こえてくる。


「……とにかく、まっすぐ進むか」


一歩一歩慎重に早足で進んだ。



――助けて、助けて


「……右か」


――助けて、助けて


「今度は左だな」


声を頼りに迷路のような通りをゆっくりと着実に奥へと進んでいく。

いつしか、最深部と思われる緑の芝生に覆われている広場についた。

中央には石碑。その上に黒髪の少女が横になっている。


――遠目でよく見えないけれど……意外と可愛いかもしれない


石碑の上で眠る少女は“美少女”の分類に入るものであった。雪膚とよんでも申し分がないほどに肌は白くみずみずしく、髪は長く黒く艶やかでそのくせ手入れが行き届いているのかさらっとしている。

少し幼さを残したあどけない顔の形を一つとっても素晴らしく、唇は小さくふっくらとした形をしており、眉毛は柳の様にうっすらとしていて、鼻もすぅ、と通っていた。

しばらく放心状態で女の子に見とれる。

はっ、とここに来た目的を思いだし、呼び掛けてみた。


「俺を呼んだのは君か?」


――よくぞここまでおいでくださいました。私は貴方の目の前にいます


「だろうな。で、感動の初対面といきたいがこちとら疲れているんだ。何をすればいいんだ簡潔に教えてくれ」


――私に触れてください


「……まさか胸に触れろとかいうんじゃないだろうな?」


――お望みであらば――


「うっ……く……と、とりあえず発展途上国にはあまり」


――そうですか。こちらも需要はあるのに残念です


「お前の狙いはその層でいいのか?」


半ば呆れたように苦笑いをしながら白いワンピースを着た、漆黒の長髪を特徴とする少女に近づこうとする。なんだ簡単じゃないか、と心で鷹をくくって。

だから、視界に青い物体が飛び込んで来るものに気付くのが遅れる。何かにぶつかる、いや押された。


「……うぉっ」


突然の出来事だったので、尻餅をついてしまう。

再び前を見つめた時、目の前にあった青い物体は飛ぶ、というよりも浮くように、空中に漂っていた。


「一体これは……?何かに押された気がするのだが……」


――気をつけてください。それは、敵です


「……やっぱり簡単には行かないんだなぁ、人助け一つにしても」


ため息。やり取りの間にも気体状の物体が膨れたり縮んだり、ナメクジのように近づいてくる。


「……キモいな」


あまり気色悪さに声とも言えない呻きもらす。


――落ち着いてください。あれは貴方が思っているほど強くありません


「精神的な一撃は大魔王クラスを誇っているが?あれは一体……」


――それは……今は言えません


「なんでだよ?」


少年は少し声を荒げ、ぶっきらぼうに言葉を続けた。


「悪いけど俺はな、お前を捜すと決めた時から思っていたんだが……俺に言うべきことがあるんじゃないか?」


――………………


「お前は俺に言わないことが多過ぎる。そりゃ、全てを話せとは言えないさ。俺にだって言いたくないことの一つや二つある」


そこまで一気に言ってから息をつき、だけどな、と言葉を続ける。


「今俺は命を賭けている。ちょっとばかり表現が大袈裟かもしれないけれど少なくともそれくらいの覚悟はしてここにやって来た」


――……それに関してはある程度感謝をしています


「だったら、せめて俺が今置かれている状況くらいおし」


――でもい……あ、しまっ……危ないです!


警告の声に反応し、地面に伏せかけた体が浮遊する。今まで歩るいてきた道が物凄い速さで後ろに流れていき――

直後に身体全身に衝撃がはしった。


「っ、痛ぇ」


いつの間にか古いビルに叩きつけられていた。事実を確認するとともに身体、特に背中に激痛が走る。

痛むのを無視して動こうとするが力が入らず、地面に四つ這いに転がる。

上に追い討ちのように砕けたコンクリート片が降りかかる。

どうやら気体状の物体がやったらしい。


――大丈夫……ですか?


「まあな……で?これの何が弱いんだよ」


体勢を維持したまま、身体にかかった砕けたコンクリートの破片を払う。全身から血が出ていた。

幸いにも、打ち所はよかった。動作に障害はなく、呻き声を出しながら立ち上がる。


「……一体……何をした」


――……イマスグタチサレ


少し朦朧とする頭に聞いたことのない、不快な不協和音が響く。歯を食い縛り、耳を傾けた。


――モシクハイノチヲムイニステルカ


「……一体何者だ?」


出来るだけ毅然とした声をつくり、気体状の物体に問う。


――ワレハ……マモルモノ。オンナノモトニ……キタモノヲ……コロス


「……ああ……俺は巻き込まれる運命わきぇね」


物騒な発言に思わず呟いた言葉の途中で、舌を誤って噛んでしまう。

恐怖のあまり足がすくむ。


――リキリョウノサハワカルダロ

タチサレ……サスレバイノチハウバワナイ


冷や汗をダラダラかきながら目前の物体に対処する方法を考える。

まともな案は、ナメクジに似ているから塩をぶっかける、という古典的な方法しかでない。


――早く、私に触れてください


「……は?」


――とにかく触れてください。そうしてくれればあとは 私がやります


「……出来るのか?」


――はい。それくらいは


「……わかった。でも近づく方法が問題だ。あの物体はお前の身体に誰にも近づけさせないようしているんだろ。武器も何も持ってない俺にどうやって、やつに対処すればいいんだ?」


――自分で考えてください……。とにかく貴方の皮膚にさえ掠りでもさえすれば……あとは私がやれますから……


「考えろってもね……」


今できることの全てを考えてみる。

少女のところまではおおよそ50メートル。全力で走っても6.5秒くらいはかかる。体調も考慮に入れるなら7秒はいるかもしれない。


――……いくら足が速くても真っ正面からは危険だ。回り込むか?でも変わらない。


いっそのこと逃げる、という手もありだなと考える。少女には申し訳ないが一回戻って装備を整えてから出直した方が確実だと思ったのだ。


――仕方ないな。ここは一旦嘘をついて逃げて、ん……って嘘!?


零輝は閃いた。事態を切り抜けられるかもしれない作戦を。

前提として彼女を生かすように心がけているのが最重要だが、間違いない。

勇気を振り絞り気体状の塊に話しかけた。


「分かった。お前の言う通りここを去ることにするよ」


――ナラ、イマスグタチサレ……コゾウ


更に重々しく警告してくる。

雰囲気に押し負けそうになりながら、背を向け、ゆっくりと歩きだす。

そして、何歩か進んだところでポンッ、と手を叩き、おもむろに言った。


「そーいや、俺、今、爆弾を持ってるんだよなぁ」


――ソ、ソレガ……ドウシタ


気付かぬように後ろを向く。僅かに身体を縮ませたのが見えた。

これはいける――そう確信する。


「……元々、俺はそこにいる女の子を助けに来たんだ。用心深く武器くらい持っていないわけがない。そのためにわざわざ爆弾をつくってきた」


――ウソヲツクナ。オマエゴトキガツクレルワケガナイ


「そんなことはない。今の時代大学院生だって原爆をつくれるんだ。トルエンをニトロ化して作るTNTなんぞ自宅で簡単に量産できる」


――……ウソダ、ウソダ。


「でも、困った。倒すべき相手がガス状のものとなると物理的なダメージって無理な気がするんだ……」


――タシカニワレニブツリテキナコウゲキハクラワセラレナイ


「だよな、よかった。暴発する恐れがあったから、丁度捨て場所を探していた」


クスクスと笑いながら締める。

当然ながら、ハッタリだ。作るだけの知識もお金も時間もない。

だが――効果はあったようだ。体が大きく波打ち出し、声が一層憎しみに満ちたものに変わる。


――ヤメロ……ステタラ……オマエヲ…………コロス


「……何を慌てている?お前には被害が及ばないんだ。全く、不公平だな。TNTって四階建ての鉄筋コンクリートのビルをたった100グラムで破壊できる。他の所でやったらテロになるな」


――コゾウ……。オマエハウソヲツイテイルナ?ホントウニソンナモノヲモッテイルナラ……


「言わないか?ははははは……どうだろうなぁ?」


あくまで自信があるように。大きく高い声で高笑いをしながら覚悟を決め、作戦の火蓋を切る。


――そうだよ。そんなものは嘘だ。嘘だけれどもな。


「これで爆弾である可能性も出てきてしまったわけだ」


言い終え、コートからメモ帳やペン、ナイフなどありったけのものを出す。

物体は零輝が何かをしようとしているのを悟るが、背中が視界を遮断し見えない。

突如、零輝は後ろに手にしたもの投げた。

返す刀で少女の元へ左から回り込む。

物体は一瞬反応が遅れる。嘘だと思っていても万が一の可能性を考えてしまった。


――コロス、コロス、コロス


少しでも零輝に勝てる手段があったら、気体状の物体も迷わず止めに行っただろう。しかし、ここで圧倒的な自他の実力差が仇となる。

相手のことを低く見るあまり、空を舞う何かを壊してからでも間に合う、と過信してしまった。

色々なものが投げられるのを見た物体は、零輝を一瞥し、一旦あきらめる。

投げたものを追いかけ、全て原形を留めない程に壊した。ここまでおよそ五秒弱。

たった五秒間。されど、五秒間。

その五秒間、零輝は少女のほうへ全速力で走っている。

回り込んだとはいえ50メートルを7秒弱で走る快速を飛ばし、彼女に肉薄していた。

物体の罵りが追い付く直前、ぎりぎりで少女のもとに着き――

女性にしか得られない清らかな顔に触れる。


しかし――


「……おい!約束違反だろ!」


彼女は目覚めない。その間にも、物体は凄まじく憎悪に満ちた声をあげ、突進してくる。


――コゾウ……ヨクモ、ダマシタナ……


「……チクショウ」


尻餅をつきながら両手で顔を覆う。詰みだ。物体が残り数メートルまで迫り、死を目の前にした、その瞬間、


「死ぬのは貴方のほうです」


ピクリとも反応しなかった少女が横になったまま手を翳す。吸い込まれるように物体は手に――

零輝、少女、物体。全てのものの時が停止する。


――ウォォォオ……


一瞬。時が止まったように思えた一瞬は過ぎ去り、物体は断末魔の声をあげ消え去る。

後には静寂のみが残された。

零輝はヘナヘナと座り込み胸を撫で下ろす。


「……助かったのか」

「ええ、命に別状はないはずですよ」


少女は鈴のなるようなかわいらしい声で述べる。それを聞いて更に脱力。

己の疲れを癒すようにコミカメに手をやる。


「……どうしてすぐに倒さなかった?本当は触った時点で意識は戻っていたんだろ」

「あれ?気がついていたんですか?」

「……当たり前だ。起きていなけりゃ、あんなタイミングで落ち着き払って行動できるわけがない」

「あはは、それもそうですね」

「……理由は?」


快活に笑う少女にコミカメに手を当てたまま、心底ダルそうに問い詰めようとする。が、頭が段々とボンヤリしていき、


「何故って……わざわざ逃げる相手を追って潰すのが面倒だっただけですが。ってあれ?大丈夫ですか?」


緊張感が解けたためか、疲労困憊でエネルギーを切らしてしまったためか、話の途中で俯せに倒れてしまった。


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