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エピローグ

風が吹く。まだ夜の冷たさが残った風だ。

辺りをぼんやりと眺めてみる。

空は暗かった。だが、陽が東から少し顔を見せ、空を照らし始めている。

笹金横丁全体を見渡せる、近くにある山の麓。そこに少年は――泉田零輝はいた。


「これで終わったんだよな……四神」

零輝は今回の事件の幕開けとなった、亜緒――今は取り付いているらしい神格の方である四神に目を向ける。

笹金横丁を何やら感慨深い目で見ていた少女は、ええ一応、と返した。

左手には大きな鎌。反り血がベットリとついている。

「……で、お前なのか?俺に死ぬと警告したのは」

「そうです」

「理由は?」

四神はゆっくりと首を振る。

「あなたは知るべきではなかった。だけど、私のせいで最後の一線を越えてしまった」

「そうか……」

零輝はその言葉に頷きはしない。が、実際のところ意味は理解した。

人間はこの世界を知るべきではない。なぜなら、知る人は消えることの出来ない憐れな“怨念”に襲われるから。

「ごめんなさい。巻き込んで」

「……気にするな、とは言っても無理か」

「ええ……これから別の人格に移っても私は後悔し続けるでしょう」

後悔からか、もしくは謝罪の意からか四神は頭を下げる。零輝は苦笑をする。

「で?亜緒が霊になったのはあんたのせいか?」

「なぜ、そう思うのですか?」

「願い、願われ、信じ、信じられてこそ霊は存在できるんだろ?あの子にそこまで、生きたい、とか、他人を押しのけてまでやりたい、みたいな意志は感じられなかったからな」

「……さあ、どうでしょう?それに、今のあなたにとって大切な事は別にあるのでは?」

「そうだったな。彼女に合わせてくれ」

四神は待っていました、と言うように少し笑うと、薄く光る自分の体を強く握り締めた。一瞬にして雰囲気がそれまでのものからちょっと変化する。


彼が1週間触れ続けた暖かい空気に。


「……亜緒」

零輝が呟くと亜緒は光る自分の体を見つめる。満足できた霊のみが成仏の時に発することのできる光。それが暖かに、はい、と答える亜緒の体を包みこんでいた。

「お別れだな……」

「ええ……」

零輝は出掛けた涙を堪えながら笑いかける。幸福な結末なのにな、と思いながら。

「もう……最後くらい笑ってくださいよ……」

子供のように頬を膨らませながら言う亜緒も、また目の端に滴を宿していた。

笑って、泣いて、笑い、泣く……

とても、不自然な表情で見つめる二人が出来上がる。何回そのサイクルを繰り返した頃であろう。

足が消えかけた後、亜緒は再び口を開く。

「れーき君」

「何だ?」

最後の、もう二度と会えない友との会話。零輝は声を忘れないように聞くことに徹する。発光しながら消えていく最中、亜緒はイタズラな笑みを浮かべながら告げた。

「私も、信じてくれませんか?」

零輝は意味を悟り、頷く。亜緒は既に胸まで消えかかっていた。

やがて、最後の一欠片まで消える。見届け、朝日に包まれる笹金横丁に向かう。

両手を使って大きく深呼吸。肺に溜められるだけ目一杯の空気を吸って、


――例え誰が信じなくたっていいじゃないか。何が事実だろうが僕が信じていれば関係はない。


絶叫した。

「お前は!!死んでいない!!」

親友の三神信一とも違うその言葉で。

「亜緒は!!まだ!!死んでいない!!」


死んでいない、と大音量でこだまする山の奥の展望台。そこで双眼鏡を覗き込みながら男と女が会話をしていた。

偶然か必然かはわからないが、見つめる方向は笹金横丁の方角を向いている。

「……まあ、よくやってくれたわね」

「その通りだな。結果的に俺達は何の被害も出さずに事を終えることができた」

「とはいっても、犯人を殺す前に干渉がはいったのは誤算ね」

「まあ、君は殺したかったのだろうが……仕方がないだろう?」

「そうだけど。病院の妹の仇と考えると万死に値するわ」

女は愛想ない声で返事をする。その声に反応し男は少し含み笑いしながら告げた。

「それにしても本当にあの少年は気付かなかったのだろうか」

「さあねぇ……。頭がいいのは確かだけど門外漢だしね」

「まあ、気付かなくても仕方ないだろうな。まさか、彼女が本当は生きていて幽体離脱しているだけだなんて」

「でも、幽霊が牛丼を食べたり、机に触れたり、幽霊を信じていない人にまで見えるのは、おかしいと思っても仕方はないと思うんだけれど……」

「ま、相応の霊力を払えば不可能ではないしな」

女は寒さのためか、身震いをして肩をすくませる。

「ところで、13。あの子のことはどうするんだ?」

「あの子とは?」

「とぼけるのもいい加減にしてほしいね。泉田零輝のことだよ」

女は再度呆れながらも男を見る。珍しく彼が珍妙な白い狼男の姿をしていることに思わず笑ってしまう。

男は特に気にした様子もなく返答する。

「やつか?大丈夫さ。多分」

「そうか?」

「ああ。それに学校にいる間は君が守るし、奇跡の再開をはたしたあの二人が出来上がるかもしれない」

「でも、未来のことなんて誰も予測なんてできないだろ?」

「ああ、だからこそ、今俺達が格段動く必要はない。救いの手、なんてものは望まれてから出すから効果があるんだ」

「……でも」

言い募る女を男はめんどさそうに対処しながら、腰をおろす。

胸ポケットにあるタバコの箱を開ける。中身は空っぽだ。男は忌々しげに空箱を後ろに放る。

「タバコ、一本やろうか」

「いいや、結構。お前から何かを借りると尻の毛残らず一本むしり取られるからな」

「はは、ご名答」

女は妖艶な高笑いをあげる。

「しかし、狼男の目測を狂わしたり、情報を誘導したり……お前にしては今回、泉田をよくサポートしたな。上から何か言われたのか?」

「逆さ。上に見つからないように支援したんだ」

「大変だね。そのために同類までつくって」

女の発言に男は他人事のように鼻を鳴らす。それを待ち構えていたかのように後ろから一人の少女が現れる。

「おそくなったね」

二人は労うかのように片手を上げた。5日前、初めて霊というものの存在を知った少女に。

「笹金の人に憑いた奴の分体はほふっておいた。すごいね、このお札は」

「まあね」

女は肩をくすめる。女に少女は目を細めて追及した。

「霊は人の力では消せないのでは?」

「好奇心は猫を殺すぞ?……まあ、いいか。あえていうなら“四神のくずれ”」

「?」

「とにかく私は普通の生まれではないってこと」

悲壮感を含んだ声で言う。辺りを沈黙が支配した。

不意に静寂を破るように男が口を開く。

「今日のところはこれでいいな?」

男は後ろに向きながら、女性に確認をする。

「そうだね……一つ頼み事をしていいか?」

「悪いが、俺は他人の依頼を受けない主義だ」

男はきっぱりと依頼を断ろうとした。

「そう?でも、こんなお願いは駄目か?今度、君が操る人形で人形劇を妹にみせたいんだ。復活したばかりの私たちの妹に」

「何の劇だ?」

男は女の依頼の意図を理解できず、訝しげに言う。

今回の二人について、と女は端的に告げながらも、相手に自身のスマイルを見せる努力は忘れなかった。

「……なるほど。それは面白い依頼だ」

「だろ。もちろん私が見たいというのもあるが」

「まあ、暇になったら妹に会いに行く。そこでまた」

男はしぶしぶと了承しながら、女は満足そうに頷いて場から立ち去った。

この時二人は会話の駆け引きに夢中だったので、気付けていなかった。

何かを言いたげに少女が口を開いたのを。

「妙だな……」

少年を誘導するために小道具として渡された女の履歴書を取りだし、書かれていた新聞記事を読み直す。

目当ての資料はすぐに見つかった。少女の記憶が間違っていないこともすぐにわかる。

だからこそ彼女は茫然と呟いた。思わず履歴書を取り落とし、それは暗い森へと吸い込まれていった。

「嘘だろ……バカな……ありえない……まさか……事実を曲げたのか……?」


その古びた新聞紙のスクラップにはこう書かれていた。

“8月8日。笹金横丁で、犬の毛が入った鞄を持って四神亜緒さん(7)が殺害されているのが見つかった”


風が吹いた。それは僅かな湿り気があり、生命にはなくてはならない風だった。しかし、そんな風が吹いているのにも関わらず、ここだけは太陽の光が僅かに入りながらもほとんどは曇り空で覆われていた。まるで、いつまでも報われないどこかの誰かさんの心みたいに。


三神信一は生きている。

四神亜緒は死んでいない。


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