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「……なんで僕が霊力をもっとることがわかったんや?」
「……あんた亜緒と一回ぶつかっただろ。その時見えない振りをした」
「それが?普通の反応やろ?霊が見えない人にとっては」
「いや、そうじゃないのです。霊が見えない人の前に霊は存在できない。なぜなら霊は……」
願い、願われ、信じ、信じられてこそようやくその人の前に存在できるものだから、と栗本は続ける。植野は更に高く笑う。
「……つまり自分を認識してくれる生命体のみにしか霊は触れられない」
「要するに俺に霊が本当に見えていないならぶつかれるはずもない、と?」
少年と少女は同時に頷く。植野は拍手をしていた。
「で、それだけじゃないんだろ?突き止めたことは」
「僕を襲わせたのもあなただね。僕の体に残る霊力の残り香は大きいの3つに少し大きいの1つしかなかったし」
「……俺のパートナーを拉致したのもあんただ。理由は知らんがそこにいるのが物的証拠」
「この分だと8年前に起こった殺人事件ってのもあなたの仕業」
「八重を襲ったのもあんただな。本人が教えてくれたよ」
一つ、心当たりがないが、その痛快なほどに当たっている推測を聞いて、植野は更に哄笑する。愉快でたまらなかった。
そしてしばらく大笑いした後で不意に笑うのを止める。そして犬歯を剥き出しにして笑った。
「ご名答。全て俺――鵺野栄助がやったことだ」
零輝は徐々に植野の体が大きくなってきたという錯覚に陥る。しかし、それは違った。
本当に大きくなっているのだ。その上臀部からはふさふさの尾っぽが。耳からは三角に尖った鋭利な毛むくじゃらが。そして、口から鼻にかけて犬のように出っ張る。
人狼、まさにその言葉が当てはまる本来の姿に。
――ウォォォォォォ!!
「……先輩!!これは」
「道理で人がいないわけだね。どうやらあいつここの人の魂をのっとったらしい」
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振り返ると人が入り口からゾロゾロとこちらに向かってきていた。生気のない。そして、意志のない何かに操られているようなそんな目をしながら、ゆっくりと着実に距離を詰めてくる……
「君はここにいて」
「……わかりました。ご武運を」
そう言って栗本は身を翻し大量の――生けるゾンビとでも言おうか――に突っ込んでいった。少し広い、台座の置かれた広場には今、零輝と植野、その二人と死んだようにグッタリとして動かない亜緒のみが残された。
「いいのか?泉田。お前だけでは俺には勝てないぞ?」
「……どちらにせよ勝てない」
そう言って零輝は構える。正直、目の前の怪物から逃げ出したい。でも……彼女を、亜緒を救いたい。
理由もなく、そう思う。何か一つ理由があるとすれば、それが少年が戦う理由だ。
そんな零輝をみて植野はゆっくりと語りかけた。
「なあ、泉田。お前は俺と同じように親友に死なれたんだったよな」
「…………世間一般では悔しいことにそうなっている」
「だったら俺達の仲間にならないか?そうすればお前の親友にも会わせてやることが出来る」
その瞬間零輝は固まる。三神に会う。そのことはずっと望んできたことだ。
その時のために自分の人格を封印した。なぜなら、あの性格は友人と作り上げてきたもので誰にも踏みにじられたくなかったから。
必死に勉強もした。きっと事情があって帰れなくなっている三神のためにいなくなった時からのノートもコピーしてとってある。
それが零輝の敵意を止める。
「方法は?」
「そこの少女だ。しかみあお。この名を言えばわかるよな」
「……鹿水亜緒?それがどうした?」
そう言うと植野はやれやれといった風に両手を挙げて左右に首を振る。そして、告げる。
「死出の神。それが4の神の名前だと教えただろう?」
しかみ……鹿水。鹿水ではなく四神。
……死出の神。瞬間零輝の頭の中で色々な光景がフラッシュバックする。
初めて出会ったあの時。亜緒は怨念を消していた。 栗本が襲われたときもまた然り。亜緒は怨念を消していた……! 消えるために人を襲うようになってしまった悲しい化物。その化物を消していた。そんなことが、そんなことが普通の霊ができるなんて零輝は聞いたことがない。
「そう彼女は死出の神。とはいえそれは抽象的な概念で本来神というものは人の魂に寄生するものをさすのだが……まあ、いい。肝心なのは彼女の力を使えば死んだ人を蘇らせることだって可能だ、ということだ。その死出の神を俺は吸収して、操る」
「…………」
植野は全てを察した零輝にもう一度問う。
「泉田。俺達の仲間にならないか?」




