23
あり得ない、と栗本は言った。零輝はその真意を考える。
曰く、霊に探査そこまでの力はない。
曰く、霊が消えることはあり得ない。
曰く、怨念でもない霊がそんなに霊力を保有できるわけがない。
だが、実際に亜緒がそれをするのを零輝は見た。
当たって欲しくない予感は当たったらしく3つあった大きな気配の内1つは消え、もう1つも学校の敷地内から消えた。なお、保健室に有沢はいる。
亜緒はもう一度さっきの場所に戻ってもいない。それが示す意味は十中八九、亜緒が何らかに捕らわれたということだ。
さらに、どういうことかは考えたくもないがその大きな気配と同時に集合体の気配も消えたらしい。
「有沢保険教諭の履歴を調べた」
「……ありがとう」
図書室の中なので静かに会話する。
栗本は教師の履歴について 。零輝は8年前に校舎で起きた殺人事件に関して。今、零輝達は調べものをしていた。
とにかく何をするにしても情報が少ない。高校の校舎内にいたのだから部外者ということはないだろう。
要するに栗本を襲い、亜緒を襲った犯人を推測するための出来る限りの努力、をしていた。
もっとも手がかりが何もないので気になったことを調べているだけなのだが。
「まず、実の母親は生存しているが、父親と継母はすでに他界している」
「職は?」
「母親は現在専業主婦。有沢先生を引き取った父親は神主をやっていたらしい」
「……だから霊力をあんなにもっていたのか」
これで、不可解な点が一つ消えた。が、少し疑問に思う点がある。
「専業主婦?」
「それが?」
「……再婚でも したのか?」
「ああ」
栗本は手元の資料を見ながら情報を伝えていく。
「今はここから離れたところで再婚相手の夫と暮らているらしい」
「じゃ、妹は?」
「妹?」
栗本が不思議そうに零輝を見た。そして、もう一度資料を一瞥する。
「……ああ。いる……というよりはいたな。母親が再婚する4年前まで。名前は」
あお、と栗本は呟く。零輝は驚いた。
何故ならその名前は――
「君のパートナーと同じ名前だな」
「……ええ」
そう、零輝と行動していた少女と同じ名前を有していたからだ。
そして、栗本の言葉が意味することは考えなくてもわかる。亡くなった、もしくはいなくなった。そのどちらかだとも。
零輝の予想通り、言葉は紡がれる。
「8年前にいなくなった そうだ」
「……年齢は?」
「7才。君と同い年だな」
7才。それがあお――しかみあお、という少女の享年。少年の知る亜緒の肉体年齢は大体低くて中学生。
「先輩、幽霊って……」
「……君が言いたいことは朧気ながら推測できる。が、幽霊は死んだときの年齢がそのまま外見にあらわれる」
「…………ですよね」
まさか、そんな偶然はないか、と納得する。まあ、人生そう上手くはいかない。
それに、肝心のそれがわかった時に伝えたい相手もいない。
「そっちはどうだ?なにか手掛かりは?」
今、机にある新聞の固まりは図書館の事務員に頼んで貰ってきた8年前の8月の新聞であり、零輝は有沢に言われたここで起こった例の殺人事件を調べ上げていた。
「……某有名県立高 校校内女子高生徒殺人事件……これですね」
【8月13日
某有名県立高校校内女子高生徒殺人事件】
8月8日以降から行方知らずとなった県立高校の吉沢里緒さん(16)は楽しい夏休みを過ごしていたにも関わらず、何に巻き込まれたのか還らぬ人となった。
8月12日、県立高校の見回りをしていた山田耕作(26)がA館を見回りしていたところ、2階にある女子トイレを見たところ、彼女の遺体が置かれていた。
鋭い鋭器で喉元と腹を切り裂かれ、遺体の損傷が激しいことから、犯人は彼女に深い怨みを持っていたと推測される。
現時点では犯人の行方は分からないが、犬の毛が出てきたことから、警察は吉沢里緒と関係がある人の中から犬を飼っている人を特定しているが、詳しいことは不明。警察は8月8日の事件の時に残っていた犬の毛も同様のものだとして捜査している。
色々新聞を見て回っているが、この事件に関しての記事は他の新聞を見てもこれだけしかない。
そして、犯人は未だに見つかっていないらしい、と言うことをさっき受付のお姉さんから聞き出していた。
「……犬の毛?」
零輝の補足説明を聞きながらある一点で栗本は聞き返した。
「……何かそれに疑問点でも?ちなみに、犬の種類は特定できなかったみたいです」
「いや……この8月8日の事件というやつだが」
そこで栗本は一旦息をきって告げた。
「多分、有沢先生の妹さんが被害者だ」
「……はい?」
普段冷静な零輝が思わず裏声をあげる。
いくら何でも予想外に過ぎた。
「しかみあお、その名の少女は8年前に殺された。……犬の毛が入った鞄が遺品として残っていたらしい」




