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霊耳が指し示した場所は零輝がいた新校舎の三階の廊下の突き当たりにある渡り廊下を渡った旧校舎の三階、理科実験室の中だった。

「中に三つの小さな反応と一つの大きな反応!!」

零輝は自身の霊耳を頼りに微かな霊の浮遊音を注意して聞く。

理科実験室に何かがいる。零輝にとって確信的な事柄だった。

「……そうですね」

「強さは?……俺は戦えるか?」

「……前回の霊より比較的弱めです。でも、普通の人が戦うことは無理です」

零輝は八継ぎはやに尋ねる。それに亜緒も少し沈んだ声で答えた。 零輝はなんとなく情けなく思う。自分も戦えないものかと。救いたい、そう思う時に力が無いほど悔しいものはない。 内心歯軋りしながら亜緒を覗きこんで言った。

「なら、いけるな?」

「……ええ、多分。巻き込まれるといけないので、中にいる女性を実験室から出して、扉を閉めてからどこか安全な場所に避難してください」

「合流は?」

「……私は新校舎の一階のも片付けていくので、校門の前でお願いします」

零輝は頷く。そして、ドアを蹴り破った。

「じゃあ、打ち合わせどおりに!!死ぬなよ!!」

「……幽霊は死ねませんけどね」

やはり変だ。亜緒の様子がおかしいのに零輝は気付く。が、今は時間が惜しい。零輝は雄たけびをあげて実験室に入っていった。

「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」

もう霊輝の頭にはただ一つのことしか考えてなかった。中にいる女性を助けること。 それのみに。

目標は実験室のほぼ中央に位置するところにある。しかし、椅子や机が邪魔で直線距離で行けず、迂回しないといけないのが、零輝にとって面倒な問題点であった。

とにかく急がなくては。零輝は夕日が差し込む緑色の床の教室を駆ける。 蹴破ったドアを越え前に。目の前にある机の角を曲がる。

と視界に、毒々しい黄緑色の気体の塊が横切った。

霊輝は走りながら上を見上げる。すると部屋の上に亜緒の言う霊が漂っていた。

数は3体。そして目指すところに1体。

黄色・赤・紫。そして、禍々しさを醸し出す漆黒。

全て化学の教科書では毒物扱いされているものを彷彿させる色合いだった。

「れーき君!!前に!!」

零輝の後ろ1mをぴったりと走っていた亜緒は使い古された木の机の上によじ登る。跳びはね、着地。 そして、その中の一体の霊に触れた。

霊が消える。……あたかも初めからそこに存在していなかったように。

零輝はその光景を見て、一つ、亜緒について疑問を抱いた。


何故、亜緒の手に触れるだけで霊は消えるのか?


その疑問は、何か重要なことを突いているような気が零輝にはしたが、考えても無駄と即断。切り替えて、床に横たわっている女性をいち早く助けることにした。

途中、零輝の横を霊が擦れ違ったが、無視。前に立ちはだかる一番大きな女性に覆いかぶさっている漆黒の霊に対してもしかとを貫き正面から行く。対して零輝の接近に気がついた漆黒の霊は女性から少し放れ、ファインティングポーズをとるかのように姿勢が低くなる。

5……4……3m 不意に目の前に机がスライド。亜緒が咄嗟に放った援護だ。その真意に気がついた零輝は走りながら、ため息。


――……無茶振りも大概にしていただけないかね


そう心で愚痴りながらも、迷わず零輝は跳躍。そして、机の上からまた飛ぶ。

結果からいって、闇の様な霊の上を飛翔し女性の後ろに着地することができた。

……成功だ。

慌てて取り落とさぬように零輝は所謂お姫様抱っこ、という奴で体の前面に持ち上げるとすぐさま逃走を開始する。


――マテ、ソノオンナヲオイテイケ!!


当然そんなのを一々聞いてはいられない。零輝は息遣いを荒くし、自身のやること――女性を回収して安全な場所に避難する――に取り掛かる。

しかし、いくら50mを6秒で走る快速であったとしても人を抱えてはそんな速度では走れない。

零輝を待ち構えて体勢を崩していた漆黒の霊も、いつのまにか身を翻し零輝に追いすがっていた。いや、ほとんど追いついている。


――アキラメロ、ドウセシス


その靄が零輝にかかりかける。零輝もそれを感じ必死に足を、体を前に持っていく。 一瞬のタイムラグ。そのあとに、亜緒がその両者の間に割り込んだ。

「……させません。消えるのはあなたの方です」

零輝は走っているその勢いで理科実験室の壊れていない方のドアに突っ込む。そして、前にかかった重さのせいで若干体勢を崩しながらも廊下に出ることができた。


「……今!!あたしは!!非常に、機嫌が悪い!!」


――タ、タスケテ


「煩い!!消えろ、消えろ、消えろ、消えろ、消えろ、消えろ、消えてしまえー!!」


「……あの発展途上を今まで怒らせなくてよかった」

……どうやら、彼女はコンディションが悪ければ悪いほど力を出すことができる能力の持ち主だ、ということを零輝は脳内のメモに書き入れながら電気の消えた暗がりの廊下を走った。


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