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その疑いは零輝の脳内を離れず固執に捉える。気が付くといつの間にか授業は終わり終業の鐘がなっていた。

時が経つのは長期的な意味においても短期的な意味においても本当に早い。

一時間目から物理、数学、化学、現代文、日本史、英語――と授業の科目名を見るだけでハードな1日のはずが、零輝にとって肝心の授業の内容がほとんど記憶に残らなかった。ノートには記録が残っていたのでホッとした程である。

老化かな、と思いながら零輝はコツン、と頭を軽く叩く。

そしていつも通りだるそうに机の中にある教科書や筆記用具などを鞄に入れた。


「元気ないですけど……大丈夫ですか?」


周りに人がいないことを確認してから亜緒は喋りかけた。いつも以上にダルそうな零輝を 見て、心配しているらしい。

零輝はその目が気に入らない。一瞬見たその目の奥には少しの寂しさとともに自己犠牲精神に満ち溢れていた。


――あー、チクショウ!


零輝はこれ以上考える事が面倒になった。とりあえず全ての思考を放棄することにする。そして、亜緒に話しかけた。


「……これからどうする?」

「これからって?」


亜緒は零輝の質問の意図を理解できず、首を三十度、横に傾ける。


「……下校中、もしくは下校後のことだ」

「あ、そういうことですか。なら、う~ん」


そのまま亜緒は停止する。唇をひねり可愛いうなり声を挙げたまま必死に考えこんでいた。やがて、ぽん、と手を打つ。


「シュフのオススメにお任せします」


亜緒は言い終えるとニコッと笑った 。

零輝は、その可愛いらしい笑みを見て少し頭に血が昇るのを感じる。照れを隠すために少し視線をそらしながら提案。


「……じゃ、最短帰宅ルートで帰る」

「えー?!」

「馬鹿!……静かに」


思わず大きな声を出した亜緒を注意して、溜息。それから体と言葉を使って不満を訴える亜緒を尻目にそそくさと荷物を鞄に入れた。


「おーい。泉田!ちょっと」


担任の山田の声だ。授業は終わったぞ、と零輝はそれ以外の可能性を考慮。かなりの可能性で厄介事になるな、思いながら振り向く。そして、不機嫌オーラを振りまきながら反抗的に見つめた。


「…………」

「返事くらい返せ!」

「……さようなら」

「ああ、おう……」


そう言って激昂する担任の横を鞄を持って通る。亜緒との一件で多少人を助けることの利益を学んだものの、それは学校の手伝いとかそういうものにはないところにある。

その上元々において自分に回ってくる厄介事は出来る限り避けたい性分なのだ。

残念ながら今の零輝に手伝うという選択肢はない。


「って、おい!違う」

「鈍感、ですね」

「それはそうかも知れないが違う!俺は」

「ちょっと用事があるんで……」

「植野先生に」

「失礼します」

「頼まれて、っておい!」


零輝は首筋を掴まれた。構わず行こうとするが動けない。仕方なく抵抗を諦めて無気力に見つめた。そんな零輝に山田はゆっくりと語りかける。


「お前の事情は一通りは聞いているつもりだ」

「…………」

「その年で友を失う辛さもよくわかる。俺自身多少の 経験はあるからな」

「…………」


零輝は何も答えない。いや、答えられない。


「誰にも何も、親友が死んだ責任はない。もうちょっと前を向いて生きろ」

「……俺の親友は生きていますよ」

「だとしてもだ、お前は縛られずに生きていくべきだ」


零輝は再度黙った。何も言えなかったのだ。零輝はまだ自分が大人だ、という認識はなかったがそれが如何に無駄なことであるかを理解できない程の子供でもない。

零輝の心情もよく理解しているのであろう。山田は軽く笑い言った。


「まあ、時間はまだある。いずれは答えを出さなければいけないけどな。色んな人に話を聞くといいさ。植野先生とかな」

「……植野先生?」

「ああ。彼もお前と同じように悩んでいた時期があった。

……おお、丁度植野先生がお前を呼んでいるぞ」


明らかにわざとらしいおどけた声で山田は言う。いい話が台無しだ、と零輝は肩を落としながら答えた。仕方ない、と零輝は妥協することにする。


「……今の話の駄賃がわりに行ってきますよ。どこに行けばいいんですか」

「いますぐ社会科資料室に行ってくれ」


こくん、と一回頷き素直に了承する。

山田は何やら満足そうに頷き返すと足早に教室を去っていった。


「植野先生って、日本史の先生で、背が高く、凹んだ目に頬にあまり肉がついてない人ですよね?」


いつの間にか零輝の後ろには亜緒が立っていた。零輝はそちらを見ずに返事をする。


「……よく覚えていたなそんなこと」

「だって私その先生に一度ぶつかってしまいましたもん」

「は?え、まじ?」

「はい、バレませんでしたけど」


亜緒はない胸をはって零輝を見た。


「……見逃してもらっただけじゃないのか?それで俺が呼び出しを喰らったとか」

「そんなことはありません。ぶつかった後にこけてしまって探していましたもん」

「……つまりこけた原因を?」

「はい、僕ってよくこけるんやよ、って惚けた声で大真面目に話していました」

「まあ……ならいい。ただ」

「わかっています。次から気を付けます」


零輝は自分のコミカメを人差し指でグリグリと擦り疲労回復をする。そして朝の前の席の子との会話を思い出した。


「あと、この教室に霊の気配はないか?」

「霊のですか?」

「ああ、昨日目撃情報があったらしい」


亜緒の目が急に閉じられる。そして両手を横に広げ白く光出した。

やがて、その発光は終わり……


「…………」

「…………いっぱいいますけど?」

「…………なにをした」


目の前に沢山の浮遊霊が現れた。


「とりあえず、この教室に出来る限りの探索をかけてみました」

「……で?なんでこんなに霊がいるんだ?」

「私も知りませんよ。元々病院とか墓場とかだったんじゃないですか?」


その言葉には含みとかは一切ない。零輝は今まで起こらなかったことに疑問を持つ反面、亜緒がこの事にかかわり合いがないことを知ってホッとする。


「……じゃ、行く。そこら辺で待ていてくれ」

「はい、分かりました。行ってらっしゃい」

ニッコリと笑い、手を小さく零輝に振る。零輝も亜緒の一部始終を見てから教室を足早に出た。


「レーキ!」


そこで待っていたのはいつも通り八重頭の声だった。零輝は頭をかきながらそちらを見る。


「……何だ、八重」


零輝は面倒臭そうに自分を呼んだ相手のことを見る。すると相手はびっくりしたように目を見開いた。


「反応した?!れ、れ、レーキが反応した?!わ、私に?!」

「……ちなみにいつも誘ってくれている下校は無理だからな。植野先生に呼びつけられているから」

「わ、わかった」

「……行っていいな?」

「うん!」


零輝は直ぐさま自分が言い終えるとのらりくらりと社会科準備室に向かった。

途中、先生方が“八重頭が狂った!”とかガラス が割れる音がしたのはきっと気のせいだろう。


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