1
三神信一は生きている。
どこにいるかは定かではないが、確信はある。
俺は彼を待つ。何をできなくても、どこにいてもまた会える。
信じて親友を待つ。
手土産にどんな冒険譚を聞かせてくれるのかを楽しみにしつつ……
今日も俺は待ち続ける。
夕焼けが世界を照らす。そんな時分に親友を突き飛ばして何をしているのだろうと強く思う。
別に何と思われようが構わない。だけれども、僕には一つ耐えられないことがある。自分と親と友達と世界。全てが偽物だと感じられる瞬間だ。
自分の命を省みず、時には棄ててまで他人の命を救う。格好のいい、男子なら一度は夢にみる憧れの行為。
同時に凡人には世界が引っくり返っても出来ないであろう、正当な善行。
当然だ。人間と言う量産品はそこまで美しい物ではない。
だから、愛も友情も親切も同情も信用も信頼も……大抵、他人に感じると言われる+の感情は禍い物の錯覚だ。相手と敵対しないために行われる一つの防衛行動だ。
そう考えると本当に嫌になる。
全ての行動の大元が自分に直結し、いかに自分が偽善者かを思い知らされる。
「どうせ、お前も偽善者だ」
口から迸った言葉は親友に向けたものなのか、自分に向けたものなのかはわからない。
でも、いい。どちらも偽善でどちらも凡夫。それでいい。
日を弾き瞬くように輝く墓石に囲まれた道を、いつの間にかいなくなった親友のことを考えながら家に向かう。
この時はまだ、これが別れの一場面だとはわからなかった。
翌日。11月15日。
僕の生涯無二の親友、三神信一は
失踪した。