思い
ほとぼりが冷めた頃を見計らって自室に戻る事にした。
「ご武運を〜♪」
玄関から慶が手を振って見送ってくれた。
お前それまるでどっかの戦場に行くみたいだぞ。
部屋に戻って恐る恐る玄関のドアを開く。
ドサッ・・・
ん?
「うぉ?!」
ドアを開いたと同時に最後にトイレへ行った男が倒れていた。
「・・・要。念のため武装した方が良さそうだぞ。」
「だな・・・」
ホルスターから通常のMK.23を抜き取り安全装置を外しておく。
要も腰のホルスターから軍・警察用拳銃グロック17を抜き取る。
そこからの会話ではなく全てハンドサインによって中へ入って行く。
何だろな、自分の部屋なのに武装しながら突入するって・・・
中へ入ると通路にまた一人倒れていた。
まさかとは思ったが念のために首筋に手をやって脈を測る。
ーートクン、トクン、トクン。
良かった。一応生きてる。
先に進むと部屋の明かりはついていたが、それのお陰で部屋の悲惨な状況を伝えてくる。
室内のあちこちには弾痕が無残に残りTVやソファはもう使い物にならなくなっていた。
床には薬莢が雪崩のように転がり防弾ガラスだったベランダの窓ガラスは完全に破壊されていた。
どうやら窓ガラスを破壊した後部屋中に乱射したらしいな。
壊れたソファの奥を覗くとそこには弾切れになったMG3を抱きかかえる様に眠る唯の姿があった。
「・・・このバカ。気持ち良く乱射したら気持ち良く寝るってか。」
安全装置をかけ直してホルスターに銃を納める。要もそれに習って銃をしまった。
「んで、こいつらどうする?」
親指を唯の徒手格闘をもろに食らってぐったりする奴に向ける。
「こいつと通路の奴は隣の同じ部屋だから俺が運ぶが、玄関のは確か要同室だったよな?」
「あぁ。じゃあついでだからそっちの一人手伝うわ。」
そう言って要は廊下の一人を担いで運んでいく。
俺も奥でぐったりした奴を運んで行った。
気ぃ失ってる奴ってのは本当に重いんだよなぁ。
2人を運び終わると残りの一人を要が担ぎながら出て行った。
「んじゃまた明日なぁ〜。」
「おう、おやすみ〜。」
さて、あとは最後の問題だな。
部屋に戻ると未だにぐっすりと眠る唯を見てため息が出た。
「おーい。生きてるかぁ〜?」
パンパンと顔を叩くが全くと言っていいほど反応がない。
ったく、面倒かけさせんなっちゅーの。
抱きかかえるとそのままいつも唯が使ってるベッドへ運んでいく。
「ふぅ、これでいっか。・・・ん?」
風呂にでも入ろうと思って寝室から出ようとするとクイッと袖を引っ張られる感じがして後ろを振り向く。
(何かに引っ掛けたか?)
そこには子供のように袖を掴んで離そうとしない唯の手があった。
「・・・きょーちゃん。」
「ッ!」
それは小学校の時に使われた呼び名だった。
(小学校の夢でも見てんのか?)
「そばにいて・・・」
顔を覗き込むと不安そうに眠る唯の顔があった。
「ったく。風呂にも入れねぇじゃねぇか。」
ボヤキながらも手を繋いでベッドの横で座り直す。
ベッドの傍には何故か濁酒が捨てられるように放置されていて何となくそれを拾い上げる。
中身はまだ半分ほど残っていて処分がてら飲むことにした。
チラリと横目でベッドを見ると安心したかのように静かに眠る唯がいた。
(本当、寝顔だけはガキみてぇだな。)
ゴクリと酒を飲みながら月明かりが差し込む小窓を見上げていると何となく昔の事を思い出した。
小学校の頃、親同士が仲がよく俺達はいつも一緒に遊んでた。
その時はまだ唯の一人称が『私』っていってたっけか。
その日も唯が家に来て兄貴と一緒にかくれんぼをして遊んでいた。
兄貴が鬼をやって隠れていたが、俺はすぐに見つかってしまった。
だけど、唯だけが見つからず何時間も探してようやく見つけると物置に隠れたまま扉が壊れて出られなくなったようだった。
助け出した時は大泣きしてしばらく離してくれなかったけ。
(あの頃のコイツは可愛かったよなぁ。・・・まぁ今でも十分だがな)
唯の方に向き直ると何となく空いている方の手で顔にかかった髪を別けて頭を撫でてやった。
「もうちょっと優しくやって欲しいかな・・・」
今度はさっきとは違った口調ではっきりと話してきた。
それも注文しながらだ。
「なんだ、起きてたのか。」
「一応ね。でもさっきまで朦朧としてた。」
「あんだけ飲んだらそーなるだろ。」
「ハハッたまには良いじゃねぇか♪」
「いつもの間違いだろ?」
唯は乾いたような笑い声を上げて、体を横に向けてじーっと見てきた。
「なんだ?言っとくがもう酒はねぇぞ。コイツは俺のだからな。」
「バーカ。いらないよ。ただ・・・何となく見てたいだけだ。」
「ふーん、ならお好きにどうぞ。」
視線をズラしてそっぽを向きながら酒を飲み続ける。
(とは言ったもののやっぱ気になるなちくしょうめ・・・)
背後から浴びせられる視線を感じながらあえて無視していたが、流石に耐えきれんくなってきた。
「・・・なんだよ?」
その反応にニヤリと瞳を細めて笑う。
「ねぇ京介。キスして欲しいな♪」
ブファッッ!!
まるで漫画のように飲んでいた酒を口から噴き出してしまった。
「ゲホッゲホッ!・・・いきなり何言いやがる!冗談も大概に・・・!」
「冗談じゃないよ。」
遮るように今度は真面目な表情で言ってきた。
そして次にどこか物悲しいげな顔をした。
「あたしな、出来ればもう狂に会いたくないんだよ・・・それにいつの日かお前が狂に乗っ取られるんじゃないか不安で仕方ねぇんだ。」
狂。戦闘狂で女好き。
唯はずっと俺達を見てきた。
だけど唯はどうしても狂の事が好きになれず嫌っている。
「あたしは京介が好きだ。でも・・・狂は嫌い。大嫌いだ。なのにここ最近のお前は狂を自身で抑えられなくなってるみたいだ。それが・・・途方もなく怖い。」
昔から鋭い奴だったが、そんな事まで見抜いてたのか・・・大した奴だよお前は。
「だから、せめて京介からキスしてほしい。」
その瞳は真っ直ぐで曇りや迷いさえない。
ーーーあぁ、本当にそう思ってんだな・・・
「目ぇ閉じろ。」
そう言うと嬉しそうな顔になって唯は素直にいう事を聞いて目を閉じた。
俺は顔を近づけて残りの数センチとなったところでーー
ちゅっ。
ーー右の頬にキスをした。
「こいつで終わりだ。でも、一緒には寝てやるよ。」
「・・・本当にズルい奴だ、お前は。」
制服を脱ぎ捨てて唯のいる布団に入って行く。
そしてグイッと腕を引っ張られて右腕を持ってかれると唯は腕枕くらいはしろよとでも言わんばかりに睨んできた。
ーー本当わがままな姫さんだな。