披露宴
分かりやすくイラスト形式で学部・学科紹介がされていく。
一年生は皆真剣な眼差しでそれを見ていたが、2〜3年にとっては退屈な時間以外何者でもない。
それはそうだろう。同じ事を何度も繰り返されていたら誰だって飽きるというものだ。正直この集会自体わざわざ全校生徒が集まる必要はないと思う。
周りを見るとそのほとんどは寝ているかこっそり携帯をいじっている。
壁際に立っている先生に関しては教員同士で喋っている始末だ。
(もうグダグダだな、この集会・・・)
一時間後、ようやく集会がさっさと帰ろうとしたところ不意に後ろから声がかけられた。
「おい、京介!」
声のした方を見るとそこには、強襲科担当の杉本千花先生が腕を組んで仁王立ちしていた。
背中の半ばほどある髪を一本に束ねてポニーテール風にしている。腰には小刀が2本納められ右の脇腹にはリボルバーがホルスターに納められていた。
「どうしたんですか?」
「どうしたんですかじゃねぇよ、このサボリ魔。今日は新入生の見本見せでお前が選ばれたから絶対に来いよ!」
「え、マジっすか?!」
「おー、マジだよ。マジでマジの本気だから休んだりしたらぶっ殺すぞ。」
「ちょっ!だったら俺みたいなDランクじゃなくてAとかBランクの奴に頼みましょうよ!」
右手を後ろにやって刀に手を伸ばす先生を慌てて制しながら反論する。
「うるせぇ〜なぁ〜、他の奴らは皆出払ってんだよ。それにお前最近サボりがちでこのままじゃ単位足りねぇんだからこれで一気に回復しとけ!」
痛いところついてくるな・・・
けど、最近サボってるのにはちゃんと理由があんだよ!
「ちなみにこれ出れば奮発して5単位やるよ?」
「・・・やります。でも、余り派手なのは勘弁してください・・・」
「例のアレか?」
察してくれたらしく、先生は深刻な表情をして来た。
「はい・・・最近どうも騒ぐんです。」
ふむ、と感慨深そうに頷く。
正直なところ本当は出たくないのだ。
面倒くさいとかヤル気が出ないとかではなく。
アレになると誰も俺を止める事が出来なくなるからだ。
「分かった。披露宴ではあたしもいるが念のため由香利も動向させておこう。」
巻貝 由香利は千花先生の相棒で同じ強襲科の先生だった。
昔は黄金コンビとして名が知られ数々の特殊任務を遂行させて来たという。ちなみにウチの教員のランクは全員Sランククラスらしい。
「ありがとうございます。」
一礼してようやく解放されたようにその場を離れるが、気が重くて仕方なかった。
放課後。
強襲科のあるD棟に着くとそこには既に新入生が大勢中へ入ろうとしていた。
正面からは入れそうになかったので仕方なく裏口へ回るとそこには数人の同級生が居座っていた。
「お?京介じゃねぇか!おーい!」
1人が気づくと全員がこっちを見て歓迎してくれた。
「よぉ、久しぶりじゃねぇか!もうくたばったかと思ってたぜ?」
「どっかで飢え死にしてると思ってたんだが・・・残念だけど元気そうだな!」
やたらと酷い挨拶をしてくるのがここのルールでその度に「お前がくたばれ!」や「今朝あったばかりだろうが!」などと返してやる。
しばらくそれは続いて挨拶が終わると最初に話しかけてきた同じクラスの高岡 一樹が顔を覗かせてきた。
「お前も今日の出るのか?」
「まぁな。千花先生に出ろってせがまれてよ。」
「単位欲しさに食いついただけだろう?」
ちくしょう、またもや痛いってか図星をつかれた。
(ってかそれお前もそうだろ!)
「そんな事より予定はどうなってる?」
話を逸らして別の話題を吹っかけると、
「俺たちは最初の挨拶と大まかな説明を任されてるが、お前が出るのは多分その後の実演の所だろうな。千花先生が探したってんなら。」
こいつらを実演に出せば良かったんじゃないのか?
わざわざ俺なんかを探すんじゃなくて・・・
「実演ではリアルタイムの映像を今新入生のいる講堂で流しつつお前は試験棟で待ち構えている10人のBランク生徒を倒してフラッグをGETすれば良い。簡単だろ?」
ニカッと笑みを見せてくるが、明らかにおかしいだろそれ!
(何でDランクの俺がBランクの奴らを相手にしてかにゃならんのだ!)
「どこがだ!Dランクの俺がBランク生徒を10人も相手にせにゃならんのだ!!」
「安心しろって、何も1人でやる訳じゃねぇから。Aランク生徒の皇 千聖さんとの2人一組で行う。」
それを聞いてようやく、今回の披露宴でのストーリーが見えた。
優秀な生徒と落ちこぼれの生徒が組んで敵をなぎ倒していき、活躍する優秀な生徒を持ち上げる、といった物語だろう。
まぁ損な役回りということには変わりないか。
(でも、それなら大丈夫そうだな。)
後は何もないまま事が運ぶ事を祈るだけだ。
「そろそろ時間だな。早く試験棟にいって来い。多分皇さんはもう待機してる頃だろうからな。」
「了解。」
端的に返事だけしてD棟の隣にある試験棟へと脚を運ばせる。
試験棟では、本来建造物に立て籠もった犯人を捕まえる事を想定して作られた言わば模擬訓練場の事だ。
幅10m高さ15mの長方形をした3階立てで室内は各フロアごとに変わっている。
一階は銀行をイメージして作られ、二階は事務所、三階は飲食店などとさまざまな環境になっている。
さっきいた所からは影になって見えなかったが、試験棟の横には白いテントが置かれ黒の字でデッカく『本部』と書かれているのを見つけた。
そこには千花先生を始め、由香利先生とさっき話に出た皇さんもいた。
「おっ。ようやく来たか。京介、早く来て準備しな!後15分で開始だよ!」
千花先生に呼ばれ駆け足で寄ると由香利先生から実践専用の戦闘服、通称:黒翼を渡された。
戦闘服と言っても、見た目はマトリックスのネオが着ているような長いコート状のデザインをしている。だけど素材は全て最新式で今着ている防弾制服よりも更に頑丈に作られ、何より軽かった。
防弾制服の強度は.45ACP弾クラスが限界だったが、これなら357MAGNUM弾でも跳ね返す程の強度がある。
すぐに着替えを済ませて最後に左耳に無線機を取り付ける。
「準備は出来ましたか?」
後ろを向くと先に来ていた皇さんが声をかけて来た。
明るい茶髪をショートカットにして、二重の瞳は綺麗なブラウンがかった色をしていた。
彼女が着ている黒翼は少しデザインが違い、機動力を重視したような格好だった。
色は黒で統一されているが、コートではなくどちらかというとジャケットタイプで、下半身はショートパンツとロングブーツだった。
(確か、昔一樹が言っていた絶対領域とかいうのがアレのことだよな。)
と、視線の先はブーツとショーパンの間から見える白い太腿の方を見ていた。
「あの・・・」
再び声をかけられて慌てて踵を返す。
「あ、いや、何か可愛いデザインだなぁ〜って思って。」
慌てて言い訳をしたが、ちょっと苦しかったか・・・?
「フフ、京介君のもなかなか様になってますよ。」
「どうも。・・・それでどうやって攻めて行きますか?」
上手くノッてくれたのでそのまま話をすると皇さんは少し考えてから答えた。
「私が前衛をしますから京介君はバックアップをお願いします。相手はBランクと言っても流石に束になられると私も迂闊に手出し出来ませんから、ホローはお願いしますね。」
にこやかに柔和な笑みを浮かべながら説明してくれた。
それはとても暖かい笑みで不意に
(こういう人を天使って言うんだろうなぁ)
などと思ってしまったが、それはすぐに現実に引き戻された。
「何鼻の下伸ばしてんだよ。気持ち悪ぃな。」
この聞き慣れた嫌味ったらしい声は・・・
分かっていながらも振り向かずにはいられず向くとそこにはやっぱり、
「何か用か?唯。」
トランクケースを持って何故か膨れっ面をした武藤 唯だった。
「ご挨拶だなぁ、それがわざわざ荷物届けにきた奴に言うセリフか?」
そういいながら唯は空いている机のスペースにトランクケースを置いて中身を開いた。
中身はM4カスタムとドラムマガジンが一つバナナ型マガジンが二つM320グレネードランチャーとその弾が4つとダットサイトが入っていた。
「ハイダーはご注文通りCQC(徒手格闘)対応でフリップアップシステムにレールシステムもある。ついでに弾はバラで入ってたけど、披露宴のに参加するって聞いたから詰めといたよ。」
「・・・サンキュー。無駄な手間掛けさせたな。後で料金払うよ。」
「んじゃ今晩奢れよ♪末門屋の豚骨バリ濃いラーメン♪」
「はいはい。」と流しながらケースからM4を出して簡単な動作確認などを済ませる。
(ってかよくそのラーメン食べれるな・・・俺には絶対無理だぞ。)
唯の言った末門屋のラーメンは基本的にどれもこってり系で味が濃い事で有名なのだが、その中でも豚骨バリ濃いラーメンは群を抜いているほど濃い。
スープ何でヨーグルト以上にどろっとして喉を通すと慣れない奴は呼吸が出来なくなるほどにへばりついてくる。
前に唯のオススメで一緒に行って普通の塩ラーメンを食べたが、唯はそれを頼んで興味本位で一口もらってすぐに後悔した経験がある。
「って、あれ?皇さんじゃないですか。」
ようやく奥に立っていた皇さんに気づいた唯は話かけた。
「こんにちわ。あんまり脂っこいのを食べるのは体に毒ですよ?」
話を聞いていた皇さんはいきなり突っかかってきた。
「ハハハッ大丈夫ですよ皇さん。あたし貯めておく袋があるんで♪」
たゆんっと胸を張って唯ご自慢の巨乳を見せびらかす。
こっちもこっちで反論しちゃってるし・・・
「皮下脂肪に行くなら良いですけど、内臓脂肪となったらその袋も意味がなくなってしまうって言ってるんです。」
それを聞いて唯はうっと声を出して顔が青ざめる。どうやら皇さんは突っかかったのではなく、本当に唯の体の事を心配している様子だった。
それに気づいた唯も大人しく反撃を辞めてしょげている。
(す、すごい。唯をたった二言で黙らせた!)
そんなやり取りを見ながら何となく横目で千花先生を見ると下を向いてお腹をさすりながら落ち込んでいる様子だった。
何か呟いていたので唇の動きを読む読唇術を使ってみた。
『しばらくラーメン辞めようかなぁ・・・」
・・・先生も好きだったんだアレ。
ビーッ。
突然テント内にある無線機が鳴り響き近くにいた千花先生がそれをとった。
『映像5分前です。準備してください。』
男子生徒の声が聞こえて千花先生は返事をせずこっちに向き直ってきた。
「ってことだ、お前らしっかりやれよ!」
投げやりだな・・・まぁ聞こえてたからいっか。
「「はい!」」