Not found 50音順小説Part~の~
一応舞台は長崎県に属する架空の島です。
あと時代設定は現代かな。
長閑な片田舎に不似合な城跡、そこに彼女はいる。
少年は現在は焼けただれ骨組みがむき出しになっているが
かつては小さくても立派な佇まいを有していたであろう古城に
敬意を払いながら目的の人物を探しに奥へ迷わず踏み込んでいく。
彼女はいつものところでいつも通りのんびりと寝転がっていた。
「のえる、何してんの。」
「あっ聖ちゃん。」
「・・あんなぁ、のえる。
その呼び方いつになったやめるんだよ。聖だ、ひ・じ・り。」
「だって長いじゃん。」
「せいとひじりじゃ一文字しか違わねぇだろ、というか聖ちゃんなら
5文字だからそっちの方が長いだろ。」
「えー、聖ちゃんの方がかわいいもん。」
誰からも美しいと褒められる赤毛が陽光に当たり紅く輝く、
さらに風に吹かれ柔らかな巻き毛が揺れている。
それに勝るとも劣らない彼女の笑顔はどうみても捨て子には思えなかった。
「まぁまぁ、そうかっかせずに。ほら聖ちゃんも横になろうよ。」
「俺はいいよってうわぁ!」
横に座った聖は強引にのえるに倒されたため朽ちた床に思いっきり顔面から入ってしまった。
「いてぇ・・・。」
「あはははは!聖ちゃん鼻がっ鼻がっ真っ赤かぁ~!!」
同じ誕生日で同い年の幼馴染の滑稽な様を見てのえるは腹を抱えて大笑いする。
「お前のせいだろ・・・」
恨めしくのえるの方を向くと同時に青い雲一つない空が
上半身を起こしているのえるの背景に広がっていた。
聖が言葉もなくその美しい景色に圧倒されていると
のえるが聖の見ているものに気付いたのか隣にさっきと同じように寝転がった。
「それにしてもさ、こんな日本のド田舎の小さな島に
中世ヨーロッパみたいなお城があったなんて驚きだよね。」
「まぁカトリック教徒が多い長崎だったらあっても不思議はないんじゃね。」
「うふふ、誰が住んでいたんだろぉ。もしかしてどっか遠い国の王子様とか。」
「どうせ金持ちの娯楽で作った小城だ、きっとおっさんの
火の不始末で火事にでもなったんじゃないのか。」
「もう、夢がないんだから。」
「あ、そういえば今日大事な客が来るって神父さま言ってたけど―――」
「あぁーーーーーー!!」
聖の言葉を遮る突然の叫声にびくりとし隣で発声した主を見る。
「そうだ!今日は昼までに教会に帰ってきなさいって神父さまに
言われてたの忘れてたー!もう何でもっと早く言ってくれないのよ!」
「そんなの俺の咎じゃねぇ!お前が忘れてたのがいけないんだろ!」
聖へ非難を浴びせながら裸足の足に急いでブーツを履かせ修道服に付いた埃や汚れを手で
バシバシと叩きあげるとベールをかぶりどこからどう見ても清廉されたシスターへと変貌した。
「じゃあね、聖ちゃん。また明日ミサの時に。」
が、再びのえると聖が出会うのはすぐであった。
燦々と輝く太陽がちょうど真上に来た頃、のえるもまた教会の扉を開けて
そぉーっと中へと入っていった。
聖堂には誰もおらずとりあえずのえるは城から走ってきたため
噴出していた汗を拭い呼吸を整えた。
「神父さま、まだ来てないのかな。とにかくセーフ。」
捨て子であるのえるを拾い十四年間ここまで大きく育ててくれた神父は
彼女にとって父親も同然であった。
だが両親もどこの生まれかも分からない、珍しい赤毛に異国の顔立ちは
幼き頃ののえるにとってはいじめを招く原因であったため辛かった。
みなしごや外人と大人たちがひそひそと声を顰め囁き合っているのを
何度聞いたや数知れない。
そのせいで自分を育ててくれている神父に八つ当たりをしたこともあった。
だが神父はどんな時でもただのえるを優しく抱きしめて
ただ「大丈夫だよ」とそう耳元でそっとささやいてくれたのだ。
そしてもうひとつのえるの支えになった存在が聖である。
彼は小さい頃の唯一の遊び友達であり今では一番の親友だ。
近所では親に言い含められたのか誰も彼女と遊んでくれるものがいなかった。
ある日仕方なく一人公園で遊んでいると目の前に聖が現れた、
彼が教会にお祈りに来る信者であることは知っていたが言葉を交わしたこともなく
また彼も親にきつく言い聞かせられていたためのえると話をしたことがなかった。
だが聖はのえるにずっと興味があったらしく親の言いつけを破って
彼女と初めて話をしたのである。
それからというもの毎日のようにのえるは聖と遊ぶようになり
次第にほかの子供たちもそれに混じるようになっていった。
しばらくすると大人たちものえるのことを悪くいう者はいなくなり
彼女は大人とも段々と打ち解けあっていくことが出来たのだ。
だからのえるにとって聖は神父と同等の大切な存在である。
昔の思い出に浸っているとふと約束の時間から大幅に過ぎているのにも
関わらず神父が聖堂に現れないためのえるは心配になった。
時間には厳しい神父が約束の時間を破るわけがない、
それに聖が言っていた客人も姿を見せないのはおかしい。
何か胸騒ぎがするそう感じたのえるは普段は滅多に行くことのない
神父の部屋へ向かうことに決めた。
地下へと続く階段を下りていく度に半円状の壁や天井にブーツの音が反響する。
一歩また一歩と歩を進めるうちに増々焦燥が募っていく。
知らないうちに自分でも歩む速度が早まっている。
廊下の奥にある古い木製のドアの向こうが神父の部屋である、
のえるは素早く2、3回ドアを叩く。
ノックをしても返事がないためいても立ってもいられない。
勝手に部屋に入るのは気が引けたが今の彼女にとってマナーより
不安感の方がより勝っていた。
思い切って重い扉を開く。
人間というものは何故だか悪い予感というのは感じる不思議な生き物だ。
目の前の惨劇はのえるにとって言葉に成しがたいものであった。
「しん、ぷさま・・・?」
出せる精一杯の震える声で伏した父の姿に問いかける。
神父が倒れている場所からは元は赤かったであろう血が
絨毯に吸われてどす黒い色へと変化している。
すでに息絶えていることは傍から見ても明らかであるが
それでものえるは答えることなき父の声をもう一度聞かずにはいられなかった。
「神父さま・・・どうして・・・・・・」
瞳から流れてくる涙を止めることなく成すがままに流し続ける。
だがのえるはあまりの衝撃で部屋の隅にいた人物に気付かなかった、
その人物がどれほど危険なのかも。
隅の影がこちらに向かってくるにも関わらずのえるは動かない、
視界の端にはしっかり映っているが今は悲しみが彼女を支配している。
「あれぇ?シスターなんてこんな辺鄙な教会にもいたんだぁ。」
能天気な声が頭の上から降り注ぐ、この状況にはおおよそ不似合な
陽気な口調にのえるはやっと顔を上げる。
黒髪をワックスで撫でつけ高級そうなイタリア製のスーツを身につけた男は
まだ若いであろうになんなくと高級スーツを着こなしている。
「あなた、誰?」
のえるはそう問いかけながら男の顔を眺めたが、
サングラスを男がしていたため彼の双眸は確認できなかった。
地下の部屋には照明の光が満ち溢れているのに
色の濃いサングラスの奥にある瞳には光が届いていない。
「しぃかぁもぉ、若くて可愛い娘さんじゃない~。」
のえるの質問には答えず男はそのまま話し続ける。
その声音や物言い、態度はいかにも軟派な男のソレだが
しかし見えないはずの目からはそれとは違う何かおぞましいものを感じた。
目は口ほどに物を言う、ということわざ通りなのかもしれない。
だから男はサングラスで隠しているのだろうか、内に秘めるだけでは隠しきれないものを。
「おぉまぁけぇに~、シスターさんは赤毛ときましたかぁ。
綺麗な赤髪の御嬢さん、初めまして。
僕の名前はジュリアン、今から探しにいこうとしてたのに
まさか自分から会いに来てくれるなんて嬉しいこと限りなしだよ。」
彼の視線はのえるの顔からベールの裾から覗く
照明の光でも赤く照らされている髪へと移動していた。
「ど、いうこと・・・・・。な、何でここにいるの、
何で神父さまが倒れてるの!!どうして!!なんで!!嫌!
神父さま!!どうして死んじゃったの!?」
「ん~閉じられた空間に倒れた血みどろの神父の横に
同じく血の付いたナイフを持ったナイスガイ。
そりゃあ俺が殺しちまったに決まってんじゃん?これで軽くグサッとね。」
思考停止していた脳が再び動き出し波のように質問をぶつける。
ジュリアンはのえるの脇に座り最後の問いかけだけに答えると
ひらひらと時間がたち血のこびりついたナイフを片手で回してみせた。
「・・・お前、殺してやるっ!!」
のえるは素早く袖から隠し持っていた護身用のナイフを取り出すと
迷うことなくジュリアンに襲いかかる。
襲われそうになっている彼は表情を崩すことなくその場から一歩も動かない。
「おっかないお嬢様だなぁ、いきなり切りかかってくるなんて。」
のえるの腕をいとも簡単に受け止めてそのままナイフを取り上げ自分の懐にしまう。
いくら剣の扱いが素人の娘の一撃とはいってもこうもやすやすと
軽くあしらわれてしまうと只者ではないということはのえるにも分かった。
「にっしてもさぁ~、神父も君をシスターにしたなんて
やっぱり過去の裏切りへと贖罪なのかな~。」
「・・何を言ってるの・・・。」
頭に昇っていた血が少しずつ引いていき冷静さを取り戻していく。
ジュリアンの口から発せられた言葉が引っ掛かる。
「ん?ひょっとしてひょっとすると、君、
自分が何者なのか知らないの?」
この男が一体自分の何を知っているというのだろうか、只の捨て子である自分の。
ジュリアンはのえるの腕を放すと今度は神父の遺体に目を移した。
「まぁ~死体をこのまま転がしとくのも死者への冒涜だし、
ここで立ち話っていうのもなんだしなぁ。
女の子に手荒な真似したくないけど、仕方ないかぁ。
ちょっとごめんね。しばらく眠っててもらうよ。」
直後、腹部に強烈な痛みが発生しそのままのえるは気を失ってしまった。
再び目を覚ました彼女はそこがよく見知った場所だということにすぐさま気付いた、
客人が教会に来た際に通す応接室である。
のえるは両手を後ろで縛られている格好でソファに寝かされていた。
何とかして起き上がり縄の部分を確認するとだいぶ緩く縛られているらしく
力づくで片手だけでも抜ければ解けそうなものであった。
窓の方に目を向けるとそこは既に闇に包まれていた。
部屋の中を見回すのには蝋燭に灯された炎だけが頼りである。
「何とかして、ここから出なくちゃ。」
神父の死、謎の男との邂逅、数分の間に起こった目まぐるしい
出来事がまだ頭の中で整理できてないが
現状からして捕まっていることはさすがに理解できる。
今は何としてでもここから脱出することが先決である。
まずは縛られている縄を解こうと試みたらあっさりとはずれてしまった。
ドアに耳をくっつけると監視役が扉の向こうにいるのは足音や話声ですぐ察知できた、
また窓の外にも一人男がいるのを確認した。
どうやら教会に侵入してきたのはジュリアンという男以外にも
複数存在し、のえるを痛い目に遭わすのではなく捕まえるのが目的らしい。
脱出口を絶たれたかのように思われたがのえるには一つ思い当たるものがあった、
かつて亡き神父が幼いのえるに教えてくれた教会のあらゆる場所にある隠し扉の存在を。
あの時何故そのようなものが教会にあるのか尋ねたら、
神父は少し悲しそうな笑みを浮かべてのえるに「もしかしたら、
いつか使う時が来るかもしれないから。こんなもの使わないことを願うがね。」と
そう言ったのを幼心によく覚えていた。
神父はこのような危険な事態に陥ることを予測していたのかと
今になって思う、だからいつも護身用にナイフを持つように言われていたのかとも。
のえるは音をたてないようにそぉーっと中央のテーブルと絨毯をどかし
床からは長年使われた形跡のない石畳の隠し扉が現れた。
鋼鉄製の取っ手を両手で持ち上げ力いっぱい引き上げると
そこは真っ暗な闇の中へと続く階段があった。
のえるは灯りはそのままに急いで中へ滑り込むとゆっくりと扉を閉めた。
階段は数段しかなくその先は真っ直ぐ続いていた、
中は身を縮めなければ通ることが出来ないほどの狭さである。
何も見えないまましばらく匍匐前進で進んでいくと
いきなり目の前に石壁が現れそこから先は行けないようになっていた。
「もう、進めないじゃん・・・。」
だが壁の向こうからはかすかに風が入り込んでいる、この先が出口であるのは確かだ。
石壁に手を触れ強く押し当てると僅かだが動いた、
そのまま力を込めていると人ひとりがやっと通れるくらいの隙間が出来た。
間から無理やりくぐり抜け石壁を元に戻しとりあえず茂みの中へと
隠れる、ここまで来てのえるは思案した。
教会からは抜け出れたもののその後のことは何も考えていなかった。
これから何をして自分はどうすればいいのか分からず
思わず涙が込み上げ泣きそうになる。
そんな時、いつも傍にいた優しくもぶっきらぼうな幼馴染を思い出した。
今一人でいることはとてもいたたまれなくて誰かに一緒にいてほしくてたまらなかった。
のえるは心の中に浮かび上がったただ一人の人物のところへ向かうことにした、
その行動が何を意味するのか深く考えることもなく。
真夜中、浅い眠りであったせいなのか窓を叩く音にすぐさま目を覚ました。
聖はベッドから抜け出し窓の近くへと歩み寄る。
大雨かはたまた台風でも接近してきたのかと思ったが
外はいたって静寂な夜を保っている。
「気のせいか・・・。」
だがそれは気のせいではなかった、雲に隠された斑な月を眺めていると
窓の下からいきなり少女が顔を覗かせた。
「うわぁっ!・・・の、のえる?」
少女がよく見知った顔だと分かると自分の情けない声が
聞かれてしまい急に恥ずかしくなる。
だがそれどころではないらしく緊迫した表情をした彼女は
口の動きだけで窓を開けるよう求めている。
のえるのただならぬ雰囲気を理解したのか
聖は即座に窓を開けると彼女はすかさず中へ飛び込んだ。
「のえる、どうしたんだよ。」
「助けて!!神父さまがっ、神父さまが・・・・・。」
「神父さまがどうしたんだ?落ち着けよ。」
「殺されたの・・・、それで男が私を捕まえて・・。」
「えっ・・、何だよそれ。冗談にしては面白くないぞ。」
聖はまたしてものえるの度の過ぎた悪戯だと思った。
こんな夜中にわざわざ人を起こして何かと思ったら
神父が殺されたなど嘯くとは聖はほとほと呆れていた。
「違うよ!お願い、信じて・・。」
縋るのえるの面持ちは普段の彼女からは見ることのできない
非常にまじめなものであった。
「・・本当なのか。神父さまが殺されたなんて。」
のえるは声を出さずただ頷いた。
彼女の言葉を聞いて確かめに行こうと自室のドアを開ける。
「どこ行くの?」
「教会、確かめに行く。」
「ダメだよ!危ない、聖ちゃんも殺される。そんなのだめだよ。」
「けどっ―――」
聖が言いかけた時物凄い衝撃音が家を震わし
咄嗟にのえるを庇いながら床に伏せた。
棚にしまってあった物が落下したのか背中に凄まじい痛みが走り
振動が収まるとゆっくりと体を上げた。
見るとつい先ほどまであった彼の自宅はほぼ吹き飛び家は半壊状態である。
「あ・・、父さん、母さん・・・・・。」
両親の寝室があったはずの場所からはおびただしい血が
倒れた柱や廃材と化した家屋から染み出している。
出血量から見てもう助からないだろうことは火を見るより明らかだ。
「ん・・・何が起こってるの?」
聖の胸から顔を出すとのえるもすぐに同じ惨状を目にした。
「おじさま、おばさま・・・・・・」
口元を押さえ必死に嗚咽をこらえるのえるを横目に
聖は一体何が起きているのか必死に頭の中をめぐらしていた。
「おぉ~、ここにいたんだねお嬢様。無事で何より。
抜け出すなんて思ってもみなかったから甘い見張りしかしていなかったけど、
ちゃーんと今度は縛り上げてあげるよ。」
いつの間にか瓦礫の上には高級スーツを着こなしたジュリアンが立っていた。
夜にも関わらずサングラスは外さないようだ。
「何でこんなことに・・・。」
段々暗闇にも慣れて夜目が効いてくるとあたりの状況が
より鮮明に見えてきた。
教会周辺の民家はほぼ壊滅状態、おそらくいきなり破壊されて
眠っている住民も負傷を負うか悪ければ死に至るに違いない。
「いちいち門叩いて赤毛の御嬢さんがいますかって真夜中に
尋ねるのも変だろう?だから短縮させてもらったよ。」
ジュリアンは何の悪気もなく相変わらずヘラヘラとした表情だ。
「さぁ、太陽が昇る前にこの島を脱出しようか。」
そういうとジュリアンはのえるの腕を強引に掴むとそのまま自分の方に引き寄せようとした。
が、その腕を掴むもう一つの腕がそれを阻んだ。
「あんた、何者だよ。そいつを離せよ!」
聖はジュリアンの腕を掴み渾身の力を込める。
「君こそ誰だい?お嬢様の騎士のつもりなのかな。
まぁどっちみち君にはここで死んでもらうけどね。」
言い終わるのと同時に聖の体は宙に浮かんでいた、
更に彼の腹部にジュリアンの足蹴りが真正面から飛んで
聖は吐血し気を失いかけていた。
「聖ちゃん!!」
「あれれぇ、騎士の割には随分と弱っちぃね。
まぁいいや、それではさようなら。」
ジュリアンは数時間前にのえるから奪ったナイフを取り出し
口元に笑みを浮かべたまま聖の心臓へと垂直にナイフを突き刺そうとした。
「っっ!!!」
のえるはその瞬間の訪れから目を背けた、がジュリアンの
驚く声に思わず顔を上げた。
ジュリアンの足元には聖の死体はなく辛うじて息をしている
先見た彼の姿そのままであった。
ジュリアンは唐突に出現した男に驚きの色を隠せない、
ナイフは謎の黒い布で覆われた人物が握っている。
「お前、キアラ家のもんだな。」
さっきまでの口調とは打って変わってジュリアンは
突如現れた黒いマントの男を睨む。
マントの男は何も答えない、代わりに夜天に向け発光弾を撃った。
「くそっ・・、ここでは一旦ひかせてもらう。
だが君たちの裏切りは何百年経とうとも決して忘れることはないよ。
必ず決着はつける、肝に銘じておけ。」
ジュリアンはそう言い残すと素早くその場を立ち去って闇に溶け込んでしまった。
それからすぐ黒い衣を纏った人間が何人も集まってきた、その数およそ三十人。
黒い集団はのえるたちを取り囲むように小さな輪となっていった。
「何なんですか、あなたたち・・・。」
失神寸前の聖を抱き寄せのえるは前にいる黒いマントを睨みつける。
その中の一人、先程発光弾を発射した男が前に躍り出た。
何をするのかと彼の一挙一動を見逃さないように男に目を
凝らしていたらいきなりマントの男は顔を隠していた布を外し素顔を晒した。
そしてのえるに向かい西洋人の男は膝をつき頭を垂れた。
「フェレイラ家のご息女、ずっとお探ししておりました。」
流暢な日本語が男の口から流れてきたことにのえるは驚き
次に聞き覚えのない単語が聞こえたことに疑問を抱いた。
「フェ、レイラ?」
「貴女は何も聞かされず神父に十四年間育てられてまいりました。
それを私どもはずっと陰ながら見守っておりました、
ですがこの度イエズスの会がご息女の居所を
突き止めまして彼らに先を越される前に我らが貴女様を
保護するためこうやって馳せ参じてまいりました。
ご息女には一刻も早くこの島を我らと共に離れてもらいます。」
この男が何を言っているのかのえるにはてんでわからなかった。
「あの、尋ねてもよいですか。」
「時間がないので手短にお願いします。」
「あなた方は味方なのですか。」
「当然です、貴女様を守るために我らはいるのです。
ノエル・フェレイラ、貴女に危害を加えるつもりなど毛頭御座いません。」
そこでやっと男はおもてを上げのえると視線を交差した。
真っ直ぐした綺麗な眸だとのえるは思った、この男がこの男は信用できる人間だとも。
「最後に一つ・・・、神父さまを殺したのはそのイエズスという
組織の一派なのですね。」
「はい、先程の男は組織の中の幹部ジュリアンという名の男です。
今回の首謀者はやつで間違いないでしょう。」
「・・・そうですか。分かりました、あなた方と共に参ります。
神父さまの仇をとるために、行きます。」
少女の決意を男は静かに聞いていた。
「・・・・・・ヘリがもうじき来ます。参りましょう。」
意を決したようにのえるは立ち上がる、が誰かがのえるの腕を掴んだ。
「待てよ、俺も行く。」
「聖ちゃん・・・。」
虫の息である聖は力なくのえるの腕に何とか触れているような状態だ。
「さっきの戦いを見ただろう、君が来ても足手まといだ。」
男は冷めた目で聖を見る。
「それでも、それでものえるの傍にいる。
こいつにゃ俺がいないとだめなんだ・・・・・。」
のえるは嬉しかった、嬉しくてこんな悲惨な状況なのに目頭が熱くなった。
自分のせいでこんな目に遭ったのにそれでも一緒にいてくれると言ってくれる。
「無理な相談だな。」
「私からもお願いします。」
聖に冷たく言い放つ男に向かってのえるは頭を下げた。
「ご息女・・・・・。」
男は困ったような声を出す。
自分の我儘だということは重々承知している
一緒に行けば聖もまた今のような過酷な光景を目の当たりにするだろう。
それでも彼に共に行って欲しかった。
「・・・分かりました、貴女様がそこまで言うのであれば。
ですからどうかお顔を上げてください。」
困り果てた男はついに渋々承諾し近くにいた黒服に聖を連れて行くよう命じ
自らはそっとのえるに手を差し出した。
「では今度こそ参りましょう。」
「―――――――――はい。」
のえるは差し出された手に応じるように自分の手を重ねると
覚悟を決めヘリへと乗り込んだ。
まだ彼女は己の、そして一族の過去を運命を知らず
ただ亡き父の仇を討つがために朝日が昇る大空へと旅立った。
とうとう半分?折り返し地点に到達しましたー!!