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プロローグ
夜の港。
田舎のさびれた港だが、この日ばかりは海上も陸も少し明るくなる。湾の向こう側からは人のにぎやかな声がかすかに聞こえ、こんな遠くに一人で座っている自分など関係なしに騒いでいる。
オレンジ色の街灯の明かりが腰掛けた堤防の真ん中を照らし、黒い海を際立てる。何の変哲も無い夏の海風は、昼間のそれと違い湿っぽくて重い。
こうして花火が上がるのを待っていると、今年もまたやってきたなと思う。
死者を慰める祭りは燈籠流しと花火で幕を下ろす。水面に浮かぶ小さな光の行列と、過疎地域では精一杯の一発単色の花火は盆の終わりを告げる町の風物詩だ。俺にとっては忘れられないひと夏の思い出を思い出させる物でもある。
向こうの港から、各家の燈籠を乗せた漁船が一隻、また一隻と出港していく。
「そろそろか…」
つぶやく声は、波の音と共にあの夏へ帰らせた。
そう、あれはもう三年前の事――