第二話
目が覚めると俺は居た。なんだか、ふんわり浮いた感じがする。
時々目の前にザーザーと砂嵐が現れ、体をゆっくり起こしてみると頭がクラクラして吐きそうになった。
ここは?
汗ばむ額にそっと手を当てて、自分は何なのか考えてみる。足の先から寒気が上半身にあがってきた。まるで、考えるなと言っているみたいだ。何も分からないなか、恐怖だけが静かにしていた。
起きてみて、しばらく考えたが、分かったことは少なかった。なぜここに居るのかも、今まで何をしていたのかも分からない。
それに、自分が誰なのかまったく分からなかった。
それでも、気が付くと―不思議なことに―名前はちゃんとあった。有るというより居るといった方がいいのかも知れない。ふと、そう思った。
家の中には椅子と暖炉と机、自分が寝ていたベッドしかない。何かが生活しているような感じはまったく無く、ただ存在しているだけのようだ。
彼の名前はレオ。以前は普通の村人Aであったが、今は持ち主の不注意により落下したゲームから生まれたバグである。
頭がはっきりしてきた。先程までの砂嵐も消えている。レオはフーッと息をついて、窓に目を向けた。
「………」
青い空が切り取られ、窓に収まっている。
なぜ、自分はここにいるのだろう?レオはぼうっと外を見つめていた。
時間の感覚が無くなりはじめていた。少し恐い。あれからレオは家の中をうろうろと歩き回った。なにか自分のヒントがあればと、いろいろ捜し回ったのだ。しかし、何も出てこない。レオは最後の望みを託して外出を試みた。
日はまったく落ちる気配を見せない。というより、落ちないのだろう。
太陽が照りつけ少し暑い。周りを見渡すとたくさんの人が一定の場所を行ったり来たりしている。彼らには意志がなさそうだ。
機械的に花が左右にゆれている。その上を彼らがドスドスと突き進むのだが、決して花は潰れなかった。
レオは目を瞑り、立ち止まった。この世界は何かおかしいな。それに、俺はこの世界を知っている。
大丈夫だと、なぜか思った。見たことがあるからなのかそれとも自分が誰なのかを解く為のヒントがこの世界にあるという確信があるからなのか、それは自分でも謎だ。
少し、自信がついたレオは何気ないふりをしながら、一人の若い女に歩み寄った。
「何しているんですか?」
そう聞いたことに後悔した。彼女はただ歩き回っているだけだからである。服装からみて、あまり金持ちではなさそうだ。綺麗な金髪を後ろに束ね、何か籠らしきものを持っている。まさか、答えてくれるわけないだろうと思っていた。しかし、彼女は答えてくれたのだ。透き通った声が放たれる。レオは少しドキッとした
「最近、南の方から強い邪気を感じるのです。あ、それは勇者の証!もしや…あなた様は…!!!……旅をしておられる様子ですね、城に行ってみてください。王が貴方を待っています」
話を聞きおわった瞬間、突然世界が暗やみに包まれた。空を見ると四角く黒い物体が太陽を覆っている。その物体には彼女が言った台詞が白い文字で書かれていた。それはずっとそこにあったが、レオが恐くなって後退りをするとパッと消えた。空はさっきのように青い。気がつくと彼女はレオの事などお構いなしで、再び花畑の中を行ったり来たりしていた。
なんだよ、勇者の証って……。それに、旅をしておられる様子ですね、だって?何言ってんだ、あの人。
レオは何も言えずただ立っていた。