ランプの
「呼びましたかな?」
まるで覚えのないランプから、呼んだ覚えもないおっさんが現れた。
いかにもな格好をしている。いかにもランプから出てきそうな身なりだ。
俺はその突然の出現に、自分の部屋で腰を抜かしそうになる。
先程までなかったランプがこつ然と現れ、こちらも煙のように突然に、このおっさんが現れたのだ。
何だこいつ?
ああ、分かった。ランプの精だ。
「お分かりいただけないようで。実は私はランプの精でしてな」
間が悪いおっさんだ。
分かった瞬間に分からなかったと決めつけて、人の話も聞かずに実はなどと自慢げに名乗り上げている。
そうだ。俺は直前まで、この代わり映えのしない日常に飽き飽きして、色々と妄想をしていたのだ。
突然宝くじに当たらないかなとか。突然モテモテにならないかなとか。突然神様が現れて不老不死にしてくれないかなとか。
魔法のランプの一つでもあれば、そこからランプの精が現れて、三つの願いを申し出てくれるのにとか。
そんな他愛のないことを、暇を持て余して考えていたのだ。
どうやら俺の願望が、このおっさんを呼んだらしい。
「驚いているようですな。はは、ですが私は本物のランプの精でしてね」
おっさんは自慢げに片方の眉だけ上げる。
「あなたの願いを三つ叶えましょう」
ランプの精は、いかにもなことを申し出る。
三つの願いだ。よくある話だ。誰でも一度は夢に見る状況だ。俺も先程まで夢想していた。
だがどうすればいいのだろう? 一つ目の願いは、叶える願いの数を増やしてもらうのが定石だろうか? それは反則だと、拒否されるだろうか?
しかしこれは絶好の機会だろう。
億万長者か? 恋人か? それとも不老不死か?
この三つだけでも価値がある。この手の話には、色々と失敗談があったはずだ。その轍を踏む訳にはいかない。
ここは慎重に――
「では一つ目」
ここは慎重にと思ったら、向こうが勝手に口を開いた。
「先ずは、魔法のランプを手に入れたい。そんな願いを叶えました」
何だと?
「二つ目。そこから不思議なランプの精が出てくる。そんな願いも叶えました」
何だって?
「三つ目。三つの願いを叶える。そんなことをその精が申し出てくれる。そんな願いも叶えました」
はい?
「では。またのご利用を」
ランプから出てきたおっさんはそう告げると、出てきた時と同じように煙のごとくこつ然と消えた。