ワタシとアナタ
「イイじゃん、別に♡」
「よくねえよ、ヘンタイがっ」
ペッと唾…オイルを吐き掛ければ、目の前のヘンタイは、気持ちの悪い笑みを此方へと向けて、
「もっと、シテ…? さあ…さあっ♡♡♡」
荒い呼吸で迫ってくる。
「くっ…来るなアっ! こンのっ、ヘンタイッッ!!! 」
世の中は、不条理だ。自分にとっては【当たり前】でも、多数派が【当たり前じゃない】となれば、それだけで『異常者』扱い。
そんな世の中だから、カノジョは悩んだのだろう。己の欲を満たしつつも、他人に迷惑を掛けない方法を。
「アタシだって本当は、人間の女の子と関係を持ちたかったんだよ? でも…」
「同性が恋愛対象だと、異性が対象の恋愛以上に、ハードルが高い。それならいっそ、自分好みの女の子を作っちゃお♡で、ワタシを生み出したんですよね? 」
「それが解ってるなら、博士のアタシとーー」
「でも、アナタはワタシに感情や意思を入れて、少しでも“人間の女性らしさ”へと近付けた。ワタシの中の【人間の女性】としての部分が、アナタとの恋愛を拒否しています」
「……………其処まで、忠実に再現しているとは…」
自我のあるロボットに博士として喜びたい反面、ワタシを製造した目的である、女性としての喜びを味わえない事への不満という矛盾に、ヘンタイは苦しんでいた。
「………」
そんな博士に、ワタシはーーうんん。此処から先のカンケイに、進めちゃ駄目だ。
それが、ワタシとカノジョの為でもあるのだから…。
***
アタシの求愛に対して、雑な応対をするロボットに、寂しさを感じつつも、何処かでホッとしていた。だって、もしアタシの願いが叶ったらーーうんん。来ない日の事を考えても仕方がない。
***
ワタシとカノジョの為ーーそう考え、塩対応を取ってきたのに…。
博士の、【人間の女性】は忠実に再現されていたからか、抑えてきた感情が暴走してしまった。
「はあっ…はあっ……ヘンっ、タイ…」
「……現在は、君が変態だけどね? 」
ワタシは、博士を押し倒して、カノジョを見下ろしていた。カノジョは漸く願いが叶う事への喜び…というよりも、驚いてて、何処か寂しそうな表情でワタシを見つめていた。
「……なん、で…? 」
「?」
「なん、で……ワタシが、アナタに、こーゆうコトをするの、望んでたクセに…」
「……」
「如何して、そーゆう表情で、ワタシを見るの…? 」
カノジョは、ワタシにこーゆうコトをされたいと願っている。でも…実際にこーゆうコトをされるのを、望んでいない。だってカノジョがワタシに求めている事はーー
「アナタの隣に居られない未来に、ワタシの幸せは存在しませんっ! 」
「ッ……」
ヘンタイは、積極的に求愛行動を取る癖に、迫られると途端に臆病者だ。…うんん。
博士はーー自分の欲を満たす為にワタシを製造したが、いざワタシと関わっていく内に、情が湧いたのだろう。自分の欲望を満たす事よりも、ワタシの幸せを考える様になり、こうやって、変態的なアプローチをする割に、ワタシが本気で嫌がる様なコトはしてこなかった。
メンテナンスとかで、ワタシの身体をこれでもかと弄れる機会は、幾らでもあったのにだ。
「アナタが、ワタシに【命】を与えてくれたんですよ? アナタがワタシの近くに居なかったら、ワタシは生きていけない」
「そっ…それは大丈夫! アナタの旦那さま候補は、機械系が得意なーー」
「そーゆう問題じゃないっ!!! 」
「ッッ…」
「ワタシは、ワタシの意志で…感情で…アナタを慕ってると、訴えてるっ! だから…だかーー」
……あれ? 意識が……博士……なん、で…?
***
素直に喜べたら、どれだけ好かったのだろう?
「慕ってる、か…」
それは、恋愛対象として? それとも…【一人の人間】として…?
ロボットが、其処まで複雑な感情を持つワケがない。だから、背中の強制停止ボタンを押して動かなくなったこのコの台詞を、鵜呑みにしちゃいけない。
期待したら……もしこのコの求める【慕う】の意味が違った時、お互いに苦しいだけだから…。
「……不純な理由で、ゴメンね…っ」
友達が欲しいから…。そんな理由なら、キミと普通に関われたのかな?
「アタシの事、『慕ってる』って言ってくれて、有難う…♡」
もっと、色んな世界を見て、それでもアタシの隣に居たいって言ってくれるならーーうんん。アタシじゃ、キミを幸せに出来ない…っ。
だって……キミを製造しようと思った動機は、余りにも身勝手なモノだから…っ。
「……ハハっ…。如何して、普段は積極的なのに…」
こーゆう時に限って、勇気が出ないのかなあ…。
暫くの間…うんん。もしかしたら、もうこのコを再起動させる事はないかもしれない。アタシなんかを好きだというキミは、幸せになれないから。
「アタシがお婆ちゃんになった時に、また逢おうね? 」
そしたらキミは、なにかあった時に自分を修理してくれる、若いロボットエンジニアと、恋に落ちてくれるから…。




