裏表などない
生徒会の手伝いを免除してもらい、日常生活も少し落ち着いたと思っていれば、あっという間に冬休みに入っていた。
「おぉレイよぉ!! 今年はお前も来たんかぁ!!!」
宣言通りに王立騎士団に稽古をつけてもらいに来て、案内されて入った更衣室には一つ上の先輩のグラヴァルドさん。
「……えぇ、グラヴァルドさんもいらっしゃったんですね」
「そうじゃぁ! ワシは毎年長期休みの間はぁここに世話になっとるのぉ〜!」
「グラヴァルドさんでしたら、王立ではなくどこかの傭兵にでもなるのかと思いました」
その自由な性格に対して思ったなんの気なしに口にした言葉は、何故かグラヴァルドさんにしては返事に間があり、不思議に思いその立派な体躯を見上げればその目は何か言いたげに細めて笑われると、大きな手で頭を撫でられた。
「……やめていただけると」
「ガハハ! そうじゃのぉ〜! レイも立派な男じゃったわぁ〜!! 父上達とぉ王立騎士団に入るのかぁ!?」
「……えぇまぁ」
「そぉかぁ!! ここで会ったならばせっかくじゃし対戦でもしたいところじゃがなぁ……ここにはワシらよりも比べものにならんほどの猛者がおるからのぉ。対戦は新学期にお預けじゃぁ!!!」
私の迷いなど気付いた様子もなくガハハと豪快に笑って先に更衣室を出る彼を見送り、「出来るなら新学期も嫌だねぇ」と呟きながらも、なんだか先程の視線の意味が気になるが、そろそろ時間だと着替えて足早に訓練場へと向かった。
訓練が始まれば、それはお試しの学生相手とは思えぬ程の厳しく辛くもあるが、もし戦争ともなれば駆り出されるであろう身としては、歯を食いしばって堪えていく。
そんな時ふとグラヴァルドさんを見れば、その口元は笑っているようにも見えて、自分との違いを見せつけられた気もした。
*****
「……今日も笑ってましたね」
「そぉかぁ!!?」
訓練も数日目。疲労困憊な更衣室で荷物置き場が隣り同士の彼に声を掛ければ、気にした様子もないその返事に着替えつつ少し呆れた視線を返してしまう。
「そうじゃったかのぉ? まぁ強くなれるのは楽しくはあるし、そうかもしれん!!」
「楽しいですか」
「ワシが強くなれば、ロィ……いや、この国も助けられるしのぉ!!」
王太子の名前が出た気がして見上げたが、気にした様子もなく着替えをしている。
その傷の多くあるその身体は、肉体の限界に常に挑んでいるのだろうと察しられ、自分との違いに胸に何かが燻った気がした。
「しっかしレイはぁ綺麗な肌しとるのぉ!」
「……やめてくれませんか?」
「なんでじゃ? こんな格上相手ばかりに打撃を受けてもうまい具合に躱しとる証拠じゃぁ!! そりゃぁ誇ればえぇんじゃ!!」
少し驚いてその顔を見上げれば、単純にも笑うその顔が目に入る。
「ふふっ、ありがとうございます」
「おぉ!! ならばぁ新学期に対戦…」
「それはお断りします」
「つれんのぉ」
豪快に頭をかくその体躯の影に隠れて手早く着替え、部屋を出ていく。
同じ学生ばかりの男子のみの更衣室とはいえ、隠れて見られているよりも、あぁも明け透けにも裏表のない人も珍しいと思えば緩んだ頬は仕方ないと思えた。
「まぁ……だからといって好んで関わりたい性格ではないけどね」
思わず呟いた言葉は本心だと、それでもただ少し素直に嬉しいのかもしれないと、もう一度少しだけ頬を緩めた。





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