困るねぇ
「やはり、経験者がいないと詳細が聞けずに困るね」
「せやな。教員らにも聞いてもここ数年は生徒会で済ませられてて知らん言われたしなぁ」
新年度が始まり少し経って、今まで特に大きな問題もなく過ごしていたが、過去のファイルと見返しつつする仕事は手間取りながらもなんとかこなしてきたが、やはり確認からの行動では二度手間だと生徒会顧問を頼んでも教員も忙しいと誰も首を縦には振ってくれず、仕事内容も把握していないと突っぱねられてしまう日々。
「分かってはいたけど、なかなか厳しいね」
「まぁ新入生もなんやえらい光魔法保持者がいたとか話題になっとったけど、聞こうとしても妙に露骨に話題逸らす子もおったし、なんかあったんかな?」
「そうなのかい?」
「まぁえっらいお偉いさんの多い学年やし、深入りして聴くのも怖いしな。危うしに近寄らずや」
それは調べる気も聞く気もないのだと言っていて、確かに危うしに近寄らずは正解かもと……、それに現状必要以上のトラブルは避けたいと、そっと頷いてそれ以上の詮索は不要だと了承する。
それでなくとも、二人だけの生徒会は良き方にとってくれる生徒もいれば、良しとしない生徒からの言葉も聞こえてくる。
表立っては言われなくとも、力無き平民が権力の為とかなんだと言われているのは知っている。
しかしこの仕事のどこにそんなものがあるのかとも思うし、それならば手伝ってくれと思ってもそれは私たちの下に付くとなれば嫌なのだろう。
軍神などと呼ばれる父や王立騎士団の団長の兄を持ち、一応……というのは失礼かもしれないが、魔法祭優勝の私に堂々と挑んでくるものはなく、肩書きの大事さを感じる日々。
それこそロットこそ危ないかと思うが、彼の危険は彼を守るものによってそれこそ『危うしに近寄らず』となり、それに表立って言われれば、弁が立ち、なによりも人当たりの良い人柄でなんとか躱しているのだろう。
悔しいがリランくんが先立って他に生徒会に入れないとの手続きは、二人の防波堤にもなっていると気がついてしまう。
「とはいえ書記くらいは欲しいねぇ」
「それはそうやな! 出来たら計算が早くて字が綺麗で大人しい男がええな!」
「ふふっ、そう都合よくいるかな?」
「おらんやろな! おったらうちの店の事務で働いてもしいわ!」
「店も大変かい?」
「おかげさんでな。おっちゃんがこの前のパレードで着とった衣装の切れ端でも欲しい言ってくるのもおって、アレなんなん……あ、余計なこと言ったわ。すまん」
「こちらこそ」
ロットがあえてではなく口を滑らせるのは疲れが溜まっている証拠だと、互いに少し眉尻が下がる。
「でもま、先輩方も濃い先輩言うたらグラヴァルド先輩くらいやろ? 後輩くんらは王太子殿下が抑えてくれるやろしってか、そう信じたいし信じとるし、いや〜ぁしんどいかと思うたけどなんとかなりそうやな!」
「ふふっ、前向きだね」
「そらそう思い込まなやってられへんわ」
口ではそう言いつつ舌を出して嫌そうな顔に私は笑って、
「私はロットと二人でいられれば楽しいよ」
本心を告げれば、ロットはさらに嫌そうな顔して「世紀の美形は言うこと怖いわ」と半目で返された。
「ふふっ、まぁいいさ。もう午後の授業の時間だね。私はこの報告書と予算案を教員に出してから行くから、ロットは先に行って。修正あればまた放課後もやらないといけないしね」
「ほなお言葉に甘えさせて貰うわ。こっちは次の授業のセンセ時間に厳しいし、オレなんかが遅れて授業止めれば何言われるかわかったもんやないからなぁ〜」
「経済学も大変だね」
「領主様になるようなお方が多いしな〜……って言うてる間にホンマ時間や! お言葉に甘えて先行かせて貰うわ!」
「あぁ、こちらは気にせず」
返事もそこそこにロットは荷物を大慌てで纏めると出て行った。
「さて、私もさっさと終わらせて向かおうかな」
自分も遅れれば周りから何か言いたげな顔をされることもある。しかしありがたいこと……と言うのも変だが、女生徒達からの言わせない雰囲気と「生徒会長の仕事だから仕方ない」と擁護してくれる人間も多い。
ただの善意だけだとは思えないソレに、こちらもただの感謝を返すのも難しいとは思いながらも、微笑めば許してもらえるのは得と言えば得なのかもしれないと……それでも息が詰まるというのは我儘かと、吐いたため息には気付かないふりをした。
次回最終話です。





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