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第3話 1匹目と心を解く一杯

ぎょっとして音がした方を見てみると、そこにはボロボロの動物が1匹。


薄汚れていて傷だらけ。

フラフラしながらもこちらを警戒している。


「えっ……犬?いや、狼……?」


銀色の毛並みと、額にうっすらと浮かぶ三日月のような模様。まだ幼い、子犬くらいの大きさだ。

けれど、その存在感は不思議と強い。直感だけど、普通の動物ではないことがわかった。


そっと歩み寄ろうとするが――


「わっ、わわっ!?」


子狼が「シャーッ」と言いそうな勢いで、身体を逆立てて威嚇してきた。

小さく「グルル……」と唸って、全身をぷるぷる震わせている。


「ちょ、ちょっと待って!?ごはんとか取らないから!ていうか私も今、ポシェットしかないから!」


そう言いつつポシェットを盾のように突き出した。

とりあえず、迂回して離れた方がいいかな…とポシェットに隠れながら後ずさりしつつ子狼の顔をそっと伺う。



でも、その目を見た瞬間――茜は動けなくなった。


怖がってるだけじゃない。怯えてるだけじゃない。

その奥に、ものすごく深い「孤独」みたいな何かが、にじんでいた。


――バカじゃん。なにこんな小さい子をこんなとこでひとりにしてんのよ。


ふと、足元に落ちていたものに気づく。焼け焦げた革の首輪。ちぎれた鎖。


「……もしかして、逃げてきたの?」


子狼は、その言葉に反応したのか、一瞬ぴくりと耳を動かした。

でもまたすぐに、じりじりと後ずさる。


「……大丈夫。捕まえたりしないから」


茜は、その場にそっとしゃがみこみ、なにか食べられそうなものはないかと金盞花のポシェットを開いた。すると、茜の足元に金盞花のような魔法陣が広がり、目の前には1口のガスコンロのようなものと、大きめの瓢箪が1つ。どちらも金盞花の金細工が施してあり、古風だがとても洗練されたデザインだ。瓢箪の中を覗いてみると新鮮な水がたっぷり入っていた。


…これは、使える!


たしか調味料コレクションの中に、だしの素と味噌があったからそれでお味噌汁にしよう!

具材がないのがちょっと残念だけど…あたしもお腹空いたし!

ん?狼にあげていいのかな…?ま、いっか(笑)お出汁の匂いには抗えないでしょ!

そう思いつつ、子狼を怖がらせないように愛用の小鍋を取り出した。

コンロに火を付けると金盞花の花模様の炎が揺らめく。

小鍋に瓢箪の水を注ぎ、お湯を沸かす。


「お腹空いてるでしょ?ちょっと待っててくれる?」


瓢箪の水とポシェットに入っていたお気に入りの出汁の元を入れてひと煮立ち。

お湯が沸くまでの間、そっと子狼に話しかける。


「……私、茜っていうの。よくわかんないままここ来たけど、なんでか料理はできるみたいなの。食材がないからこんなものしかできないけど……食べるだけ食べて?食べたら逃げていいから。」


周りにはお出汁のいい香りが漂い始めた。

特製の味噌を溶かしいれる。

よし。完成。



じっとこちらを睨んでいた子狼が、

湯気に混じった出汁の香りに、ほんの一瞬だけ鼻をひくつかせた。


「お待たせ。」


カップに注いだ味噌汁を地面にそっと置いて、数歩下がる。


子狼はあたしと味噌汁を交互に見た。

まるで「信じたい気持ち」と「また裏切られるかもしれない恐怖」が、戦っているような目で。

なんだかその目が、パワハラ左遷されたあの時の自分と重なった。だからこの子を放っておけなかったのかもしれない。


「…お腹、空いてるんでしょ。」


そう声をかけ、離れたところから見守っていると

一歩一歩、味噌汁に近づいてきた。


警戒しながらも、そろり…と近づき、くんくんと匂いを嗅ぎ──


「……」ぺろっ。


一口だけのつもりが、ちょっと驚いたように目を見開いて、そのままちびちびと飲み始める。



「あっ、食べた!よしよし、えらい!!」


そう言ってそっと手を伸ばしかけた瞬間――


「……わっ!?あー、まだ触られるのはダメか、そりゃそっか、ごめんごめん!」


子狼はぴょん、と距離を取った。

でも、逃げない。

よかった…とりあえず食べてくれて。

ほんとは怪我も見てあげたいところだけど、動物の治療なんてやったことないし

そもそも包帯とかも持っていない。まあ、触らせてもくれないし…(笑)


うん。この森で暗くなるまでいるのもよくないだろうし、

人助け…というか狼助けもできたし、あったかいお味噌汁で空腹感もちょっと紛れたし。

食材集め再開しますか!できれば、この世界のことが分かる人に会いたいな~?

とか思いつつ森の中を1人で進み始めたのだが。


「……ついてきてる?いや、気のせい? いや……絶対気のせいじゃない!!」


こっそり後ろを振り返っても、姿が見えない。

本人は気配を消しているつもりなんだろう。

だけど、葉っぱが揺れる音や、小さな足音が絶妙に聞こえてくる。


「……もう、気になるってば」


着かず離れずの距離を保ちつつ、あたしと1匹は森の中を進むことになった。

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