第2話 クックパッドから始まる転生ごはん
気がつくと、私は見たこともない草原に立っていた。
雲一つない青空に、ピクニックするならこんなとこだよね!!って感じの広々とした草原。
あれ?でもよくよく見ると空中に浮かぶ島とか、やたらとでっかい鳥みたいな何かが飛んでる…
いや、待って待って、何この景色!?
ていうか私、なんで立ってんの!?さっきまで会社のデスクで箸を…
箸……
あ、あった。
手には、あのマイ箸が握られていた。
なぜに箸(笑)
激務が続いてとうとう弁当食べながら寝落ちしちゃった…?
そんな自分にちょっと呆れながら、さすがに休憩時間がもったいないし目が覚めないかな~と思いつつ箸をカチカチと動かすと、ぽうっと淡く光り出した。
え!?なに?!怖いんですけど!!!
まさか…本当に魔法のアイテムだったりする?(笑)
夢だったらさっき頭によぎってたことが起きるなんてことがあってもおかしくないもんね。
にしても、なんで夢にこんな現実的なものがあるんだ…?
ま!夢だし考えたところでしょうがない!
箸が魔法アイテムっていうあたしの想像力に笑えるけど、
やっぱりなんか魔法とか使ってみたいじゃん!
「火の玉出ろ!」
………あれ?
「風よ吹け!」
………う~ん…。
うん!やっぱ無理!夢ですら夢を見せてくれないのね!!!泣
いいですよ!!どうせすぐ目が覚めるし!!!
とか思っていたんだけど。
…おかしい。
こういう時は指をつねってみるといいとかいうからやってみたのに…痛い。
え、これって現実!?まっさか~(汗)
流行りものの異世界転生にしては雑すぎない!?
なんか説明とか転生者特典とかあるんじゃないの!?!
え…それとも、棒国民的人気アニメの鬼斬りの話みたいに幻術かなんかにかかってて自分の首を切り落とさなきゃいけないやつ!?!やだ!怖い!!なんて、時間が経つほど嫌なほうに考えてしまう。
落ち着け赤月茜。まずは深呼吸。そして、深呼吸。
……あ、でもめっちゃお腹空いた。
とりあえず腹が減ってはなんとやら…だし!
そういえば、さっきコンビニ弁当食べようとしてたじゃん!
と思って周りを見てみたけど、何もない。
そう、何も。
「うっそ!貴重品は!?スマホは?!PCは!?!」
手には箸のみ。
あたしにどうやって生きていけと…!?!
あまりにも絶望的すぎる状況。
あたしは箸を握ったままその場に座り込み、ぼーっと箸に描かれている金盞花の模様を眺めた。
その瞬間
片方の箸が光始め、模様が浮かび上がり始めた。
「え…え!?なに!?!」
あまりにも非現実的な光景に驚いていると、その光った箸は形を変え
金盞花柄の巾着型のポシェットになっていた。
「えええええ!!!かわいすぎる!!!!」
ポシェットを手に取って中を見てみると、底が見えない。
なんだこりゃ?アイテムボックス的なやつ?
あれ?でも、よくよく中身を見てみると、愛用していたキッチンツールが入っている…?
恐る恐る手を入れて取り出してみると、手に馴染んだしっかり磨かれた包丁が出てきた。
「ほんとに出てきたんだけど!?どんだけ私、料理スキルに全振りされてるの…」
思わず苦笑してしまう(笑)
それでも、手にしっくりくる重さとバランスに、なんだか少し安心感が湧いてきた。
しかもコツコツと揃えていた調味料まで揃っている。
久々の愛用品たちにテンションが上がっていると、ポシェットの中に1冊の不思議な本が見えた。
金盞花の模様があしらわれた布張りの魔導書。
本を開くと「記すべし、記憶の食。陽の輪が応えん」と金色の文字が浮かび消えていった。
他のページを見ても何も書いていない、まっさらなノートだ。
「記すべし…って言われても…。今食べたいものってなんだろ…?おにぎりとか?(笑)」
と言いつつ、まっさらなページに指で「おにぎり」と書いてみた。
すると…ページに金盞花の花びら模様が浮かび上がり、魔導レシピが現れた。
《基本の“異界米”のおにぎり》
・ムギト米 1合
・岩塩草の結晶
・焼きチュリ根 or シルミン魚のほぐし身
「なにこれ…異世界食材なのに、おにぎりの作り方になってる…!?」
なんと料理する人はほぼ100%見たことがあるであろう日本最大のレシピ共有サービスのあの検索サイトのようなおにぎりのレシピが浮かび上がってきたのだ。
これは便利過ぎる…!!!
さすがに食材までは召喚されなかったから、そこは自分で手に入れないといけないみたいだけど
キーワードを書けばこの世界のよくわかんない食材でも美味しく食べられる方法が分かるってすごいことじゃない!?
…仮にもしこれが夢じゃなくて、本当に転生ものだったとしたら。
あたしにとって最高の装備アイテムだ。
マイ箸、万歳!
あ!じゃあもう1本の光らなかった箸も何か便利なものに変化するのかな?と思って模様を辿ってみたけど…残念ながら特に変化はなし。
まあ、そんな旨い話はないか(笑)
とりあえず、大事な箸だし簪の容量で髪の毛をくくることにした。
一安心したところで、
キュルルル〜……
――わりと盛大なお腹の音。
「う…お腹空いた。…仕方ない、まずは食材探しからスタートかな」
気を取り直して、私は立ち上がった。
頭には、簪代わりに差した片方の箸。
キッチンツールがたくさん入った金盞花の巾着ポシェット。
そして…空腹。
「これ、意外とサバイバル系なのかも……」とぼやきながら、私は草原の奥へと歩き出した。
すると、草むらの向こうからガサガサッと音がした。