雨と少女
天音ちゃんと、大雨の中で出会った。
小さな天音ちゃんが、アパートの駐車場で雨宿りをしている。
俺は、天音ちゃんを、餌付けしていた。
『台風7号は、沖縄から離れつつ在りますが。引き続き、雨による土砂災害や河川の氾濫に警戒して下さい』
東江は、バケツや鍋等を、並べて。雨漏りの箇所を確認作業をしている。
だが、こればかりも、していられない。
「何だ、13∶00時、過ぎてるじゃん」
俺は、どうりでお腹が空くわけだ。
溜まりそうな、容器の水を捨てて。コンビニへ向かった。
キッチンも、それなりに、綺麗にしたし。床も、分厚いベニアを追加した。
自炊も、そこそこしているが。今日は、冷蔵庫に、何もない。
大きな黒い傘を差し、厚手のスウェットに着替えて。肌着は着ていない。
台風で、洗濯が間に合ってなかった。
車があると、深夜のコインランドリーで、乾燥できるのだが。近くに、無いのが不便だ。
スリッパを、パタパタと鳴らしながら、雨の道を歩く。
ビールの6缶パックを買い、適当な摘みと、オニギリ。から揚げも足して、白Tも忘れてない。会計を済ませて、外に出た。
モナカのアイスを開けて、袋はコンビニに捨てた。
雨の中、オジサンがアイスを食いながら、一人で住宅街を歩いている。
不思議な光景ではないが。沖縄では、違和感がある。
そう。沖縄の人は、歩かない。
200m先にあるコンビニへ、タバコを買いに行くのに車を出す。不思議な県民だ。
それに、傘も滅多に差さない。
ずぶ濡れになっても、晴れると直ぐ乾くという理由で、傘を持たない。車を使う。
俺は、浮いてる存在なのか。
荷物を抱えて、アパートに辿り着くと、駐車場に、少女がいた。
50前の初老のオジサンが、関わってはイケナイ案件だ。
分かってはいる。分かってはいるが。放置は出来ない。
手に持った袋を。アパートのステンのポストの上に置き。
東江は、もう一度、コンビニへ戻った。
雑誌コーナーで、ナンプレを買い。お菓子コーナーで、駄菓子を大量購入して。3個バッグの四角いジュースを買った。
※警察案件です。真似はしないで下さい。
雨は、降り続き。東江の願いは、届かなかった。
少女は、冷たい地べたに座り。向かいのアパートを見ている。
俺は、カメラに収まる中央に座り。
ビニール袋から、3個パックのジュースを取り。ビニールを破り、一つを取り出した。
「お嬢ちゃん飲むかい」
これが、天音ちゃんとの出会いだった。
『こく』と、頷き。
俺の手から、ジュースを奪い取った。
だが、ストローが中々取れない。
天音ちゃんが、歯で食い千切ろうとしても、伸びるだけだった。
俺は、違うヤツを取り出して、ストローを取り出し。パックに刺した。
天音ちゃんは、苦戦したのを俺に渡して。ストローが刺さった方を奪い取り、強く握った。
ジュースは、勢い良く飛び出し。天音ちゃんは、素早く口を付けた。
ストローから、口を離さない。ゴクゴクと喉を鳴らして、パックを潰して行く。
喉が、渇いていたのか。口から離すと、バックの膨らむ音が聞こえてくる。
『ズズズッ』
次に、ビニール袋の駄菓子を漁り始めて。魔女っ子のウエハースチョコを取り出した。
これも、開けられないと、渡してきた。
袋を開けると、また、奪い取り。
ウエハースチョコを口に入れた。
最初の会話は、
「ピンクは、可愛いけど。1番は、3番の黄色が好き」
理解が、できなかった。けど、
キラキラシールを捲って渡すと。
全てを、はがして。貼る場所を探して。
自分の洋服の胸に貼って、喜んでいた。
「お母さんと、お父さんは、何処かな」
勝手に、打ち解けたと思い込み。訪ねた。
「ママは、アッチ。パパはいない」
アパートの二階を指していた。
「ママは、何をしているのかな」
雨降りに、外に出して、探しもしない。
「分からない。新しいパパが、来てるの」
天音ちゃんは、首を振り。知らないと答えた。
「天音ちゃんね、もう少しで、お姉ちゃんになるの。だから、良い子にしないと怒られるの」
聞きたくない事を聞いてしまった。
「ママが、怒るの」
母親も、児童虐待をしているのか。
「ママは、天音ちゃんが、悪い子だから。新しいパパに、叩かれているの」
男が、児童虐待をしているのか。
「天音ちゃんは、ママの事好き」
聞かないと、いけないと思った。
「ママは、好き。新しいパパは、嫌い」
子供は正直だった。
「ママは、パパと結婚……」
2階への階段から、男が降りてきた。
そのまま、傘を差して、駅の方へと向かった。
天音ちゃんは、柱の陰に隠れながら、男の行動を目で追い掛けている。
男が、角を曲がり。姿を消すと。
天音ちゃんは、路地の道を、雨に打たれながらも、左右を確認して道を渡り。
階段は、壁を使いながら、急いで登っている。
振り向きもせずに、家に向かっていた。
俺も、母親に文句を言おうと、天音ちゃんを追いかけた。
2階へと駆け上り、通路を見ると。
203号室に、天音ちゃんは入った。
天音ちゃんの部屋が手前だったら、見失っていたかも知れない。
俺は、203号室の前で、大きく息を吸い。そのまま、吐いた。
意を決して、チャイムを鳴らす。
誰も出てこない。
もう一度、鳴らした。
それを、3回繰り返して。
天音ちゃんが、怯えながら出てきた。
俺は、この光景が忘れられない。
これからは始まる、火事も。
天音ちゃんは、俺の顔を見ると、ホッとしたのか。部屋の中へ消えた。
呼ばれているのか。母親の影が見当たらない。
東江は、ドアを全開に開けて。監禁罪を、否定しようとした。
「天音ちゃん。お母さんは、何処かな」
ここが、天音ちゃんの家なら、母親はどこへ行った。男が、降りて来て直ぐだ。消えたのか。
色々と考えていると、焦げ臭い匂いが、鼻を襲った。
東江が、ドアを開け放っていたから。空気が、ドアの方に流れていた。
次の瞬間、ベッドで炎が上がった。
それと同時に、警報機が鳴り響き、天音ちゃんが、丸くなりながら。
『キャー。助けて』
奥の部屋で、助けを呼んだ。
俺は、スリッパを脱ぎ、家に上がった。
寝室の窓を開けて、燃えている布団を丸めてベランダへ投げた。
現れたのは、発火装置に使われたアイロンだった。コンセントが、刺さっている状態だ。
最初に、コンセントを抜き。
上着を脱いで、炎を上着で叩いた。
何度も、何度も。火が消えるまで、ひたすら、上着を振り下ろし。叩きつけた。
火が消えると、慎重にアイロンを持ち、ベランダに投げ捨てて。
臭くなった、マットレスもベランダに移動させた。
幸いにも大雨で。布団が、ベランダに有った、水溜りを吸い上げている。
放置しても、安全だと思った。
玄関には、野次馬が溜まっていて。
俺は、ボロボロになった、上着を着た。
「すみません。ボヤです。お騒がせしました」
東江は、頭を下げて。安心させた。
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