表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
タネナシとキュウコン  take2  作者: 愛加 あかり
7/18

ナンシーと借金2

東江は、ホームセンターへ行き。贈答用の洗濯洗剤を大量購入して、各家々を挨拶して回った。

その時に、兆志と普に出会った。




 俺は、玄関を開けて、荷物を中に入れた。

 凄く、カビ臭い。


 取り敢えず。家の中を歩き回り、窓を全て開けて、空気を入れ替えた。


 最低でも、親父が亡くなって、4年は経過さしている。

 最初にする事は、現金をタンスに移す事だった。

 自分の部屋へ行き。空の引き出しに、お金を全て入れて。

 なっちゃんが準備した服を、上からばら撒いた。


 スーツも脱ぎ、スウェットに着替えた。

 帯の付いた、現金から一束抜き取り。もう一度、戸締まりを始めた。


「もしもし、赤嶺社長ですか。電気が止められていて、何も出来ない。ええ。そうです、ガスも、水道も、お願いできますか」


 俺は、この家を売らずに。しばらく住むことを決意した。


 最初にする事は、大家としての挨拶まわりをするだった。


 近くのホームセンターへ行き。贈答用の洗濯洗剤を選び、15箱を購入した。


 お盆シーズン前で、色々な贈答用の品が並んでいた。

 だが、挨拶まわりは、洗濯洗剤が支流だ。一択だった。他に目もくれない。


 カートでタクシー乗り場まで運び。

 


 往復で、タクシーを使い。経費がかさむ。

 だが、長時間、家を空ける理由にはいかない。


 俺は、5つずつ持ち。夕方から、挨拶まわりを開始した。


 405号室から開始して。最初に、兆志と遭遇した。


『ピンポン』


「今晩は、後ろに越してきた、大家の東江です。これ詰まらない物ですが。宜しければ、お使い下さい」


「あっ、はい。有難うございます」


「それでは、失礼します」


 これが、兆志との最初の会話だった。


 次々と廻り。

 最後に、ナンシーの家に挨拶をした。



 最後のナンシーの家の箱だけ包装が違う。

 それを、一度確認して。チャイムを鳴らした。


『ピンポン』


「押忍、ご要件は何ですか」


「今晩は、後ろの家に引っ越しをしてきた、大家の東江です。これ、詰まらない物ですが、お使い下さい」


「押忍、有難うございます」


「それじゃ。オジさん行くね」

 最後は、緊張し過ぎて。逃げるように帰ってきた。


 挨拶回りを終えて、勝手に一段落していた。


 ナンシーは、ベランダでスケベな下着を、取り込んでいて。俺の行動の一部始終を、上から見ていた。


「お母さん、新しい大家さんが、これをくれた」


 普は、母親のナンシーに、ビニール袋から取り出した、綺麗に包装された箱を取り出してみせた。


「お母さん、これ開けて良い」


「ええ、良いけど。どうせ、お素麺か、洗剤のどちらかよ」


 普は、包装紙を丁寧に解き。箱を見た。

 見慣れた、月の絵が有った。


「お母さん、洗剤みたい」


「何を期待したの。普は」


 普からの返事は無かった。

 がっかりしたのかと思って、部屋の中を覗くと。

 箱の中に、札束が入っていた。


 普は、その中から、1枚を抜き取り、スカシを確認している。


「お母さん、これ、本物かな」


 ナンシーは、慌てて、取り込んだ洗濯物の上を跨ぎ。普の一万円を奪って、スカシを確認した。


 この手触りは、難度も確認してきた、一万円札だった。スカシも、本物に見える。


 札束が、12束入っていた。

 手触りからして、全て本物に感じた。


 これさえ有れば、普通の人生に戻れる。ヤクザなんかに、追われなくても済む。

 ナンシーは、借金返済を考えていた。


「お母さん。これ、オジサンに返さなくて良いのかな」


 ナンシーは、現実に戻されて。一万円札を箱に戻して、蓋を締めた。


 これは、罠だ。このお金を使って返済したら。また別のヤクザが、取り立てに来る。かなりの利子を付けて。

 そうなると、立ち直れなくなる。

 普との、暮らしも危うくなってしまう。


「いい、普。お母さんは、このお金を返してくるから。誰も、お家に入れたら駄目よ。分かった」


「分かった」


 ナンシーは、ビニール袋に戻して。玄関を出た。

 その直後、玄関の鍵のかかる音が鳴り響いた。


『ガチャン』


 ナンシーは、急いで裏の東江の家まで行き、チャイムを押した。


 何度押しても、音が鳴らない。


「ごめんくださーい。大家さん、こんな事されると、困るんですけど。どういうつもりですか。こんな大金、私たちを、馬鹿にしているのですか」


 東江は、家の奥に居た。


 突然のナンシーの訪問に驚き。

 大声を出して、現金の事を話すナンシーの口を塞ごうと、慌てて玄関まで走った。


「しー。しー。声が、大き過ぎます。現金を、配ったのは、松田さんの家だけですから。黙ってて下さい」


 俺は、右手の人差し指を、口元に当てながら、ナンシーに、落ち着くよう求めた。


「これは、何の真似ですか。説明して下さい」


 ナンシーは、玄関に現金の入ったビニール袋を、投げつけた。


「不動産屋さんで、聞いたのですよ。松田さんが困っているから助けて欲しいって。だから、手助けをしたのです。慈善事業みたいな物です」


「何を、言っているのですか。慈善事業って、こんな大金を、ポンって。何を、考えているのですか」


「何も、考えてません。強いて言うなら、逆です。その金持って、出て行って欲しいです。二度と、戻ってきて欲しくありません。本音を言えばね」


 東江は、上着を脱ぎ。背中の閻魔大王を、ナンシーに見せた。


「俺は、最近まで、塀の中にいました。元ヤクザです。足を洗って、カタギになった、つもりでいます」


 俺は、上着を着て。振り返り。


「馬鹿どもを、ここに呼びたくないのです。足りないのなら、もう少しお金を出してもいいが。その代わり、出て行って、帰って来ないで下さい」


「何で、そんな事をするのですか」


「分かりません。得を、積みたくなったのか。過去の懺悔のつもりかは、分かりません。少し、お金を持っていたから、与えただけかもしれません」


 東江は、お金を拾いながら。


「ただ、貴女の人生と、子供の人生は別です。あの子は、まだ、助かる」


 ナンシーは、涙を流し始めた。


「俺たちのように、落ちて行くかもしれない。そうなったら、這い上がれなくなる。まともに育つのは、稀だ。殆どが、日の目を見ない所で、搾取されながら、腐れて行く。この金は、貴女に差し上げる。あの子の為に、お天道様の元を、歩ける子にして欲しい」


 俺は、ビニール袋にお金を全部入れて、ナンシーに手渡した。


「少し、待っててもらえますか」


 東江は、裏に行って。真新しいハンカチとスウェットの上着を取った。


 最初に、ハンカチを渡して。

 次に、目の前でビニール袋破り、上着を渡した。


 ナンシーは、自分の格好に驚き。上着を借りた。


「お見苦しい物を、お見せして、恥ずかしい限りです」


 ロゴの入った白Tに、ノーブラで。乳首が透けていた。


「この上着とお金は、必ずお返しします。子供が、心配しますので、これで失礼します」


 ナンシーは、現金の袋を持ち。帰っていった。


 これがナンシーとの、初めの出会いだ。

読んでいただき、有難うございます。

高評価、星とブックマークを、宜しくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ