辺土名と赤嶺
俺は、沖縄で何をしているのだろう。
何の為に、沖縄へ来たのだろう。
理解できない人って、居るんだな。
東江は、那覇空港の2階へと上がった。
食堂や民芸品店が並び、適当にお土産を買わなければならなかった。
1つは、辺土名弁護士用に、もう1つは、不動産屋へ持っていく必要がある。
俺は、懐かしい物を見つけて、衝動買いをした。
大好物だった、クンペンとヨーゴだ。
学生の時は、この組み合わせが好きで、バイト代で、余裕がある時は、贅沢と称してこのセットを買っていた。
これで、満足できた。
適当に、空いているベンチに座り。
買ったばかりの、クンペンの袋を開けた。
だが、食べていたメーカーが違うのか、味が変わったのか。クンペンの味が、思い出の味と違う気がした。
俺は、色々と廻りながら、これと決まらず。
結局、ヒヨコを2つ購入して、辺土名弁護士に、電話をかけた。
「はい。辺土名法律事務所です。ご要件は何でしょう」
男性が出た。時代か。
「あの〜。私、東江と申しますが。東江住宅と東江アパートの件で、お電話を差し上げています。アポを取りたいのですが、いつ頃がよろしいですか」
「はい。はい。東江昴様、お待ちしていました。住宅とアパートの件ですよね。いつ要らしても宜しいですよ。今日にしますか。明日にしますか」
「今日って、今からでも、大丈夫なのですか」
「大丈夫ですよ。問題有りません」
「それなら、今、空港なので、タクシーで向かいたいと思います。宜しいですか」
「分かりました。それでは、お待ちしております」
俺は、タクシー乗り場へ移り。トランクに、衣類のケースを入れて。お金のケースは、後部座席に乗せた。
俺は、辺土名弁護士の名刺を見ながら。
「ごめんなさい。浦添の屋富祖まで、お願いします」
「分かりました」
タクシーの運転手は、メーターを回して。俺はスマホを取り出した。
久しぶりの沖縄、俺が知っている道と全然違っていた。
俺が、ここを離れたのは、だいぶ昔だ。
昔は、違う場所に空港が有った。
抜け道では無く。突き当たりだった。
丸い駐車場に、外周に道路を作り。誰も、好き好んで、飛行機を見に来なかった。
今は、海中を通り抜けて、大橋を渡り、港の直進を抜けたら、浦添だった。
覚えている景色は少なく、全てが、新鮮にも感じ。スマホを仕舞い、車窓を眺めていた。
浦添の繁華街だった場所は、さびれた街に代わっていた。
辺土名法律事務所は、路地裏の2階に存在した。
看板など無く。エレベーターに、表記されているだけで、正直怪しささえ感じ取れた。
エレベーターを降りても、正面には、存在せず。
3軒隣の部屋だった、事にはショックを受けた。
電源の入っていない、スナックのネオン看板が、表に出ていて。看板に、紙を貼り付けて、『辺土名法律事務所』と、手書きで書かれていた。
個性的ではあるが。無理がある。
信用出来ない。
取り敢えず、インターホンを押した。
『ピーン』『ポーン』押すと鳴り。離すと鳴る。
電気は、来ているようだ。
「あの〜。東江ですが。辺土名法律事務所ですか、ここは」
いきなり、辺土名弁護士が出てきて。
「ささ、赤嶺不動産には、話は通してあります。行きますよ」
いきなり出て来て。事務所のドアの鍵を閉めた。
この男だ。刑務所に父親の訃報を届けた男。
忘れていた過去を、思い出させた男。
俺を、天涯孤独と教えに来た男。
刑務所の面会では、気付かなかったが、かなりヤバイ感じがする。
辺土名弁護士は、ヨレヨレのジャケットに、シャツもアイロンがかかっていない。
無精髭が生え、頭はボサボサ。清潔感も無い。
『こいつに、裁判を任せて。勝てる気がしない』
「あの〜。これ、詰まらない物ですが、お収め下さい」
辺土名弁護士は、少し変な顔をして。事務所の鍵を開けた。
俺から、お土産を受け取り。事務所に放り投げた。
次に、、俺からキャリーケースを奪おうとした。
「これには、大品物が入っているんです。置いて行きません」
「誰も、盗みませんよ。洋服なんか」
「それでも、これは、手放しません」
「私は、弁護士ですよ。物を盗む理由無いです」
「駄目です。これは、離しません」
「分かりました。どうなっても知りませんよ」
辺土名弁護士は、事務所の鍵を閉めて、何処かへと向かった。
繁華街の端に、駐車場が有り。一番端の軽自動車に辿り着いた。
趣味なのか、大量の小説と、フォークギターまで、後部座席に置かれていた。
俺は、衣類のケースを後部座席に押し込み。
二億のケースは、助手席で抱いた。
辺土名弁護士は、有ろう事か。那覇へ向かっている。
こいつに、司法の免許を与えたヤツ出て来い。
30分以上揺られて、付いた先は、奥武山の草野球場が見える場所だった。
このなら、モノレールでも来れたよ。
普通は、ここで待ち合わせをするよな。
理解に苦しむ。
赤嶺不動産は、5階建てのマンションで、1階が事務所で。2階より上が居住スペースになっていた。
俺は、下半身が痺れて、力が入らないので、休ませてとお願いをした。
「私は、忠告しましたよ。邪魔だからって。東江さんが、積むって仰ったんですよ」
「はい。分かってます。私が悪いのです」
絶対に、タクシーで帰る。
もう一つの荷物も、ここで降ろして。
「有難うございます。それでは、宜しくお願いします」
辺土名弁護士が、先導して。赤嶺不動産へ入った。
自動ドアが開き。対人センサーが、来客を伝えた。
「「「「「いらっしゃいませ」」」」」
辺土名弁護士は、何も言わずに。社長室へ向かい。ドアを、ノックした。
「詰まらない物ですが。皆さんで、召し上がって下さい」
辺土名弁護士は、返事を待たずに。社長室へ入った。
俺が、お勤めしている間に、世間の常識が変わってしまった。
僅か、7年で、常識が、分からなくなった。
そして、社長室から、顔を出して。
「東江さん、コッチ、コッチ」
俺を手招きする、辺土名弁護士。
俺が、向かうと。社長室に消えた。
俺を、無視するかのような、従業員。
俺は、正しい。俺は、正しい。俺は、正しい。
「失礼します」
社長室に入り。ゆっくりと戸を閉めた。
赤嶺社長が、シングルのシートに座るのは許そう。
だが、お前がそこに座るのか。
「ささ。東江さんも、お座りになって」
お前は何様だ。赤嶺社長は、何も言わないのか。
この怒りを、何処にブツケたら良い。教えてくれ。
「東江さん、お願いがあります」
読んでいただき、有難うございます。
高評価、星とブックマークを、宜しくお願いします。