迷惑系と受付嬢
東江は、照喜名道場へ向かわずに、空手会館へと向かった。
あんな、ボロい道場から金は取れないと踏んだからだ。
照喜名道場で、被害に遭った翌日のお昼ごろに。俺は、空手会館へと足を運んでいた。
タクシーに、待機してもらい。帰りも乗る約束をした。
松葉杖を使い、玄関を抜けて、受付嬢の前まで来たが。ろくな挨拶もない。
「アポイントメントを取りたいのですが、コチラで宜しいですか」
髪の毛は長く、細身の方で。ピンクのかりゆしウェアを着て、スカートはひざ上のタイトな感じの制服感があった。
「はい。何方に、取り次ぎますか」
俺は、USBメモリーを、受付の台に置いて。
「この中の動画を見て下さい。そうすれば、分かります。明日、弁護士と共に訪れますので。偉い人たちを、呼んでおいてください」
俺は、彼女の返事も聞かずに、そのまま外へと向かった。
来た時のタクシーは、待機していて。直ぐに、ドアを開けてくれた。
次に向かったのは、懐かしい辺土名弁護士の事務所だ。
飲み屋街の2階にある、昔飲み屋だった、事務所。
チャイムを押したら、直ぐに出てきた。
「忙しそうですね、辺土名弁護士」
分が悪そうだったが。オレの顔を見て驚いている。
「どうしたのですか、その顔は」
「暴力沙汰だ。相手を死の淵まで追い込む。いや、地獄に叩き落す」
「割と元気なんですね。安心しました」
「何だ、しけた面しているな。俺の仕事を、断っといて」
「今回の離婚調停が、騙されて大変なんですよ」
「そんな事より、今日は、大きな仕事の依頼を持ってきたぞ、喜べ」
「正直、助かります。離婚調停が負けそうなんですよ」
「何で」
「今回の離婚調停は、旦那さんの浮気が原因だったんですけど」
「それがですね、弱った事に、生まれてきた子供のDNA型が、父親のと違うんですよ。子供の方も、5歳になっていて。子供の本当の父親も誰か分からないって言うんですよ。どうしたら良いですかね」
「そりゃァ、托卵した母親が悪い。一択だろ。それを知った父親が、浮気しても文句は言えないだろう。火を見るより明らかだ。だから、お前が弁護している、カミさんの方が負ける」
「ですよね。おいし過ぎる話だと思っていたんですよ。時間と労力が、無駄になりました」
「ソレよりだ、この動画を見ろよ。お金の匂いがプンプンするぞ」
一時間四十分の動画を、余すことなく見てもらった。
「コレ、CGじゃないですよね」
「この顔が、CGに見えるか」
「大変ですよ。被害者の会と合流して、情報を共有しないと、行けませんよ」
「被害者の会も、まだ発足して無い。昨日の夕方に事件が起きて、今だ。24時間も経っていない。明日、空手会館にアポを取ってある。一緒に来てくれ」
「はい。明日は、大丈夫です」
「良し。決まりだ」
翌日、10時過ぎに、辺土名弁護士と2人で空手会館へ到着した。
だが、何かがおかしい。出迎えがない。1人も、玄関に立っていない。
アポを取ったはずだが。どうなってやがる。
松葉杖を使い、ゆっくりと玄関をくぐった。
静けさが広がり、昨日と変わらぬ風景が流れている。
「こんにちは、受付のお嬢さん。昨日アポイントメントを取りに来た、人だけど。覚えているかな」
「はい。覚えています」
「偉いさんの、出迎えが無いようだが。どうなっている」
「どうも、こうも、ありません。何方へのアポイントメントとか、お伺いしていませんので」
ここから、彼女の言動がおかしくなる。
「それに、このUSBメモリーには、はしたない動画が入っているのでしょ。ソレを見た、私が顔を赤らめるのを、遠くから動画を撮って、楽しんでいるのでしょ」
「何だよソレは、コッチは、弁護士の先生を雇って、来ているのだぞ」
「はい、弁護士をしております。辺土名と申します。宜しくお願いします」
「ソレ、偽物でしょ。迷惑系のユーチューバーが、ドッキリ仕掛けるやつ」
この受付嬢、かなりブッ飛んでやがる。
「おい、どうでもいいが、偉いヤツを呼んでこい。話はそれからだ」
「嫌です。お断りさせていただきます」
「あのねぇ。ガキの使いで、来ているんじゃないんだよ、コッチは。分かるか。早く、偉いヤツを呼んでこい、このバカ」
「今、バカって言いましたね。絶対に話を聞きません」
「このバッチは、本物です。私は、本物の弁護士です。大事件が起きているんですよ。分かっていますか」
「そうやって、私を脅しても。卑猥な動画は見ません」
「おい、本当にそれでいいのか。お前の判断で、この動画が、マスコミに流れるぞ」
「別に構いません。好きにされて下さい」
その時、奥の方から、小太りな男が出てきた。
受付嬢と色違いのかりゆしウェアを着て、手にはウチワを持っている。
「騒々しいぞ。ここを、何処だと思っているんだ」
「コチラの関係者の方ですか」
俺は、怒り心頭で話す気が無いが。辺土名弁護士は、俺をなだめのようと奮闘した。
「そうだが。貴方がたは」
「私、弁護士をしております。辺土名と申します」
わざわざ、もう一枚の名刺を出した。
「騙されないで下さい。迷惑系の方々です。私に、このUSBメモリーに入っている、卑猥な動画を見ろとしつこく迫るのです」
「そんな物を見せて、何になるんだ」
「私が、顔を赤く染めて、恥ずかしがる様を、外のカメラマンが、遠隔で抜いているんですよ」
「そんな奴がいるのか、少し調べてくる」
「お願いします。私は、ここをはなれませんので」
「待っていろ、変態カメラマン。俺が、必ず仕留めてやる」
男は、入り口にある大きな鏡の前で立ち止まり。髪形を一度チェックしてから、外へ出た。
俺と辺土名は、顔を見合わせて、頭を抱えた。
「世も末だな」
「ですね」
辺土名弁護士は、受付嬢の説得を続けて、外に向かった、小太りのおじさんが帰ってきた。
「おい、変態カメラマンに、出てくるように伝えろ」
「何を、言っているんですか、そんな方はいません。何度も説明してます」
小太りのおじさんが、水色のかりゆしウェアの前をすべて開けて、中の白いシャツが、肌にべったり付いている。
「騒々しい。何をしているんだねか西村くんは」
「安仁屋部長、すみません。コイツラが、砂川に卑猥な動画を見せて、恥ずかしい顔を撮る、迷惑系のユーチューバーです」
「本当なのかね、砂川くん」
「動画は、見てませんが。十中八九、迷惑系のユーチューバーだと思います」
「君たち、この動画は卑猥なものなのか」
「全然違います。コレは一昨日、照喜名道場で起きた事件です」
「アナタが目を通さなかったら、マスコミにリークするだけだ。どうなっても知らんぞ」
「コチラは、私の依頼者で東江さんです。私は、弁護士の辺土名と申します」
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照屋道場を、照喜名道場へと、変更しました。ご了承下さい。