表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
タネナシとキュウコン  take2  作者: 愛加 あかり
4/50

羽田空港

東江は、羽田空港にいた。出所後、2週間ほど、ある施設で暮らし。

父親の遺産を相続に、沖縄へ向かうことを決意して、なっちゃんに、羽田空港まで送ってもらった。




 東江は、羽田空港で、20代後半の若い女性と熱いキスをしていた。


 年甲斐も無く、周りの目を気にせずに。搭乗手続きを行う広い場所で、別れのキスをした。


 お相手は、なっちゃん。


 お勤め後に、訪れた施設の秘書の方だ。

 美人で、『シュ』としたブランドのスーツを着こなしている。


 「ん゙、ん゙。東江様、お時間が御座いませんので、お急ぎ下さい」


 俺を、案内しようとした、グランドスタッフが、側で俺を急かす。

 俺も、急な事で。咄嗟になっちゃんの唇を受け止めて、熱いキスを交わした。


 スタッフから声がかかり、なっちゃんから離れてくれた。

 なっちゃんは、車で羽田まで送ってくれて。

 今日は、俺の見送るだけの仕事だ。


「お気を付けて、行ってらっしゃいませ」


 俺は、なっちゃんに見送られながら、別な女のお尻を追い掛けていた。


 スタッフは、人混みの中を誘導して。俺は、重たいキャリーケースを、必死に抱えて走っている。


「東江様、こちらです。お急ぎ下さい」


 まるで、人参をぶら下げられた駄馬である。


 俺は、スーツのボタンを外し、ネクタイを緩めて、Yシャツのボタンを2つ開けた。


 せっかく、なっちゃんが見繕ってくれた、BOSSのスーツだが。

 俺が着ると、品が消えてしまっている。


 だが、お尻のお姉さんとは、手荷物検査場で、お別れした。


 「東江様、良いフライトを。それでは失礼します」


 束の間の、休憩だった。


 俺は、手荷物を通し、細身の黄色のネクタイを外して、丸めてポケットへねじ込んだ。


 時計はせず。慣れしたしんだ、10年物のキーホルダーと真新しいスマホを、トレーに置き金属探知機へ。


 俺が出て来るのを待つ、次のお尻がソワソワしている。


 こんなに、急かされるのなら。

 格安の飛行機に搭乗するのではなかった。少し後悔している。


 だが、ここでも、問題が発生した。

 検査員が、俺のキャリーケースに不審な物を、見つけたらしい。


「お客様、手荷物の中身は何ですか」


「ほんの、2億だよ」


 無線機で、何処かと喋っている。

 苛立つ、グランドスタッフ


「何だよ、現金持ち歩いたら悪いのか。国内線で、税金がかかるのか。それとも何だ、銀次でも出るのか。この飛行機は」


 無線で話す後ろで、マイクに音を乗せた。


 このネタは、やや受けだった。


 俺の先に預けた手荷物が、飛行機の中に入ったらしい。

 ギリギリのチケットは、二度と乗りたくは無い。4時間待ちでも、金額が倍の値段でも、心にゆとりが欲しい。そう思った。


 手荷物検査をパスすると、次のお尻が、俺を急かす。


「東江様、お急ぎ下さい」


 俺のキャリーケースを見て。それ手荷物では無いだろ。『預けろよ』と言う声が聞こえて来そうなほど、睨んでいる。邪魔だ。


 だが、俺は走った。

 スーツに、サンダルスリッパだが、全力を出している。

 汗をかき、スリッパで、もつれそうになりながらも、走り続けて、搭乗口をパスした。


 ブリッジは、俺1人だった。

 42Kmを走り終えたマラソンランナーが、競技場に入る前のゲートのように、静かな時間が流れ。

 機内では、歓声が上がらなかった。


 飛行機の入り口では、CAさんが、微笑んでいるが、目が怖い。


 「お客様のお席はアチラです。速やかにお座り下さい」


 搭乗すると、直ぐに、扉は閉められて。


 「アテンションプリーズ………」

 飛行機が、バックを開始した。


 少し、よろめきながらも。冷たい視線を感じて、キャリーケースを、席の上にある棚に入れた。


 「おっさん、糞でもしてたのかよ」

 「あの、おっさん待ちだったの」

 「恥ずかしい。あぁは、なりたくないね」


 ザワザワと話し声が聞こえた。


 我慢だ、我慢。2時間半のフライト。全然問題ない。


 何処かの芸人のように、札束で汗を拭く理由にも行かず。手持ちのハンカチ1枚で凌ごうとしていた。


 CA達が、動き出すと。ペットボトルの水とタオルを購入した。


 だが、届いたタオルは、汗を吸ってくれず。無駄金となり。

 ペットボトルに、付いていた紙コップの縁の内側に、11桁の電話番号が記入されていた。


 入口で、俺を睨んだCAさんだったが。

 今は、後藤さんと名前まで分かった。


 俺の個人情報は、ダダ漏れらしい。


 2時間半の旅だが。大量に水を飲んだせいか、尿意を催している。


 かれこれ15分程、我慢をしていて。トイレばかりを、振り返り見ている。


 あと、1時間も、耐えられそうにも無い。


 良し。トイレの前には、誰も居ない。中も空の筈だ。


『今だ』


 ゆっくりと、立ち上がり。少し急いで、トイレにに向かった。


 トイレのドアは、青の表示を示し。

 ドアを自然に開けて。急いで閉めた。


 ガチャガチャと、右手と左手が忙しく働き。

 俺の膀胱は、解放の時を迎えた。


 だが、今度は、決壊したダムのように、勢い良く放水して、止まる事を知らない。

 何リットル出ているんだと、思うほどに止めどなく出し切り。

 体重の5%を、失ったかのような、脱力感を得て、トイレをドアを開けた。


 トイレの前には、別なCAさんが、待機していて。

 オシボリと、携帯番号を頂いた。


『本日は、沖縄に泊まる予定です。宜しければ、ご連絡下さい。よしこ』


 マジで、個人情報が、ダダ漏れしている。



 俺の心が落ち着かない。徐々に高度が下がり始めて、建物が大きくなって行く。

 滑走路に降りると、逆噴射がかかった。


 棚で、『ガタン』と音が鳴り。俺だけ棚を見上げている。


 ウチナータイムと人々は言うけど。2時間半のフライトは、耐え難く。我先にと、急ぐ人も多い。


 半数は、手荷物を受け取る所で待たされるのに。俺も、その1人だ。

 棚から、キャリーケースを降ろし。そそくさと列に並んだ。


 飛行機を降りる時に、後藤さんが腰の辺りで小さな手を振る。俺は、会釈程度で返した。


 俺の心は、ソレどころでは無かった。


 ブリッジを渡ると、列から離れて、トイレへ駆け込んだ。


 個室へ入り、便座のふたを閉めて。キャリーケースを載せた。


 なっちゃんから渡された鍵を、ポケットから取り出して、キャリーケースの中を改めた。


 現金が敷き詰められている。


 俺は、一人だけ焦っていた。

 トイレに行っている間に、盗まれてないか、ヒヤヒヤしていて。


 冷静になって、考えたら。

 棚から下ろした時点で、重かったら、盗まれてないのが、普通の考えだ。


 ピンクのシャツのボタンをとめて。黄色のネクタイを絞めて、ダークグリーンのスーツを着こなしている。


 足元の靴を探して、免税店に、顔を出したが。サイズとデザインが気に入らなかった。ので、まだ、スリッパのままだ。


 コーディネートは、なっちゃんが選んだものだが。靴は、サイズが合わず。スリッパのままだった。


 少し、免税店で時間を潰したので、預けた荷物は直ぐに見つかった。


 キャリーケースを2つ持って、2階のおみやげコーナーに向かった。

読んでいただき、有難うございます。

高評価、星とブックマークを、宜しくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ