保釈金と売買
警察官は、俺を疑い。俺には、不利な状況だった。
芝生で尻餅をつき、肩で呼吸している瑞慶覧と、立って、瑞慶覧を見下ろす俺。
パトカーが、再ルンを鳴らしてやって来た。
前回、泥棒呼ばわりした警察官と、ボヤの時に事情聴取を行った警察官が、睨みつけながら。警棒を抜いている。
「大丈夫ですか、瑞慶覧さん」
瑞慶覧が、庭で倒れていて、息も切らしている。
一人の警官が、俺と瑞慶覧の間に入り。もう一人の若い警官は、瑞慶覧の傍に寄り添い、怪我を確認しようとしている。
「大丈夫かを、確認する前に。こいつを逮捕しろ」
「何の容疑ですか」
「不法侵入、器物損壊、暴行罪、恫喝、その他にも、虚言癖もあるぞ。俺が被害者で、そいつが、突撃してきたんだ」
「どうも、真逆のような気がしますが。本当ですか瑞慶覧さん」
「通報は、コチラの方から出ているんだが。矛盾しているとは思わないか。元ヤクザ」
「コイツがしなくても、俺がしてたよ。勝手に、人の家に突入しようとして、中にいる人たちが、不安を感じだろ。何が、泥棒だ。俺が何を取ったって、言うんだ」
「嘘だ。コイツが、俺のカメラを盗んだんだ。カメラを返せ」
「瑞慶覧さんが、そう言ってますが。素直に吐いた方が楽になりますよ」
「何で、俺の方が、疑われるんだよ。警察は、いつになったら、市民権を与えるんだよ」
「無理だろ。元ヤクザに、市民権は無い。ずっと、疑われて生きるんだ」
「そうだ。コイツは、俺からカメラを盗んだんだ。早く死刑にしてください」
「何だよ。ソレばっかりだな。物を盗んで、死刑って。文明の無い国出身かよ」
「そうだ、瑞慶覧さんにとって、大事なカメラかもしれないだろ」
「凄く、高かったんだぞ。カメラを返せ」
「魔が差したで、済まなくなるぞ。禁固刑にまで、行くぞ。いいのか、元ヤクザ。示談も、難しくなるぞ」
「ごめん。こんなに難しくなるとは。俺が、どこから何を撮ったんだ。言ってみろ」
「言ってくださいよ。大事なカメラを、瑞慶覧さんの家から盗まれたと」
間に入った、年配の警察官が振り返る。
「違う。こいつが盗んだのは、比嘉さんの部屋に仕掛けた、カメラだ。高性能で防水に特化した、カメラだ。アレは高かったんだぞ」
2人の警察官が、瑞慶覧のヤバさを知った。
「違いますよね。防犯の為に、廊下を撮影したカメラですよね。瑞慶覧さん」
「そんなトコを映して、何が楽しいの」
「防犯の為に、仕掛けたカメラですよね。室内とかは、録画して無いですよね。犯罪ですよ」
「何を言っているんですか。警察官まで、俺を騙そうとして。俺は、俺のアパートの中を、映しただけですよ。バカな事を、言わないでください」
「いえ、馬鹿な事は言ってませんよ。瑞慶覧さん」
「待ってください。俺は、あのアパートの大家ですよ。オーナーですよ。家の中を映して、何が悪いのですか。何も、悪くないですよね」
「人が住んでなければ。いや、違うな。自分の部屋ならオッケーです。他人の部屋を覗いたら、盗撮にあたります」
年配の警察官が、瑞慶覧に警棒を向けた。
瑞慶覧のそばで、寄り添っていた警察官が。瑞慶覧の両手を後ろに回して、重たい手錠をかけた。
2人で時計を確認して、14時36分と言い。年配の警察官が、頷いた。
「東江さん、瑞慶覧さんのカメラを渡して下さい」
若い警官が、手を差し出した。
「何の事だ。こいつの虚言に、付き合っているのか。警察は、そんなに暇なヤツばかりなのか」
「しかし、盗撮は、犯罪ですよ」
「だから、何のカメラだ。最初から、俺が何を盗んだっていうんだ。勝手に泥棒に仕立て上げて、俺を務所に送る気か。人権も、与えないつもりなんだろ」
俺は、玄関前の防犯カメラを指して。
「音声も入っている。諦めろ」
若い警官が、瑞慶覧の手錠を外そうとした。
「何をしている。不法侵入、器物損壊、暴行罪、恫喝、虚言癖、1週間くらい、留置所に泊めとけよ」
俺は、瑞慶覧に近付き。しゃがんで、耳打ちした。
「刑務所は、勘弁してやる。家族に、東江さんと示談してと、お願いしろ。分かったな」
警察官2人は、俺に弱みを握られて。瑞慶覧を、パトカーに乗せた。
「あぁ、俺に、安息の日は無いのか。また、忙しくなりそうだ」
辺土名弁護士に、連絡を取り。
「瑞慶覧さんって方と、示談するからさ。日程が決まったら、連絡いれる。その時は、頼むな」
3日後、平日の昼間に、喫茶店に呼び出された。
瑞慶覧の父親も、弁護士を連れて来ていて、スムーズに話が進みそうだった。
「この度は、公康がご迷惑をかけてしまい、申し訳有りません。これで、示談をして頂けませんか」
父親は、500万を出して、示談を申し出た。
アチラの弁護士も、何も言わない。妥当な金額だと思っているようだ。
「俺は、ですね。平和を、アナタの息子さんに脅かされたんですよ。ですので、あのアパートから、息子さんを、追い出したいのです。アパートを、売って下さい。御幾らですか」
「あのアパートは、最低でも、一億八千万はするぞ。分かっていっているのか」
「分かってますよ。大きな駐車場ですよね、アパートは、古いですけど」
「話にならないな。あの土地は、先祖代々の土地だ。お前の爺さんも知ってるし、オヤジもガキの頃から知ってる。何の恨みがある」
「アナタに、恨みは有りませんよ。息子さんの公康さんに、泥棒呼ばわりされて、怒っているだけです。5000万と俺にアパートの売却なら、示談をお受けしますよ」
「それこそ、話にならんな。5000万なんて、示談を舐めているのか。バカバカしい」
「俺は、それでも良いですよ。公康くんが、外に出れなくなるだけです」
「何があったかは知らないが。公康は、部屋から出る子ではない。お前が、公康を外に出すように仕向けたんだ」
父親は、公康を信じていた。
「ある意味、公康を怒らせて。家に乗り込んできましたが。俺は、悪い事をしていない」
「あの子は、部屋から出なければ、純粋な子なんだ。可愛そうだとは思わないのか。鉄格子に入れられて」
「出してやったら、どうですか。保釈金を払って」
父親が、少し怯んだ。
「保釈金を払って、公康くんがあの部屋に入ったら、警察官が、突入して全てを押収しますよ。俺は、ここで、示談を進めますけどね」
俺は、聞く耳を持たない父親に話しかけずに、相手の弁護士に、話しかけた。
「弁護士さん、知ってましたか、あのアパートの天井裏に、無数の隠しカメラが仕掛けられていたんですよ。それがバレたら、5000万の損害賠償どころじゃ無いですよね」
顔を背けていた、父親がこっちを向き直った。
「何が言いたい」
「ご存じですよね。屋根裏の事は」
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