カメラと瑞慶覧
東江は、専門家でもある。金城くんを、召喚した。
朱美の部屋に、2人で入り。カメラを探した。
俺は、専門家の金城くんを呼び出して、朱美の部屋へと向かった。
カーテンも外され、生活感のない部屋で、気のせいかも知れないが、ススの匂いがする。
大きな窓を開けて、空気を入れ替えていると。
「有りましたよ。東江さん」
そこは、朱美を初めて見た、バスタブのあるお風呂場だった。
天井の照明の横に、微かな穴が空いていて。金城くんは、その穴を指している。
金城くんが、肩に掛けた小さな脚立を立てて、お風呂場の点検口を開けて覗くと、無数の機械が並び、青と赤の小さなライトが点滅している。
「東江さんも、覗いて見て下さいよ。もの凄く、お金かかってますよ」
金城くんは、脚立から降りて。俺も、天井裏を見るように言われた。
床は、濡れてなかったが。歳のせいか、慎重に行動をして、最初の一歩だけ警戒した。
壁に手を当てて、プルプルと震えながら、天井に手を添えて、頭を入れた。
金城くんの残した、LEDの懐中電灯が辺りを鮮明に照らした。
ホコリまみれの屋根裏に、見慣れない機材が、点在している。
「おい、この部屋だけじゃないぞ」
「もの凄く、お金かかってますよね」
「はぁ゙〜。仕掛けたヤツは、馬鹿なのか」
「馬鹿かどうかは知りませんが。かなりの変態なのが伝わってきます。そして、手前の黒いボックスが、バッテリーです。屋根裏を無線で行っているため、バッテリーは小まめに、代えないといけませんので、手前に置いたのでしょう」
「コレのことか」
「はい、ソレです。配線を引っ張れば、カメラは引きずられて、引き寄せられます」
「引っ張ってもいいのか」
「マイクも有ったら、音も拾われているかも知れません。風呂場には無いと思いますが。相手が、画面を見ていたら、気付かれてますから。今日で、この部屋の分だけでも、回収しましょう」
俺は、金城くんの目が、円マークに輝いているように見える。
盗撮カメラなんて、要らないし。機材も要らない。悪用されるくらいなら、金城くんへ渡したほうがいいと思ったから。
「この玩具、貰っても良いんですよね」
「俺には、必要ない。やるよ」
「有り難うございます」
「だけど、どうやってあんな所までカメラを運べたんだ。アイツかなりのデブだったぞ」
「引っ張ってみたら分かりますよ」
俺の疑いの目を振り払うかのように、満面の笑みをこぼす、金城くん。
「何だコレは、蜘蛛みたいな体がついているぞ」
「はい。ラジコンになってます。バッテリーと配線が伸びていたら、屋根裏は自由自在です」
「只の変態じゃないぞ。かなり危ないヤツだぞ」
「いや、東江さんの言う通りかも知れませんよ。コレだけ出来るのに、覗きにしか使わないのですから。バカなのかも知れません」
その後は、寝室と居間と脱衣所トイレと5つのカメラが見つかり、本体に電波を飛ばす機材を回収して、朱美の部屋を出た。
金城くんは、念の為にアルミのポテトチップスの袋に入れて、リュックサックに放り込んだ。
俺は、金城くんに、バイト代の5万を支払い。
「有り難うございます。今日は、いい仕事ができました。全部回収したかったのですが。難しそうですね」
「それだけで我慢しろ。欲を出すと、痛い目を見るぞ」
「比嘉さんの経由で、依頼が来たら絶対に、僕に連絡くださいよ。必ずですよ」
「分かったから。クドいぞ」
金城くんは、アクセルを回して、うるさいマフラーを、軽快に鳴らしながら帰って行った。
しばらくして、子供たちも帰ってきた頃、瑞慶覧が現れた。家の中には、ナンシーも朱美も居る。
『ピンポ~ン』
扉を開けると、靴を抜き捨て、ズカズカと家に上がろうとした。
小学生の頃、友達が家に上がるように。家に入ろうとした。
「何だお前は、ちょっと待てよ」
両手を広げて、しばらく瑞慶覧を押さえていると。瑞慶覧が体力の限界を迎えた。
『ハァハァ』
「お前、カメラを返せ。アレは高かったんだぞ」
重たい瑞慶覧を、外に追い出すだけでも、かなりの体力を使った。
「何の事だ。ふざけているのか。ここは、俺の家だぞ」
「何を言っている。ソッチも、俺の家に入って、カメラを盗んだだろ」
「何を言っているんだ。証拠はあるのか」
「あるに決まっているだろ。俺は、バカじゃない」
瑞慶覧は、息を切らし、肩で呼吸をしながら、倒れ込むように、お尻から芝生に座り込んだ。
「分かった。絶対にお前を許さないから。謝って、カメラを返すなら許してやる」
「何を言っている。何でオレが謝らないとならない。バカだろ」
「バカじゃない。それに、バカと言う奴が、馬鹿なんだからな」
「分かったから。早く帰れよ」
「あぁ、今バカにしたな。完全にバカにしたな。もう怒った。警察に電話してやる」
「何で、俺が、お前に謝らないといけないんだよ」
「そんな事も、分からないのか。お前、バカだろ。不法侵入だよ。俺の家に、勝手に入っただろ」
「何を、言っているんだ。何の事だ」
「あのアパートな、俺が大家さんなんだよ。つまり俺の家だ。分かったか。そして、その家に入り込んで、勝手にカメラを外して持ち帰ったお前は、ドロボーだ。もう、お前は、死刑になる。謝らなかったからな」
瑞慶覧は、スマホを取り出して、警察に電話をかけた。
「警察ですか。ドロボーを、捕まえました。直ぐに来て下さい。私人逮捕です」
色々な、SNSを見て。偏った、情報を得たらしい。
「もう、お前の人生も終わりだ。刑務所へ行って、死刑まで反省をしろ」
『刑務所を、知らないガキ』がと思ったが。知っているから、偉いって訳でもない。
「俺の罪は何だ。言ってみろよ」
「ドロボーしただろ。カメラを返せ。アレは高かったんだぞ。賠償しろ。死刑だぞ。怖くないのか」
息を切らし、単語だけを並べて、呼吸するのも苦しそうだ。
こんなヤツは、武闘派の俺でなくともやっつけることは可能なはずだが。前科が有り、元反社の経歴が、足を引っ張った。
「どうされましたか、瑞慶覧さん」
「ドロボーを、私人逮捕しました」
俺は、捕まってもないし。泥棒もしていない。
「この方、大丈夫ですか。泥棒だ、泥棒だと、虚言を吐いて。人の家に上がり込もうとして、玄関のものを破壊し、俺に暴力を振るいました。家の中の人達も、怯えています。逮捕してください。最低でも、1週間は勾留してください」
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