朱美と変態
向かいのアパートに、変態が住み着いた。
朱美を、302号室に移動させる為に、引っ越しを急遽行った。
俺は、日課のキッチンに立っている。
キッチンの高さ問題で、京子や他の二人と揉めだが。
料理の腕で、黙らせた。
特に、卵焼きは絶品だったと、お褒めの言葉をいただき。
朝夕の食事を作っている。
子供たちの面倒から、朝夕の食事を作り。咄嗟の呼び出しにも答える。
天音ちゃんが、熱を出したら、お迎えに行き。
真琴が、忘れ物をしたら、学校へ届けた。
雨が降ったら、洗濯物も取り込んだ。
そんな時に、朱美から302号室を、貸して欲しいと要望された。
「もう無理。あんな変態が、同じ階の2件隣に住んでいると思うと、虫酸が走る」
「何があったの」
「分からない。家の中が見られている感じがするの、だから、しばらくの間だけでいいの、302号室を貸して欲しいの」
「分かった。引っ越しは、別に構わないけど。一度、部屋を確かめよう」
俺は、朱美を家に残して、アパートの鍵を借りた。
念の為に、ガレージのカメラに映るように、フレームの真ん中あたりを歩き。道を渡った。
手すりに手をかけて、鉄製の階段を登った。
手すりは、通路の柵に変わり。右に折れると、問題の201号室がある。
扉が空いていて。窓に着けられた、アルミの枠から伸びた紐で、閉じないように固定されている。
通過しながら、覗こうとしたが。
立ち止まってしまった。
天音ちゃんが好きな、魔女っ子のTシャツを、思いっきり横に伸ばして着ている。何となくだが、キャラが確認できる。
下は、トランクス1枚で。窓を開けて、扇風機の前で、魔女っ子のDVDを鑑賞している。
間取りは、朱美の部屋と同じだった。
「おい、何、こっち見ているんだよ」
俺は、変態に見つかった。
年は、四十歳前後だろうか。小太りで禿げ散らかしている。
変態は、立ち上がって、こっちに近付いてきた。
「覗くな変態」
アルミの柵から伸びた紐を外し、扉を思いっきり閉めた。
『バン』
目の前で、扉が勢いよく閉まり。驚いた。
「ごめんなさいね。驚いたもので、ドアは、閉めてた方が宜しいですよ」
『ふ〜』
一度、ため息を付き。朱美の部屋へ。
最近は来てなかったが。代わり映えはない。
朱美の言う、見られているって感じはしなかったのだが。
しばらくの間、滞在してみた。
窓を開けて、空気を入れ替え。
引っ越しを、どうするか、考えていると。
玄関の辺りで音がした。
『ピンポ~ン』
チャイムが鳴った。
キッチンの窓から、人影が見える。
何も考えずに、戸を開けて、驚いた。
制服の警察官が立っている。
「何か、御用ですか」
警察官は、悪びれる素振りもなく。市民台帳なるファイルを開いて、何度か俺の顔を確認している。
「失礼ですが、お名前を、お教え願えますか」
無実だし。問題無いだろう。
「東江です。ボヤ騒ぎの、第一発見者です。何か、問題がありましたか」
どうせ、バレるなら。自分からバラした。
「いえ、不審者が、203号室の部屋に入るところを見たと、コチラの方がおっしゃってまして」
先程の変態が、警察官を呼んだらしい。
警察も暇なのか。迅速な対応だ。
「そちらの方は、何方ですか」
「僕の事は、関係ない。ドロボー」
「東江さん。資料によりますと。比嘉さんとは、初対面と記載されていますが。どういった、ご関係ですか」
「もう、半年以上前の話です。比嘉さんとは、お付き合いをしていますが。何か」
「何か、お付き合いしている証拠は、ございまさか。ツーショットの写真とかあると、助かるのですが」
俺は、スマホを取り出して、ツーショットの写メを見せた。
「ご提示、有り難うございます」
「何、書いてるの」
「記入されてませんでしたので、書き足しました」
「そちらの方は、何方ですか」
「お前には、関係ない。帰る」
変態は、怒り心頭で、部屋に戻った。
「瑞慶覧さん、謝罪はなさらないのですか」
「まだ、何かありますか」
「調子こくなよ、元反社野郎。今日は、大人しく帰るけど。騒ぎを起こすなよ」
「はい。気をつけます。たまにで宜しいので、この辺の巡回も増やしたら宜しいんじゃ無いですか」
「お前みたいな、前科持ちが居るとは思わなかったよ。関東の龍紋會、大きな組織だよな。そこの、3次団体の元組長。見回りを増やす価値はあるな」
警察官は、敬礼もせずに、帰って行った。
大体の引っ越しの目処を付けて。引っ越し用の段ボールを取りに、ディスカウントストアーへ向かった。
引っ越しは、急いでしなければならない。
朱美の部屋へ入る時に、左右を確認して。下の駐車場も見た。
誰も、203号室を見てなかった。
だけど、警察官は、203号室を狙ってやってきた。
間違っていたら、変態は怒られているはずだ。
やはり、この部屋は、見張られているのか。
引っ越し業者や運送屋さんにツテは無く、どうするか、考えていると。
コンビニで、アイスを買っていた。
「「「お疲れ様です。東江さん」」」
『おお〜』
「お前たち、今度の土曜日に、バイトやらないか。引っ越しのバイトだ。そうだな、日当で、1人八千円でどうだ」
「やります。金欠なんで、ヤらせて下さい」
「俺もヤります」
「暇だから、ヤります」
「数人に、声かけてくれ。引っ越しは、人数が多い方が良いからな」
俺は、少し前まで住んでいた、302号室を掃除して。間取りは、ほぼ同じの2LDKだ。
荷物も、段ボールにほとんど入れ終わって、運ぶだけだ。
タンスも、冷蔵庫の中も、片付いて。重たい物も、冷蔵庫と洗濯機に、タンスの枠くらいなもんだ。
結局、20人近くの子どもが集まった。
全員が、見知った顔で。バイトをしてない側の、ヤンキーたちだ。
「女性陣は、朱美の指示に従って、軽い物の運搬と掃除を頼む」
バイトの中には、真琴と麻美も居た。
「野郎どもは、重たい物をじゃんじゃん運び出して、向かいの302号室に運んでくれ。向こうで、俺が指示するから」
「お願いね」
朱美の言葉と笑顔に、全て持っていかれた。
「「「「お願いします」」」」
野郎たちの心を、鷲掴みにした。
「もう、馬鹿なんだから、男子たちは」
朱美が、女性陣の輪に入り。
「アレだけスケベだから、扱うのは楽なのよ」
野郎たちは、ドスケベだった。
「ゼッテー、あの人だよな。阿波根のパンツとズボンを、上げた人」
「暗かったけど、絶対にあの人だよ」
「美人だよな」
302へ来て、現実に戻る。
「冷蔵庫は、そこで。洗濯機はベランダに頼む」
俺は、大体の配置を指示して。
「パパ、頑張れ」
東江さんの女なんだよな。一生勝てない。
午前中で、引っ越し作業も終わり。
日当、八千円は高かったので、アルファードとコスモの洗車を頼んだ。
特別ボーナスの5万を支給して。
後日、みんなで集まってカラオケに行って。引っ越しに参加してない奴も、混ざっていたらしい。
ここにも、マー君の姿は無かった。完全に抜けたらしい。
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