マー君とZツー
マー君は、コリてなかった。
特攻隊長の三上の持ち物に、手を出そうとしていた。
俺は、オークションを終えて、女性陣を返した。
野郎どもには、まだ仕事が残っている。
「はい。本日は、ご協力いただき有り難うございました。解散していただくのですが、歩いて帰ってください」
「何を、言ってんだオッサン。ぶち殺すぞ」
「漁港に、沈められたいのか」
「もう、大人しくしてられないぞ。解放されたんだ」
「バイクの鍵は、俺が回収している。『移動させるかも知れないから、鍵は刺してて下さい』は、嘘だ。全ての鍵を抜き、封筒に入れてポストに郵送した。それに、ブッといチェーンで、タイヤをロックしてある。諦めろ」
タイヤに、太いチェーンが絡んでいて、南京錠が付けられている。
「返して欲しかったら、1人五万を持ってこい。言っている意味は、分かるよな」
宮城と同行していた連中の羽振りが良くて、四六時中ずっと、マリファナを吸っていたから。逃げろと言われても、反応できずに捕まっていた。
マー君は、お溢れを貰っていたが。パシリに使われていて、回避することができた。
「解散」
皆、名残惜しそうに、自分のバイクを眺めている。
「おい、早く解散しないと、警察が来ちまうし。俺が、お前らの恥ずかしい写メを、ネットに、ばら撒くぞ」
後ろ髪を引かれる思いで、帰路に着く少年たち。
ゾロゾロと、いつものコンビニへ向かい。時間を潰しながら、親兄弟のお迎えを待っていた。
翌朝、9時前に、母親と現れたのは、マー君だった。
「アナタね。子供たちからバイクを取り上げて、五万円で販売するヤクザな人は」
「まぁ、半分当たってますが。私の方も、ガキどもに、お金を取られて、慰謝料も含め、回収しているだけです」
「ババァ。早くそいつに、金払えよ。俺は、『Zツー』に、乗って帰るからよ」
「その前に、コレにサインしてくれるか。コレが条件だ。お金は後だ」
『金輪際、薬物には手を出しません』
何の効力も持たない、只の紙切れに、文字がなぐり書きされているだけだった。
「薬物って、何かの間違いですよね」
「事実です。俺から取った金で、マリファナって言う薬物を、買って吸ってます」
「本当なの、マー君」
「何だ〜。もう、マリファナは吸わねぇよ。俺は、麻美に誓ったんだ」
「お願いです。五万円は、差し上げますから。学校の方へは、黙っててもらえますか」
「その前に、サインを下さい。話は、そこからです」
マー君は、安仁屋正彦と書いた。
「早くしろよ。『Zツー』を、乗って帰るんだよ」
「この『Zツー』が、君のバイクなのだね」
「そうだよ。文句あるのかよ」
俺は、ガムテープに、『安仁屋正彦』と書き。名前の部分を千切って、タンクに貼った。
「何すんだよ。早く鍵よこせよ」
「昨日も話だろ。ホストに入れたと。届くのは、今日の午後か、明日の朝だ。手元には無い。諦めろ」
「騙したな。ズルいぞ。ヤクザ」
「何とでも言え。上のカメラは、音声も取れる優れものだ。全てを録音している」
「ってな事で、受け渡しは、明日です。明日の午後には、鍵も揃いますので、五万円は、その時にでも受け取ります。お子さんには、渡さないで下さい。二度手間で、二重に取られる危険性もございます」
「そうですが。学校の方へは」
「黙っているつもりです。関わりたく無いってのが本心ですが、問題を起こしたら、話します。ご了承ください」
「ババァ、帰るぞ。車出せよ」
逃げるように、母親の車の助手席のドアに、手をかけていた。
午後になり、3人組が現れた。
学校で待ち合わせをして、午後から抜けて来たのだろう。
俺を呼び出して、手には五万円の入った封筒が握られている。
しかし、先を越されていた。
『Zツー』には、マー君の名が貼られていた。
「オッサン。乗って帰れないなかよ」
「鍵が、届かないんだよ。明日の朝かも知れない」
「何だよ。乗って帰れないのか」
「明日の朝だ。早くて今日の午後かも知れないが。明日のお昼には、届くだろう。その前に、コレにサインしろ。サインをしないと、金払っても、バイクは返さないからな」
3人は、五万円を財布にしまい、サインだけをして、帰って行った。
帰宅時間になり、ゾロゾロと詫びを入れたり、バイクを返せだの、抗議をする者が増える中。
真琴が帰ってきた。
例によって、マー君の今朝の行動を見せた。
真琴は、麻美を召喚して。タブレットで、動画を確認していた。
麻美は、泣き出す前に怒りを表した。
「もう、私を悲しませないって、約束したよね。やっぱり、マー君とはヤッてられない。さようなら、バイト先にも来ないでね」
その後、着信音が鳴りやまなかったが。
伝家の宝刀、着信拒否により、鳴り止んだ。
その後は、ガレージの細い道を通り抜けて、人けのない裏で、数人の女性に囲まれている。
俺は、近くに居たガキ3人に、1万円を渡して。
「飲み物とお菓子を買ってこい。紙コップも忘れるなよ」
3人は、ダッシュして、コンビニへと向かった。
その間も、学校が終わって、バイクの様子を見に来る者たちが、後を絶たない。
ガキ共から、サインを受け取り。
ガキ共は、一万円イッパイイッパイまで使い。お釣りは、五十円も無かった。
飲み物や、お菓子を配り。立ち変わる、女性陣を応援するつもりだったが。
路線を変更した。
真琴を呼び、三万円を渡して。
「カラオケにでも、行って来い」
オジサンは、無力だった。
夜も遅くなり、11時を回る頃。
最後の一人が現れた。
三上は、俺の前で土下座して頭を下げた。
「東江さん。俺の『Zツー』を、差し出すから、皆のバイクを返してくれ。頼む」
学生服を着て、カバンすら持ってなかった。
6時から、喫茶店の後片付けまでしていたらしい。
三上に、自分の過去をダブらせた。
三上は、高身長で、信頼の厚い好青年のようだが。
俺は、老け顔で哲太似だと、言われ続けた。
最後の三上から、サインを受け取り。
俺は、花壇へ行き。土を掘り返して、ビニール袋を取り出した。
「乗りたい奴は、乗って帰っていいぞ」
皆が、俺に頭を下げて、ビニール袋に手を入れて、自分の鍵を探していた。
三上は、侠気を出して、『Zツー』を、渡そうとしたが。
オジサンには、遅すぎる品物だった。
喉から手が出るほど、値打ちが上がっていて。機会や縁がないと、入試も困難なんだと思うが。
若者から奪うのは、違うと感じ。辞退して、タンクに付いたガムテープを、剥がした。
てっぺんを、跨いでいたが。マー君も、自分のバイクを取りに来ていた。
仲間の誰かが、連絡を入れたのだろう。
文句も言わずに。失恋のショックを、受けていたのだろう。
「麻美は…」
俺が首を振ると。
エンジンを掛けて、帰って行った。
その後は、何の効力も持たない、署名された紙をラミネートして、ガレージに飾った。
そしたら、真琴たちレディースも、署名を集めて。ラミネートを、お願いしに来た。
ガレージの錆びれたシャッターに、百均で買った磁石のフックを付けて、2枚のラミネートをかけた。
元ヤンキー共が、大量に集まり。
スマホを取り出して、ラミネートの前で写メを大量に撮っていく。
門から出て、見かけると。
「「「「「お疲れ様です。東江さん」」」」」
懐かしくもあり、うざったくも感じている。
その後は、チームを解散させた。『ヤクザの東江』として、名が広まる。
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