ストリップと写メ
家に戻ると、ナンシーが怒っていた。
ウイスキーを、ストレートで飲み。
傷口を見せろとせがんだ。
お腹の傷は、結局大したこと無く、懐剣を抜いても、垂れる程の血は出なかった。
3針ほど縫い、内臓も損傷してなかった。
軟膏を塗られて、ガーゼを貼られて。
「お大事に、次の方」
痛み止め等の薬を貰い、タクシーに乗り込んだ。
菊乃は、亡くなっていた。
鉢嶺組に任せて、自分から探すことも無く、興信所を使う事も無かった。
かつては、夫婦だったのに。今は、何の感情もわかない。
志乃姐さんも、現役でスナックを経営していたのだろうか。
黒井組を、引っ掻き回して。鉢嶺組は、黒井組の二の舞いを踏まずに、前田を殺した。
俺の人生も、前田に振り回されていたのだが。
菊乃と前田が、不倫をしていたから、組長まで上り詰めたのかも知れない。
理不尽な事もあったが、オヤジの事は、恨んでもなかった。
オヤジも、菊乃に騙されていたのだから。
問題は、黒井の生き残り。行方不明になっている加奈だが。
弁護士は、800万を渡したと言っている。
騙されたり、お水や風俗に働いてなければいいとしか、思ってもない。
親子だったのに、前田の子と知り。愛情が冷めたのか、他人に戻ったのか。
今は、血の繋がらない家族を、大事にしようとしている。
『矛盾しているのか』
タクシーは、家に到着してお昼頃になっていた。
「ただいま」
子供たちの入って来ない、仏間に、三人がいた。
天音ちゃんたちは、子供部屋へ行き。
全国の食べ比べの続きを行っていた。
ナンシーは、ウイスキーに手を出していて、管を巻いているようだ。
京子の顔に、笑みが現れて。朱美が、助けを求めて、近付いて来た。
「パパ、大丈夫だった。傷口見せて」
俺は、ロングTシャツを捲り、それほど大きくない、ガーゼが貼られている所を見せた。
「捲って、捲って」
あまり褒められたものじゃないが、ドMの何かが疼くのだろう。
医療用のサージカルテープを剥がして、痛みよりもグロテスクで、縫合されたばかりの傷跡を、触ろうとする朱美に。
「辞めろ。まだ触るな」
「え〜。どうせ、前みたいに、消毒させてくれるんでしょ」
「もうさせないよ。自分で処置できる。お前とすると、倍以上の時間がかかる」
「え〜。パパが、痛みに耐えているところ、好きなのに」
「だから、だよ」
ナンシーから逃げるように、京子も傷跡を覗きに来た。
「思った通り、大した事無かったね。だけど気を付けてよ。今は、大事な家族なんだから」
『ドン』
ナンシーが、口を付けたグラスを、力強く畳に置いた。
「私が、どれだけ心配したか分かっているの。昴さんは、なんにも分かってない。私の気持ちを」
山のように積まれた、6000万の札束が、ポンポン飛んでくる。
2人は、避けるように逃げて、ナンシーの横に座った。
「私が、不幸を呼んでみているみたいじゃない。学さんに続いて、昴さんを、殺したみたいじゃない。死に神みたいに言われる。私は、人を愛せなくなる。普も、いずれ殺してしまうかも知れないと、考えてしまうのよ。分かる。この気持ち」
「ごめんなさい」
「ごめんなさいでは、ないわよ」
急に、立ち上がって、和室の戸を閉めて。鍵までかけた。
何をするつもりなんだろう。
「何で、あんたが脱ぐのよ」
「そういう雰囲気じゃないの」
「違うわよ。それに、絶対に嫌よ。あの卑猥な体に、勝てる気しないもの」
「二人とも、黙ってて」
ナンシーは、二人を叱りつけて。
「脱ぎなさいよ。傷口を見せて」
俺は、ロングTシャツを脱いで、ガーゼを剥がした。
出血も無く、黒い糸が目立ち、アクリノールの黄色が、イタイタくしている。
「激しい運動しても、大丈夫なのでしょ。今までも、して来たんだし」
「イヤイヤ、医者には止められてるから」
「何、今まで、散々止められてたよね。私のお願いが聞けないの」
ナンシーは、スマホを取り出して、カチャーシーの音楽をかけた。
三味線の音が鳴り響き、時折、指笛が鳴り。座っている朱美は、両手を上げて踊りだした。
両手を左右に動かし、リズムよく動いている。
ナンシーも、両手を上げて。京子も、スムーズに手を動かしている。
俺も、真似して両手を上げて、リズム感が無く。ぎこちない踊りをしている。
ここで、3人に笑われた。
「何で、沖縄の人なのに、カチャーシー出来ないの」
「別にいいだろ。リズム感なくても、音痴でも。日常生活には困らないんだよ」
ナンシーは、カチャーシーの曲を変えた。
「コレは、知っている許可でしょ。くるくる回るだけでいいから」
スカイホールが流れた。
知っている曲だが、スローテンポな曲で、激しくクルクルしないで良さそうだ。
適当にクルクル回っていると。
「脱げ」
『えっ』
ナンシーのウイスキーが、空になっている。
悪酔いしているナンシーを、初めて見た。
立ち止まり、ガチャガチャとベルトを外して、ストンとベルトを外した。
「ストリップをしろよ。普通に脱ぐな」
ストリップが、分からなかった。
だが、もうブーメランパンツしか残ってない。
適当に、パンツのゴムを引っ張り、少しずつずらそうとした。
目に飛び込んできたのは、仏壇だった。
クルクルと回りながら、仏壇のお金から一万円の札を取り、口に咥えた。
フラメンコが、バラを咥えるように。一万円を、折らずに咥えて。
ナンシーに口づけをするように、顔を近付けた。
ナンシーは、俺の口から一万円を受け取り、喜んでいて。
次に、ブーメランパンツのゴムを引っ張り、一万円を挟むように促した。
ナンシーは、俺の意図を汲み。一万円を、パンツの隙間に挟んだ。
すると、スカイホールの曲が終わり。
『フ〜』
ため息を付くと。
京子が、ノータイムトゥダイを流した。
今日この悪ふざけが始まった。
ナンシーのお金では無く。祝儀袋の中の5本の札束から、一本の札束をバラして。
一万円を取り出し、高く上げて揺らした。
「昴のお兄さん、こっちにも一万円あるわよ」
俺は、京子に近付いて、パンツのゴムを広げた。
京子も、パンツに一万円を挟み。
俺が振り返ると、お尻を叩いた。
俺が驚いて跳ねたら。
「「「キャー」」」って、黄色い声援が飛んだ。
ナンシーも、帯の付いた札束を解き。朱美も続いた。
次も、ダブルオーセブンで、来るかと思ったら。
アニソンのピーナッツがかかった。
コレは、家族が揃った時に、DVDで観た。
50手前のオジサンには。初老には、キツくて、踊ることができず、倒れ込むと。パンツを脱がされた。
朱美は、パンツを顔に被せて。
『変態仮面』と、叫んだ。
「オジサン出てるわよ」
京子が突っ込みを入れた。
俺は、朱美からパンツを奪い取り、皆に背中を見せた。
その時に、背中を撮られた。
『カシャ」
機械的なシャッター音。
振り向くと、ナンシーがスマホのライトを焚き、コチラに向けていた。
「昴さんが、今日みたいに、変な行動して亡くなったら。私は、背中に閻魔大王を、彫ります」
正に、藪から棒だった。
「学さんは、普を私に残してくれた。昴さんは、『この家とアパートとお金を暮れる』と、言ったけど。私は、そんなモノ欲しくない。昴さんには、長生きして欲しい。だから死なないで」
「大丈夫。無茶はしないから」
俺は嘘をついた。
読んでいただき、有り難うございます。
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