表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
タネナシとキュウコン  take2  作者: 愛加 あかり
32/50

京子とナンシー

大きな風呂敷の中身は、現金だった。

すみれ姐さんは、6Kgの現金を抱きかかえていた。




 目の前には、すみれ姐さんが立っている

 すみれ姐さんの話では、前田は死に。志乃姐さんも、菊乃も、亡くなっていた。


「報復なら、俺にして下さい。ナンシーさんは、関係ない」


「色々と言いたい事は、お互いにあると思うが。今日は違う。新築祝いと、スナックナンシーの迷惑料を、届けに来ただけだ。嘘じゃない」


 重たそうな風呂敷を、俺の足元に投げてよこした。


 最初に目にしたのは、相撲取りが手にしてそうなくらいの、分厚い祝儀袋だ。


 風呂敷を、拾い上げようとしたら、結構な重さを感じて。風呂敷のすき間から中を覗いた。

 現金だった。かなりの重さだ。


「最初は、相良の馬鹿が迷惑かけて済まないと思い、スナックナンシーに手を貸した。純粋な気持ちだった」


 すみれ姐さんは、よっぽど重たかったのか、両手をブラブラさせて、肩を回し。顔だけは、真剣だった。


「途中までは、ナンシーさんとも、上手く行っていたと思っている。前田が関わるようになり、松田悟が出てきて、流れが変わったのさ。完全に、ナンシーさんを、沈めるつもりだった様だよ」


「やっぱり、松田悟と前田の兄さんは、繋がっていたんですね」


「何を、眠たいこと言っている。松田が、主犯だよ。兄を殺し、退職金と生命保険で、億を超えるお金を掴み。味を占めたのさ。次に、ナンシーさんと所帯を持ち、保険金をかける。その次は、息子だ。コレが、松田悟の描いた絵だ」


「相良は、前田に弄ばれていたのか」


「相良の事を、お前が言うんじゃないよ。アイツは、アイツなりに、前田を立てようと必死だったんだよ。昔のアイツは、侠気があったんだよ。鉢嶺の娘を嫁に貰って、プレッシャーに耐えられなくなったのか原因だよ」


「それは違うよ。アイツは、根っからのクズです。何度も、相良に尻を拭かせて、指が何本も飛んだんです。自分は、指も失わずに、お勤めにも出ない。下の者は、金と薬で従わせた。クズです」


「私は、クズに惚れたのかい。鉢嶺の組長は、クズに娘を預けたのかい。あ゙〜言ってみろ」


 すみれ姐さんは、着物の懐から、鞘に収められた、懐剣を取り出した。


 綺麗にすみれの絵が施されて、漆も使われている。


「すみれ姐さん、そんな物騒な物はしまって下さい。お願いです」


「今日は、穏便に済まそうと思ったけど、我慢できなくたってしまったのよ。アンタの性だよ」


 すみれ姐さんは、鞘を捨てて。右手で持ち、刃を下に向けて握った。


「危険ですから。鍔も無いし、すみれ姐さんは、軽すぎます。ケガしますよ」


「うるさい。お前が、前田を追い込んだせいで、息子の勝昌が、鉢嶺の五代目に決まったんだよ。親の気持ちが分かるか、お前に。種無しが、分かるわけないか」


「それは、極道に生まれた性です。逃げられません」


「ほざけ、種無しが」


 すみれ姐の攻撃を、何度か避けていると。


「すみれさん、どうして」


 玄関に出てきたナンシーが声をかけた。


「前田の仇」


 すみれ姐さんは、振り回さずに、突いてきた。


 俺は、逃げずに受けた。


 すみれ姐さんの手から、大量の血が滴り落ちている。


 大の男が握っても、鍔が無いから、滑って自分の手を切ったのだろう。

 右手を、柄から離して。手が下がっている。

 淡く白い着物の袖が、赤く染まっていく。


「どうしてこんな事をするのですか」


 俺は、懐剣が落ちないように握り、鞘を拾った。


「アンタには関係ない。コレからは、鉢嶺組の娘として、対峙させていただく」


「待ってください」


 俺は、懐剣を左手で支えながら、右手で風呂敷を持ち上げて、中の札束を玄関でばら撒いた。


「ナンシーさんごめんなさい、綺麗なタオルを、取ってきてもらえますか」


 適当に、右手と歯で、結び目を解き。すみれ姐に返した。


止血した方が、良いですよ。


 ナンシーが、引越し祝いの真新しいタオルを手に、帰って来た。


 すみれ姐さんは、風呂敷を手で握ると左手でぐるぐる巻きにした。


「コレも、どうぞ」


 新しいタオルも渡した。


「答えを聞いてません。どうして私にかかわるのですか」


「もう、ナンシーさんには、関係ないよ。スナックナンシーの金も返したし。鉢嶺組のメンツが、掛かっているんでね」


「それていいです、けど。今日の所は、お引き取り下さい。面倒ですし。風呂敷の祝儀袋とスナックナンシーのお金は、確かに受け取りました。お大事にしてくださいね」


「コレだけは、言っておくぞ。ウチの子。勝昌は、前田の良い所しか見ていない。理想の父親だったんだ。あんたが、前田を追い込んだから、死んでしまった。仇になったんだよ。いいね」


「もう、こんな事は、辞めて下さい。お金なら、差し上げますから、昴さんを、私から取り上げないで下さい」


「そうだね。前田は、クズだったかもね。けど、惚れた男を立てるのも、女の役目なんだよ」


 すみれ姐さんの捨て台詞は、悲しくあった。

 真新しタオルを、赤く染めながら、帰って行った。


 俺は、ゆっくりで縁側へ向かい、腰を下ろした。

 支えていたのに、腰を下ろして、傷口が少し開いた。


 コレを、どうするか迷っていると。


「横井さん。昴さんが、刺された。どうすればいいですか」


 京子は、ベランダから、海を見下ろし。

 状況を確認して、駆け下りてきた。


「どうしたの、大丈夫なの」


「丁度、良かった。どうしようか迷っていたんだよ」


「そうね、出血は少なそうだけど。抜いても、大丈夫そうだと思う。やっぱり待って、3針か4針縫う事になったら、抜かない方が良いのかな」


『ピーポーピーポーピーポー』


 救急車の音が、近付いてくる。


「アナタ、私も呼んで、救急車も読んだの」


「何で、ダメなの」


「まぁ、一刻を争っていたらそうなるかな。ごめん、わたしが、間違ってたわ」


「何よ。このお金は」


「それは、いつものお金と違うぞ。スナックナンシーの賠償金だ。手を付けるなよ」



 いつもの、緊張感のない、救急隊員が現れた。


「どうも、東江さん毎度お世話様です」


「ご無沙汰してました。生きていたんですね。また、保険金詐欺ですか。懲りないですね」


「今日は、恋愛のモツレですね。普通は、もっと下の下腹部を狙いませんか」


 俺は、懐の懐剣を支えながら、ストレッチャーに乗せられて、野次馬の中を通った。


 朱美も外に出てきて、何事かと見ていた。

 天音ちゃんは、ストレッチャーに乗る俺を見て。手を振りながら、「パパ、バイバイ」と言った。

読んでいただき、有り難うございます。

高評価、星とブックマークを、宜しくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ