始まりと終わり(後)
京子が、会社を休もうとした。
明日、明後日と、連休を組んでいる手前、仕事を休めなかった。
最後に、松田ナンシーが登場した。
「今日から、3日間は浮気しないで。子種は、私の中に全て出してね」
何度も聞いた。このセリフ。
「あまり、張り切らない方が、良いと思うよ。ほら、思い詰めないで」
「私には、使命があるの。45歳までに、昴の子を2人産まないといけないの」
「だから、そう言うプレッシャーを与えないで欲しいの。ついでに、お義父さんの方にも、伝えてくれないかな」
俺の目の上のタンコブ。横井龍三には、絶対に逆らえ無いから、京子に代弁をお願いしている。
「昴さんは、そのままでいいの。私との子を、成したくないの。私は、体調管理もして、鉄分も葉酸も多く摂取してるのよ。この月に、3日間だけで良いの。私の願いを聞いて」
凄く、か弱い女のイメージなのだが。なんなら、結構な頻度で、してますけどね。
「分かった。帰ってきたら、可愛がってあげる。だから、お仕事頑張ってきて」
京子を抱き寄せて、熱いキスをした。
「今日、仕事休んで。今から可愛がって貰おうかな」
京子が、腰に手を回してきたが、強引に、手を戻した。
「明日、明後日と、連休入れているんだろ。来月の連休が、取りづらくなるぞ」
ここは、冷静に対処したつもりだ。
「今日の晩飯は、京子の好きなマーボーにするから。頑張ってきてよ」
追撃の言葉を浴びせた。
「私専用の作ってよ。その為に、1人用の土鍋を買ったんだから。真っ赤に染めてね」
コレをやると、京子はダイニングで食事を取る事になる。
土鍋が、熱過ぎる事と、基本、年中薄着の沖縄で、汗だくのお母さんは、見るに堪えない。
毛穴が開いて。そこから、滝のような汗を掻く。メイクが落ちるのも気にせず、ご飯と麻婆をひたすらかき込む、母親は見せたくない。
後、それだけでは無い。
最後は、汗だくのまま、風呂場へ直行する。
今日は、泊まる予定だから、大問題なんだ。キスされる、俺の下半身の身になってみろ。
歯磨きした後でも、死ぬぞ。
「成る可く、赤く染める。期待してて」
「分かった。早く仕事を切り上げて、定時で帰れるようにするね」
今日は、ダイニングテーブルのティッシュボックスを取り、俺に向けた。
「口紅付いてる」
「有難う、気を付けるよ」
朱美の方の事を、言っている。私ので、上書きしましたと。アピールしている。
「年内に、妊娠しなかったら。本気で妊活するからね。大学病院に、一緒に行くから。体外受精も覚悟してて」
京子は、嵐のように去った。
俺は、リビングの皿を片付けながら、天音ちゃんの残りを、胃に落としていく。
食事を作りながら、味を確認したり。摘んだりはしているので、カロリーはゼロのはずなのだが。
天音ちゃんと普は、大人しくアイパッドで、動画を見ていた。
流しに、水を張り。時間が無いので放置する。
天音ちゃんの、保育園のカバンの中を確認して。歯磨きを済ませ。戸締まりをした。
家の鍵を閉めたら、3人で登校する。
天音ちゃんは、道路を歩かない。
俺が、前傾して歩くと、腰が痛くなり。
天音ちゃんが、手を常に上げている状態が不憫に感じたからだ。
天音ちゃんを、常に抱っこして。同じ目線で、会話をしている。
途中から、普は俺たちと離れて。集団登校の輪に入る。
悪ふざけをしたり、女子に、怒られたりしている。
懐かしくもあるが、俺たちの時代に、集団登校は無い。
女子は、大人びて。男子は、子どものままだ。
天音ちゃんからは、童謡を教わったり。園の話をする。
たまに。極、稀に。天音ちゃんを、歩かす事がある。
週末の土曜日、お布団回収の時に、買い物を忘れて。帰りに、スーパーへ寄る時等は、魔女っ子のウエハースチョコで釣る。
キラキラシールが出るまで、辞めないが。買い物をし忘れた事を後悔する。
学校の校門に辿り着くと。
「押忍、行ってきます」と、元気な挨拶が飛んできて。
俺と天音ちゃんは。「バイバイ」と手を振るが。
俺達に、大きく手を一度だけ振り。
友達に、置いてゆかれてる事に気付き、走って友達を追いかけて、子供の群れの中に消えた。
「行こうか」
「うん」
俺と、天音ちゃんは、童謡を歌いながら、保育園へ向かった。
俺は、この辺では、かなりの有名人になっていて。
一次は、保育園を出禁にされていた。
原因は、俺の過去と真琴事件に、関わってくるのだが。
最近になり、玄関まで許されるように回復した。
努力の賜物である。
天音ちゃんを、玄関で降ろし。ハイタッチをした。
「パパが、一番最初にお迎え来てね」
可愛く微笑み。教室の方へダッシュした。
朱美が、天音ちゃんに、吹き込んだ言葉だ。
17∶00前に、お迎えに来ないとならない使命感。
パパが、お迎えをして。ママは、ゆっくり出来る安心感。
俺は、後ろ指をさされながら、保育園を後にした。
帰りにお豆腐屋さんへ寄り、2丁半とお昼用のゆし豆腐を買い。油揚げは、購入して無い。
財布の入った小さなカバンから、マイバックを取り出して、豆腐を入れた。
その後は、スーパーへ寄り。野菜とひき肉を買い足した。
ご褒美アイスは、今日はお預けにして。ランニングマシーンで、走る事を決意したいた。
家に到着すると、ナンシーが縁側に座っていた。
門を潜り、俺が視界に入ると、駆け寄ってきた。
松田ナンシー 30歳 独身 スナックナンシーのママをしている。
黒人系のハーフで、グラマスなボディにハスキーボイスの歌声で、男たちを魅了している。
「今日の晩御飯は、なーに」
機嫌よく、俺の腕に大きな胸を押し付けて、マイバックの袋を覗いた。
「まほどぅふ」
俺は、少し濁した。
マイバックの中に、お豆腐屋さん豆腐を見つけて。
ナンシーの顔から、笑顔が薄れてた。
俺の顔も、引き攣っていたかもしれない。
それでも、俺の手を引っ張って、家の玄関を開けてとせがんだ。
11月中旬の曇り空だが、家を開けると『モワッ』っとした空気が流れてきて。俺達を包んだ。
俺は、食材を冷蔵庫へ入れて。
ナンシーは、家の窓を開けて、家中を廻り。空気の入れ替えをした。
俺は、お客さん用のマグカップとナンシーのカップを取り出して、コーヒを入れた。
俺は、コーヒーが、冷めるのを待ちつつ。
流しの、食器を洗い始めた。
ナンシーは、ダイニングテーブルの、いつもの席に座り。
スナックナンシーの、愚痴を始める。
赤嶺社長が、ケチだの。酔った辺土名弁護士が、うざい絡みをするとか。スケベでお尻を触る、お客さんの話。ソファーの修理費。スタッフの恋愛。
色々な問題が、ナンシーに伸し掛かり。
俺は、相槌を打つ。
「ねぇ。ちゃんと聞いてる」
「あっ。うん。聞いてる。ボーイと嬢の話だろ」
「もう、真剣に聞いてよ」
ナンシーは、急に立ち上がり。後ろから、俺を抱きしめた。
洗い物を続ける俺の左手に、手を絡めて。
『俺の小指を外した』
俺の義指は、天音ちゃんの魔女っ子プレートの上に落ちた。
次に、スウェットの上着のファスナーを下げて、前を外した。
背中側のスウェットを捲り、中の黒いロンTも捲った。
俺の背中の、閻魔大王が顔を出した。
背中に、頭を5回打ち付けて。そのまま頭を押し付けている。
俺の緊張や心音が伝わる。新たな、嘘発見器か。
「これでも私、モテモテなんだよ。年上ばかりだけど、チヤホヤされているんだよ」
ナンシーは、自分のTシャツとブラを捲り。直接、大きな胸を押し付けた。
「昔みたいに、私を抱いてよ。優しくしてよ。お願いだから、キスしてよ」
「俺の背中の閻魔大王は、レーザーで、消えるかもしれない。醜く、跡は残るかもしれないけど、無くなるらしい」
俺は、言葉を詰まらせながら。
「だけど、俺の過去は消えない。普の未来の為には、俺は邪魔な存在になる。足枷にしかならない。影で、援助するくらいで、表立って援助はしない。そろそろ、離れないと大事な時期になる。終わりにしよう」
ナンシーは、蛇口を捻り。泡だらけの手を洗い。俺の背中の部分で、手を拭いて。
少し、ずらして涙を拭いたのか。頭を押し付けて。
俺のズボンの中に手を入れた。
「勃っているじゃん。私の体を使うか、変態叔父さん」
嘘発見器では無かった。
俺が、無視を続けると。
俺のズボンから、手を出して。
もう一度手を洗い。
自分のブラとシャツを直して。
コーヒーを手に、リビングへ向かった。
リビングから、テレビの音が聞こえて。音のボリュームが上がるのを感じた。
俺は、洗い物を早くする事も、遅くする事も出来ずに、丁寧に小指も洗った。
洗い物を終えて、恐る恐るリビングへ向かうと。
ナンシーの姿は無かった。
俺は、テレビの音のボリュームを下げて。
リモコンで、電源を切り。ローテーブルの定位置に戻した。
冷めたコーヒーに、口を付けて、ソファーに深く座った。
少し天井を見つめながら。沖縄に帰ってきて、天涯孤独に家族が増えたと、実感している。
この1年半で、色々な事が有った。
俺は、思いに老けた。
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