過去とヤクザへの道
東江は、この家を出た頃の話から始めた。
横浜に移り住み。川崎の黒井組に、拾われた話を始める。
俺は、16歳までここで暮らしていた。
父親は、他所に女を作り。
母親は、パート出で忙しなく働いていた。
祖母は、母親の財布から金を抜き取り。
爺さんは、見て見ぬふりをしてる。
俺は、間違いなく、この家の子だった。
爺さんのように、見て見ぬふりをして、バイトに明け暮れていた。
父親が、女を家に連れ込み、事件が起きた。
母親が、離婚を父親に突きつけて
俺は、母親の方に付いた。
コレには、家族皆が、驚いた。
一人っ子の俺は、絶対に残ると思われていたからだ。
父親は、俺を勘当して。
「連れ込んだ女と、何人も子を成すからいい、出ていけ」
「言われなくても、出てくよ」
俺は、母方の横浜へと引っ越しをした。
その頃は、ちょうど沖縄ブームで、転校してもチヤホヤされたが。
バイトを始めてからは、学業は疎かになった。
バイクの免許を取ってからは、朝に起きれなくなり、一限目から席に座っているのが珍しく、午後からの登校もあった。
そんなこんなで、ギリギリ高校を卒業して、喫茶店、スナックのボーイ、ソープランドの呼び込み。
チンピラまがいの事もした。
21で、初めてお務めをした。
ソープ嬢にストーカーが付きまとい、2人の嬢が狙われた。
一人は、当時ナンバーワンの牧姉さん。
もう一人は、ナンバーツーの泉姉さん。
仲が悪かった理由では無かった。
時間帯も違っていたし。
何度も、被害届を出したが、事件性は無いと判断されて。
「ソープ嬢だから、悪い」
逆に、こちら非があるみたいに言われた。
そして、事件は起こった。
明ら様に、ソープランドの前に現れて、泉姉の帰りと、牧姉の出勤の邪魔をしているので。口論になり、俺が手を出した。
「お客さん、困ります。何度も、出禁と申しています。帰って下さい」
「福屋みどりさんは、何処に引っ越しをしたんだよ。知っているんだろ」
「困ります。帰って下さい。警察を呼びますよ」
「それなら、金払うから牧さんに会わせろ。客として会うんだから、問題ないだろ」
「大有りです。お客さんでもありません。出禁と、何度も申し渡しています。お引き取りください」
俺は、ストーカーと揉み合いになり。
タイミングが悪く、泉姉を乗せた車が到着した。
ナンバーワンとツーと言っても、名ばかりで。
大きな、ソープランドでもないし。
アイドル級に、可愛いわけでもない。
「榊原さん、横浜の中華街近くのマンションに引っ越ししたんだよね。コレ、引っ越し祝い」
ストーカーは、銀行名の入った封筒を掲げて、泉姉さんへ手渡そうとしている。
「いい加減にしろ」
俺は、拳を振り下ろしていた。
その場は、ストーカーが去って一段落したかに思えたが。
後日、弁護士を連れて現れた。
ストーカーの要求は、2人の住所を教えろだった。
俺は、それを拒み。
ソープのお金を50万を取り、俺の通帳から60万を、合わせて110万を2人に渡して。誰の物かも分からない軽自動車に、2人を乗せて逃がした。
ストーカーは、小突いただけなのに。
偽の診断書を出して、100万を要求された。
俺は、黒井組に150万の借金をして。
2年のお務めの後、黒井の親父から盃を頂き、住み込みで働いた。
事務所の掃除と、食事の世話、使い走りまで、何でもやらされた。
24の時に、沖縄に帰って来た。
祖母は、昴が帰ってきたと喜び。
爺さんは、奥の部屋から出て来た。
父親は、背を向けて新聞を読んでいた。
俺は、外から家の中に入らず、母親が死んだ事を告げて。
ヤクザになった事を、報告した。
1年後の25の時に、小さな抗争が起きて。組の為に、2年のお務めした。
カチコミを受けて、事務所の前でバットを振り回し、警察に捕まった。
警察が来て、襲撃は失敗に終わり。
黒井組は、守られた。
「絶対に、事務所の中に入れるな。今、ガサ入れされたら、皆捕まるぞ」
「山田、寺内、東江は、表で暴れて来い。刃物は、絶対に持ち出すなよ。バットと木刀だけにしろ。捕まっても、お土産と草野球用と言え。分かったな」
一番若手の俺が、バットを持ち、先陣を切らされた。
あの頃は、鍛えていた訳ではなく、ガリガリだった。
「かっかて来いよ。黒井組の島だぞ、分かっているのか」
相手も、刃物は持たされて無く。
黒井組の島の外で、薬を売買した事が原因だった。
完全に、前田と相良が犯人だった。
この時の前田は、若頭で。相良は、若頭補佐をしていた。
二人とも、カチコミに怯えて。黒井組事務所には、葉っぱや覚せい剤が、隠されていた。
俺らは、そんな事知らずに、黒井組の看板を守っていた。
27の出所祝いは、派手に行われて。
ここから、ヤクザとしての出世街道に乗る。
本家の住み込みとなり、菊乃お嬢様の世話係となった
異常な程に、菊乃お嬢様との時間があり。
菊乃お嬢様も、積極的にグイグイ来る。
身分を弁えて居たつもりだったが。
半年も持たずに、親父に頭を下げて。菊乃お嬢様との、恋愛が始まった。
週に一度、日帰り温泉へ行き。
月に一度、お泊りもこなした。
気を使い、避妊もしていたが。
菊乃お嬢様が、妊娠をした。
俺は、まな板と出刃包丁を手に、組長室の戸をノックした。
「誰だ」
「東江です」
「入れ」
『ガチャ』
「菊乃お嬢様を、妊娠させてしまいました。申し訳ありません」
俺は、その場で土下座をして、まな板と出刃包丁を、手前に置いた。
「ちょっと待て。勝手に落とすなよ」
親父は、筆を執り。真剣な表情で、筆を下ろし。
ブツブツ言いながら、何枚か、紙を無駄にしていた。
「やっぱり、コレだな。東江桃彦」
命名の大きな紙に、桃彦の字が、垂れていた。
ニコニコ顔の親父に対して、俺の顔は、死相が出るほど、青かったと思う。
「ちょっと待ってよ。東江さん、アナタ無精子症じゃないの。何で、子供ができるのよ。パイプカットじゃないわよね」
京子が、昔話の途中で止めた。
「えっ。無精子症って何。なんの事」
ナンシーが、戸惑っている。
「アナタ、人の話を聞いてなかったの。種無しの話、裏でしたわよね」
京子は、診断書をナンシーに渡した。
「えぇ〜。次は、女の子が、欲しかったのに」
ナンシーも、思考がぶっ飛んでいた。
「私は、愛が起こす奇跡が起こると、信じてますよ。パパ、ねぇ」
朱美には、理屈が通用しないと思った。
「大丈夫。オチもあるから」
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