修羅場と嘘
東江の個人情報は、ここでも漏れていて。
ナンシーは、卑猥な体で、マウントを取りに来た。
俺とナンシーは、キッチンで肉ジャガを、移し替えていた。
「あの子は、俺の子供ではない。誤解だ」
天音ちゃんが、『パパ、パパ』と、言うから。誤解を避けるために、自白したつもりだったが。
「ええ、知っている。どう考えても、あの子7歳以下だもの。7年間、お務めしていたんでしょ、塀の中で」
俺の個人情報は、ダダ漏れだった。
松田悟だな。刑事が、個人情報を漏らしていいのか。
京子は、自分のバッグから、水筒を取り出して。朱美は、天音ちゃんのジュース。3個パックの一つを貰っていた。
俺の家には、水とビールくらいしかない。
ナンシーは、買って来たばかりのビールを手にして、リビングに行き。
2人とは反対側の、シングルの席に、浅く腰掛けた。
京子も、三人掛けの端で、浅く腰掛けていて。
天音ちゃんは、両手で四角いパックジュースを飲み。
朱美は、深く座り。肘置きの小さな穴を、広げようとしている。
「初めしてで、宜しいですか。入り口のアパートの2階に住んでます、松田です。東江さんとは、引っ越して来た時に、助けて頂きました」
アジア系では無い黒い肌に、近所でも有名だったナンシーを、2人は知っていた。
ただでさえ目立つのに、グラマラスなボディーを持ち、男共を振り替えさせている。
「はいは~い。私は、ボヤ騒ぎで、東江さんに助けてもらいました。比嘉朱美です。宜しくお願いします」
驚くかも知れないが、コレが素の朱美だ。
羽瀬の時は、『黙ってて』っと、言い聞かせて。戦いに臨んだ感じで。立ち上がって、島袋くんにキスをした時には、驚いた。
アドリブだったにも関わらず、あの演技が無ければ、羽瀬から引っ張り出すのは難しかったと思う。
「私も、そこのアパートの4階に住んでます。横井です。東江さんには、助けていただいてませんが、良い関係を築こう思っています」
ナンシーは、京子の姿に苛立っていたが。
手に持っていた、ビニール袋から、洗濯して柔軟剤の柔らかな匂いが広がる、スゥェットの上着を取り出した。
前回、ナンシーがこの家を訪れた時に、俺が貸した物だった。
「そんな見窄らしいモノを、隠してください。恥ずかしくないのですか」
ナンシーは、タンクトップの内側から、ブラ紐を引っ張り。Gカップの胸を揺らした。
京子は、隣を見たが。
朱美も、推定Dカップの胸があり。見窄らしいのか、少し悩み。
京子は、急に立ち上がり。朱美と天音ちゃんの前を通り。歩きながら、2つのボタンを外し、前がはだけた。
「着替えて来るだけよ。逃げた訳じゃないから」
廊下を抜けて、仏間の縁側に干してあった服とブラジャーを回収して。
誰も見ていない仏間で、シルクのシャツを脱ぎ、パンツ一枚になり。濡れた服を手にしながら、シャツとジーンズを着た。
後々分かる事だが、カメラの前でワザとやっていた。
「だから、誤解です。『ギプスを濡らさなければ、お風呂に入れる』と言われたので。お風呂の誘惑に負けて、洗ってもらっただけです」
疑いの2つの目線が、俺に向かっている。
「横井さんの服が濡れてしまったので、替えの服を貸しただけです」
苦しい言い訳を、其の場凌ぎの嘘を、思いつくまま並べて、この場を誤魔化そうとした。
「本当よ。彼をお風呂入れただけよ。ただ、それだけ」
デニムは、乾いてなく。シャツも所々濡れている。
ナンシーの疑いの目が、和らいだ時に。
「この人は、嘘を付いています。私に対して、謝罪をした時に、『未遂です』と言ってました。『まだ、何もしてません』とも、言ってました」
朱美は、京子を指して。土下座した時の言葉を、皆にバラした。
ナンシーの和らいだ目は、疑いのまなざしに変わり。
床で、薄い座布団を敷いただけの、俺を睨見つける。
全身が痛くて、横になりたいのに。眠気も飛ばされて、正座をしている。
「どうなんですか、東江さん」
「………」
「あまり攻めないの、小ジワが増えるわよ。それに関しては、事実よ。未遂よ。彼のモノを、咥えている時に、この子が、『パパ、パパ』って、家に入ってきたのよ」
ナンシーは、身を乗り出して。ローテーブルに手を添えて、天音ちゃんの前に右手を伸ばした。
天音ちゃんも、それに応えるように、ナンシーの手のひらを叩いた。
「ナイスゥー」
機嫌を損ねたのは、京子で。
「でも、胸の大きさは、関係無いみたいよ。私の体で、反応してたもの」
「ケダモノ」
朱美が、口を開き。
「けももも」
天音ちゃんが、マネをした。
「まぁ。7年も、お勤めしていたら、ロリにも反応するんじゃないのかな」
「ケダモノって、何よ。アナタにだけは、言われたくないわよ」
『ケダモノ』って言葉に、京子の矛先が変わった。
「当日で、ペニスを咥えるって。ケダモノ以外、無いじゃない」
京子がキレた。
「この子は、いくつよ。結婚生活を何年おくって、ボヤの彼とは、何年一緒にいるのよ。ねぇ」
幼い天音ちゃんに目が向けられた。
ご近所でも、度々一人で居る所を、目撃されていて。無責任な母親として、近所では有名だった。
「結婚生活は、天音が生まれて2年も持たなかった。彼とは、1年なるか、ならないか。だね」
ざっくりで、アバウトな答えだが。半年も空いていない。
「ホラね。どっちがケダモノよ。アナタの方が、男に依存しているケダモノじゃない」
「違うのよ。元の旦那も、羽瀬も、東江さんに会うための、レールなの。元の旦那は、天音を与えて、羽瀬は、お金を運んできたの。東江さんが、全てを教えてくれたの。東江さんは、オッパイが好きなの。私のは、形が崩れてきたけど。大丈夫かな」
理解できない話を始めた。
「私は、そんなんじゃないのよ。あなた達もアレを見たら、そうなるから」
「キャー。東江さんのそんなに凄いの」
ナンシーは、固唾を呑んだ。
「何でも、下の方に持って行かないの」
「凄くないんだ」
朱美の肩の力が抜けた。
ナンシーは、大きく息を吐く。
「私は、年に一回、浮気するか、しないかよ。相手が、独身だと思ったから。今回だって、東江さんは、ずっと一人で暮らしてたわけだし。文句を言われる筋合いは無いわよ」
静けさが広がり。皆が、俺の方を向いたが。
「アナタは、どうなのよ。皆話したわよ。アナタの番じゃないの」
自然と耳を傾けてしまっている俺。
「私は、無いの」
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