始まりと終わり(中)
東江は、急ぎながらも、丁寧にお弁当箱を仕上げた。
真琴の事は、気を使い。優先しているつもりだけど。
合っているかは、分からない。母親の京子からは、苦情は来ていない。
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「パパ、今月も来ちゃった。ごめんね」
謝る朱美に対して。気にしていない素振りをする。
「大丈夫。気長に待とう」
前向きに、まだ、1年目だ。先は長い。
「それよりも、時間が無い。先に、手を洗って来て。食事の準備は、こっちでするから」
天音ちゃんを、降ろして。洗面所へと向かわせた。
俺は、天音ちゃんのプレートに、オムレツと小さなオニギリ、湯煎のミートボールを乗せて、味噌汁を付け、リビングへと運び。
朱美には、大人用のご飯と味噌汁、鮭と玉子焼きに、大根おろしを添えた。大人用のメニューだ。
東江の仕事も、佳境に差し掛かる。
これからは、お弁当の準備も、しなければならない。
冷蔵庫から、昨日、大量に作った金平を取り出して、テーブルの空いたスペースに並べ。
プチトマトを追加で取り出して。彩りに加える。
最近は様になってきた。
玉子焼きの様子を見ながら、準備をしていると。ノレンの音が鳴り。京子が、キッチンに入って来た。
「おはよう」
朝から素っ気ない。
横井京子 40歳 バツイチ独身 看護師で、真琴と兆志の母親で、実家が、とんでもない大物の家。
ショートボブで、150cm無いが。ワイルドな、一面を持つ。何がとは、言えない。
「おはよう」
こっちも、大忙しだった。
何食わぬ顔で、棚から自分の弁当箱を取り出し、テーブルの金平を、大量に確保しようとしている。
「おい、そんな事をすると、皆の分が無くなるだろう」
京子は、俺にバレて、バツが悪くなった。
「また、日の丸弁当の二段にするぞ」
過去に、3回した事がある。
「あれが、どれだけ恥ずかしいと思っているの。男性でも、肩身が狭くなるのに。女性の私は、その5倍の羞恥を受けるのよ。分かる。分からないから、出来るのよね。アレの恥ずかしさを、説明してあげるわよ。良く聞きなさい……」
「分かった。悪かった。俺が悪かった。海より深く反省するから、朝は辞めてくれ。忙しいの、こっちも」
喧嘩する余力は無い。暇も無い。
全力で、目の前の仕事をこなす。
「お弁当は、こっちでヤルから。頼むよ」
お弁当箱に、スペースを取られて。物が置けないのが現状で。
先に、玉子焼きと鮭の皿を配った。
リビングのローテーブルには、兆志が座っていて、アイパッドを見ている。
「おはよう」
こっちから、挨拶をした。
「叔父さん、おはよう」
こっちを、見ようともしない。
昭和のお父さんなら、アイパッドを外に捨ててるレベルだろう。
横井兆志 14歳 中学2年生 塾にも、部活もせずに、ゲームを謳歌している。
振り返ると、棚のカウンターに、真琴が座っている。
「おはよう、少し待ってて」
俺が先に声をかけると。
「おはよう、ございます」
耳からワイヤレスのイヤホンを外して、挨拶をする。
まだ、少し、ぎこち無い感じがする。
横井真琴 17歳 高校2年生 暴走族に入っていた過去と、PTSDになるほどの、事件に巻きこまれた傷を持ち。現在、保健室で勉強をしている。
急いで、キッチンへ戻り。真琴のトーストを冷蔵庫から取り出して、トースターへ入れた。
2人分の、ご飯と味噌汁をよそい、リビングへと忙しい。
3人分のマグカップを取り出して、それぞれのコーヒー豆を入れ。ケトルのお湯を注ぐ。
真琴のは、茶色の角砂糖とフレッシュを添えた。
真琴のは、トーストと小鉢のサラダのセット。
取り付く島も無く。次のお客さんが登場する。
その子は、玄関に入るなり。大きな声で。
「押忍、おはようございます」
空手のポーズを取り。朝から、元気な男の子だ。
松田普 11歳 小学5年生 週2で、空手道場に通っている。黒人系のクォーターである。
「おお、おはよう。早く手を洗って、席に着け」
「押忍、ご馳走になります」
普は、皆の靴を揃えて、廊下の隅にランドセンを置いて、家に上がった。
真っ直ぐに、洗面所へと向かい、手を洗った。
俺が、普の準備を終えると。
「押忍、頂きます」
ポーズは、取らずに。箸を揃えて、合掌をした。
これで、朝食の配膳は完了したが。お弁当が残っている。
俺が、スマホの時計を見ると、07∶27を表示していた。
朝食とメイクを終えて、ウォークインクローゼットで着替えた朱美が、裏の方から出て来た。
「パパ大好き」
僅かな時間だが。キッチンで、2人の時間が持てた。
今度は、俺の方からキスをする。
軽く、キスをして。ハグをした。
最後に、タイトスカートのファスナーを、少し下げて、ご自慢の生理パンツコレクションを、披露した。
基本は、男性用のボクサーパンツで。メーカーは、マイナーなDay2。バックプリントが独特過ぎて。
上半身裸の女性が、誘導棒を横に持ち。乳首を隠している物や。
白線の死体現場で、周りが血に染まっている物。
シンプルに、Splatterと血が垂れるような感じで、路地裏アート風に、描かれていたり。
色々見せてもらっている。
今日は、大きな分銅が描かれていて。300Kgの表示が描かれている。
アメコミの効果音のように。
『Zuooooooooooooooooon』
と、絵の後ろに、描かれていた。
重たいのが、伝わりそうだが。
生憎と女性ではないので、コメントは差し控える。
そして、アラームが鳴った。朱美のスマホからだ。
朱美は、直ぐにスカートを上げて。お弁当とカバンを持ち。
軽く、キスをして。
「天音の保育園宜しくね。パパ」
ギリギリのタイミングだった。
朱美が、キッチンから出て行くと。
直ぐに、兆志がキッチンへ入って来た。
「叔父さんのかに座の運勢は、4位で。油揚げが、ラッキーアイテムなんだって」
あのアラームは、占い時間のアラームだ。
兆志は、空気を読まない所がある。
「それじゃ。行ってくるね」
「いってらっしゃい、気を付けてな」
反対に、空気を読み。ギリギリの人もいる。
「東江さん、バス代がない。お母さんが、『東江のおじさんから、借りて』って」
真琴が、困っている様だ。
俺に、一時の休まる時間は無いのか。
「仏壇の棚から、一万円札を抜いて良いぞ」
皆、知っているが。手を出さない。
「一万円札だと、バスで両替が出来ない」
俺は、食器棚から。自分のマグカップを取り出していたが。テーブルに置いて、玄関へと向かった。
靴箱の上の固定電話の横に、蚊取り線香の缶があり。
一万円のお釣りは、その缶に全て入れてある。
5000円札と、レシートのクズを弾き。クシャクシャの1000円札を3枚取り出した。
ナイスなタイミングで、チャイムが鳴った。
玄関の磨り硝子越しに、真琴と同じ制服が見える。
そのまま、玄関をスライドさせると、懐かしい顔があった。
真琴の同級生の、早苗と麻美だ。
2人は、うちのガレージに原付を置き。真琴と共に、通学する。
俺が、挨拶する前に。
「「お早うございます。東江さん」」
普のは違った、気合の入りようで。
タバコを咥えたら、3秒以内に火が付きそうなレベルだ。
「おう、おはよう。最近学校は、どう……」
二人に、学校の様子を聞こうとすると。真琴が、三千円を奪い。トーストを咥えながら、脇をすり抜けた。
「お弁当、有難う。行ってきまーす」
「「東江さん、失礼します」」
2人は、言葉よりも長く頭を下げて。真琴の後を、追いかけた。
学校の様子を聞けない。いつも、はぐらかされてる気がする
キッチンへ戻ると、京子が、待ち構えていた。
俺が、近付くと。
俺の首に、両手を絡めて。力強く体重をかけて、頭を引き寄せた。
強引なキスをした。
何度も舌を重ねて、一息付くと。
「今日から、3日間は浮気しないで。子種は、私の中に全て出してね」
京子の危険日の合図だ。
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描写を増やしているつもりです。