前田と東江
俺は、昭和のマンガみたいなリンチを受けて、気を失った。
前田と再会をして、煮え湯を飲まされたような、過去を思い出した。
俺は、バイクを降りると、その場で佇んだ。
逆に、宮城は、黒塗りのレクサスに向かって走り出した。
宮城が、後部座席のドアの前で、頭を下げると。真っ黒いフィルムが張られた、窓ガラスが下がり。
宮城は、ドアに近寄り、伺い立てた。
「前田さん、東江を呼んできました。これで宜しいですか」
「あぁ、ご苦労さん」
前田は、宮城を労い。そのまま窓を、閉めようとした。
「前田さん、待って下さい。葉っぱを下さい」
「あぁ、忘れてた。だけど、東江を痛めつけて、『病院送りにした』って言っていたけど。俺の目には、ピンピンしているように見えるけど、気のせいか」
「良く見て下さい。右手にギブスしてます。病院送りにしました」
「最近のガキどもは、相手に、コブを作ったら、半殺しになるのか。腕一本、折ったくらいで、いい気になっているのか。立てないくらいするんじゃないのか。あ゙~」
「分かりました」
宮城は、振り返り。
「あのオッサンを、袋叩きにスッぞ」
「「「「イェー」」」」
「もう、逃げられないぞ」
「今朝の借りを、返すは」
「死ね、オッサン」
俺は、バイクを見たが。右手が使えない。
ガキどもは、角材やらバットやら、道具を手にしている。
『東江、ピ〜ンチ』
取り敢えず、横に止まっている宮城のバイクを蹴り倒した。
次に、逃げながら、ポケットの中の万札や小銭をぶち撒けて、時間稼ぎを図った。
「万札だぞ。ラッキー」
「追えよ。バカ」
「痛ぇな宮城。殺すぞ」
宮城と数名が、追いかけて来た。
だが、半数は、小銭も拾っている。
ガキどもとの距離は、離れる一方だったが。
バイクを出された。
『あぁ、今朝の轍を踏んだ』
それだけでは、無かった。2人で、バイクには乗り。漁網を携えている。
俺は、簡単に捕まる雑魚だった。
昭和のマンガみたいに、漁港の中を引きずられながら。ターンする度に、クルクルと回り壁にぶつけられた。
それを数回耐えて、意識を失った。
「おい。死んだんじゃねぇ〜のか」
「どうでもいい。金目の物を探せ」
「持ってねぇな。死ね」
『ドカ』
俺は、蹴りを入れられて、意識が戻った。
体の至る所を擦りむき、ジャージは、ボロボロになっている。
「よぉ〜いい男、生きてるか」
様子を見に来た、前田が声をかけた。
「ご無沙汰したます。前田の兄さん。相変わらず、人をコケにしてますね」
「今回は、俺の性じゃないぞ。お前が悪い、自業自得だ。あのナンシーから、手を引け。それだけだ」
「何ッスか。ナンシーさんが、かかわっているのか。少し見えてきた」
「お前は、何も考えなくて良いんだよ馬鹿。これ以上関わったら、命を落とすからな。分かったか」
割って入る、宮城のバカ。
「前田さん、例のモノを下さい。お願いします」
前田は、振り返り。頭を下げる宮城の頭を叩いた。
「空気を読め。バカなのか」
前田は、車の運転手に向かって。
「コイツラに、ご褒美の袋を渡してやれ」
運転手は、後部座席のドアを開けて、コンビニ袋を手にした。
宮城たちは、レクサスと走り。運転手にも、頭を下げている。
「東江、返事はどうした。ナンシーに、手を出すなよ。生きていたいだろ」
「生きていたいけど。前田の兄さんが、関わっているなら、とことんナンシーさんに、関わらさせていただきます。俺も、兄さんに恨みが、残っているんですよ。お忘れですか」
「アレは、事故みたいなもんだろ。やる事やったんだから、ガキが出来ちまったんだよ」
「俺は、忘れてませんから」
「いいから、忘れろ。ナンシーの事も、忘れろ。分かったか」
『ドカ、ドカ』
腹に、体重を乗せた踵が2回降ってきた。
体が、2回くの字に曲がり。
胃液を吐いた。
何も入っなかったから、胃液しか出なかった。
「兵隊は、イッパイ居るんだよ。分かってんだろ」
「相良の後釜は、ガキどもですか」
「あぁ、いいコマだぞ。ガキでも、女でも、葉っぱやコカインで、言うこと聞いてくれるぞ」
「相変わらずの外道ですね」
「何とでも言え。上に立つやつが偉いんだよ。兵隊は、俺の言う通りに動くだけで、褒美がもらえる。ウィン・ウィンじゃねぇか。誰も、文句言うわけないよ」
前田は、動けない俺にツバを吐き。
「スナックナンシーが、軌道に乗ったら、ナンシーとガキを、迎えに行くから。素直に、渡せよ。それまでは、自由にさせてやる。女の喜ばせ方も知らない、タネナシには、縁遠い話だけどな」
ガキどもは、葉っぱをすいに消えた。
前田も、俺に忠告をして。レクサスに乗り込み。
ズタボロになった俺は、一人だった。
ガキどもに、スマホを奪われて。辺土名弁護士や金城くんも、呼べずにいると。
真琴が現れた。
涙を流して、謝罪をしている。
「ごめんなさい。私が、お金を盗んだから。バイクを、欲しがったから。こんな事になって。本当に、ごめんなさい」
「バカ、死にたいのか。相手はヤクザだぞ。早く逃げろ」
「ごめんなさい。ごめんなさい」
「だから、もういい。ヤツらは、お前を道具としか扱わない。ここから早く逃げろ。捕まったら、AVやソープに沈められるぞ」
俺は、誠を逃がそうとしたが。真琴は謝罪をするだけだった。
「分かった。救急車だけ呼んでくれ。お金の事は、心配しなくてもいい。この事と、お金の事は、関係無い。本当だ」
救急車で、真琴の態度が変わった。
「オジサン、お金は必ず返すから。皆には。お母さんには黙ってて。お願い」
「何でもいい、黙っててやるから。ここから離れろ。取り返しの付かないことになるぞ。分かっているのか」
「お願いね。お母さんには、内緒にしてて」
真琴は、漁港から走り去った。
俺は、真琴がどのようにして漁港に来たのか、知る由もなかった。
漁港に、救急車が到着して。
「どうされましたか。人が倒れていると通報があったのですが」
「東江さん、救急車はタクシーでは無いのですよ。世間で問題になってるのは、ご存知ですよね」
「あぁ、タクシー扱いしてないよ。頼むから、病院へ連れてって下さい。お願いします」
「宜しい。今朝は、素直じゃなかったですからね」
「そうそう、気分が悪くなった。萎えた」
「済まなかった。許してください」
「一刻を争うケガではないでしょ」
「だけど、これ酷いね。若者からリンチを受けるなんて。何をしたの東江さん」
「何もしてない。一方的に、難癖付けられただけ。俺は、被害者なの」
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