宮城と東江
とんでもない神様が、不運と厄日を連れてきた。
救急隊員に、バカにされて。医者は、淡々と仕事をこなし。警察は、反社扱いで、言い分も聞いてくれない。
俺は、パトカーから降りて。近所の野次馬に見送られながら、救急車へと乗り込んだ。
『ポワ、ピーポー、ピーポー』
野次馬は、事の終わりを見届けて。静かな安眠を取り戻した。
俺は、痛みと戦いながら、ストレッチャーに、寝かされた。
「ボヤ騒ぎの人ですよね。そこのアパートの」
「ああ、そうだ。どっかで見覚えあるなと、考えていたんだよ、俺も」
「どうも、お騒がせしてます」
「今日は、どうされましたか」
「子供たちに、襲われまして」
「若い子をストーカーして、追いかけ回されたんじゃないですか」
「あ~あ」
一人が手を叩いた。
「何ですかソレは、この年ですよ。オジサンどころか、初老の域ですよ。自覚してます」
『痛てて』
救急隊を無視して、寝返りを打ったが。右手を動かさして、痛みが走った。
「大丈夫ですか」
「答えて下さい、東江さん」
「大丈夫です。夜通しだったもので。少し休んでも、宜しいですか」
「オールが、つらい年なのね」
「俺も、二十年後は、こう成るのかな」
「大丈夫しょ、俺らは」
「だな」
病院に着くまで、こんなやり取りが続き。休まる雰囲気ではない。
取り敢えず、緊急外来で手続きを、左手で済ませ。治療が行われた。
「これは、折れてますね」
医者が、紫色して腫れている右手を見て。即答で答えた。
「調べないとならないので、レントゲンを撮って。それからですね」
どんなに俺が痛いとアピールしても、態度を変えないのが医者で。淡々と仕事をこなしている。
俺は、痛みに耐えるだけだった。
「お大事に」
右手を、ギブスで固定されて。薬を貰い。外へ出ると、眩しくなるほどの日差しに打たれた。
左手で日光を遮り、タクシー乗り場へ向かった。
「すみません、経塚駅方面まで、お願いします」
右手が使えないと不便で、ケツを拭くのも、時間がかかるし。確認のために、何度も拭いてしまう。
家に着いても、警察官がいて。事情聴取が始まった。
「何度も、言っますよね。面識は無いし、トラブルも起こしていない。一番近いコンビニがソコだから、鉢合う事は合っても、揉めたことはない」
「本当ですか。些細な事で、喧嘩になってませんか。因縁を付けたとか、注意したとか。心当たり、ございませんか」
「だから、無いって言っているだろ。因縁を、吹っ掛けた事も、掛けられても無い。俺は、もう、一般市民で、足を洗ったんだ」
「こうも、縦続きますと、疑わざるを得ないです。前科もありますし、元反社ですから。いくら説明されても、疑いますよ」
「誰が好き好んで、ギブスまでして、保険金を欲しがる。診断書もあるぞ」
「はい、はい。常套手段ですよね。ご苦労さまです」
「あ゙~。これはマジだよ。被害者なの、こっちは。ふざけるなよ、寝てないし、キレるぞ」
「公務執行妨害付きますよ、諦めて下さい」
『ヌヌヌヌグ。ワジワジーする』
「被害届として、受理しますけど。未成年の子供達だと思います。現行犯でもないですし、暗闇だったとの事で、犯人の顔を見て無いですよね。白を切られて、終わりだと思います」
「何が、検挙率ナンバーワンの日本だ。この、税金泥棒。仕事しろ」
「本職の方々が、騒ぎを起こしたりするので、仕事が滞ったりするのですよ。仕事を、増やすお友達に、伝えて下さい」
「分かった、分かった、もういい。無駄なことが、分かった。大人しくするよ。まったく」
「ご協力感謝します。何か有りましたら、ご連絡下さい」
「連絡したら、疑われるんだから。もうしねぇよ」
「賢明な判断をしていただき、有り難うございます。感謝します」
ウザい警察も帰り、眠りにつく為に、家に向かった。
冷蔵庫を開けても、何もないので。タクシーを呼び、買い出しへと向かった。
何も考えず、ただ、その日に必要なものだけを、買い足して。大きな袋を、トランクにしまって帰路に着くと。
リーダーの宮城が、家の前にいた。
バイクから降りて、タクシーから降りた俺に向かって来た。
「東江さん。ちょっと面貸してください」
「嫌だよ。何で俺が、ガキの相手を、しないといけないんだよ。お家に帰れよ」
「どうしても、面貸してもらわないと、コッチが困るんだよ」
「困るんだったら尚更だ。行くわけ無いだろ」
「相手が、前田さんでもか。前田勝紀さんが、オッサンを呼んでいるんだよ。俺らは、お前を連れて行くだけで、葉っぱが、貰えるんだよ」
「くだらない。葉っぱなんか辞めろ。ろくなこと無いぞ」
「そんな事は、どうでもいいんだよ。お前が付いてこれば、丸く収まるんだよ」
「尚更だろ。葉っぱなんか吸っていると、バカが、もっと馬鹿になるぞ」
「おい。ふざけるなよ。お前が来ないと、俺が、ぶっ殺されるだろ。バイクの後ろに乗れよ」
「お前らこそ、前田の事を信用しない方がいいぞ。痛い目を見るのは、お前たちだぞ」
「良いんだよ。葉っぱさえ有れば、ハッピーになれんだから」
「何を言っても、無駄なようだな」
「お前を、漁港に連れていけば、葉っぱが貰える。それだけでいいんだよ」
「荷物を、運ぶの手伝え。その後で、前田に会おう」
この決断が、さらなる不幸を生んだ。
前田と関わって、良い思いをしたヤツなんて、一人もいない。一番の被害者は、相良だが。
俺も、10年騙されて。人生の15年を棒に振った。
許せない対象だが、一番関わりたくない人物だ。
俺は、宮城の力を借りて、実家の縁側に、荷物を降ろして。宮城のバイクに乗った。
顔を覆いたくなるような、爆音のバイク。
うるさいだけで、先に進みもしない。
大通りを抜け、自動車学校の横を通り。漁港にたどり着いた。
漁港には、黒塗りのレクサスが止まっていて。ガキどもも、10人ほどいる。
右手を負傷している俺は、ゆっくりとバイクを降りて、宮城に急かされた。
「早く降りろよ、ジジイ」
「急かすなよ。倒れるだろ。」
久しぶりのバイクで、筋肉が萎縮したのか。ステップの上で立ち上がるのに、少しの時間を有した。
「前田さん、東江を呼んできました」
「ご苦労さん。ご褒美を上げたい気持ちはあるのだが、アイツに抵抗されたら、俺が困る。少し痛めつけてくれ」
右手を、ギプスで固定されているのに、手を抜かない。
「おい、あのオジサンを痛めつけるぞ。前田さんの命令だ」
『あぁ、俺の知っている前田が、やりそうな事だ』
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