警察と泥棒
ケイドロです。鬼ごっこです。
東江対ヤンキー数名の鬼ごっこ。
琉も知らずに、ヤンキーに追われる東江。
俺は、ヤンキーのガキどもを横目に、コンビニへと入った。
真っ暗な外から、急に明るい室内へ入ると、目が馴染めずに、ピントを合わすのに、タイムラグが発生する。
この様子を、前田勝紀は車の中から観ていた。
後部座席の窓を少し開けて、コンビニから漏れる光だけで、東江昴を確認した。
「おい、アイツだ。東江の馬鹿を、いつもの漁港に連れて来い。そうしたら、ハッパをやるよ」
前田は、傍らに置いてあったコンビニのビニール袋を持ち上げて。中からパケ袋を一握り分取り出して、宮城に見せつけた。
「マジっすか。今、コンビニの中に入ったジャージのオッサンを、漁港に連れてコレば良いんすね」
前田の手から、一つずつ乾燥大麻が入ったパケが溢れて。後部座席の床に散らるが。暗くて宮城には良く見えない。
「そうだな、明日の昼にも、漁港に連れて来い。ボーナス出してやる」
宮城の顔が車に近付き、うっとうしく思った前田は、後部座席の窓を閉めて。「帰るぞ」ど、運転手に話しかけ。
「お疲れ様です」
宮城が、レクサスから少し離れて、頭を下げた。
「「「「お疲れ様です」」」」
チームの数人が、レクサスを見送り。
コンビニの駐車場から、レクサスが消えた。
そんな事とは、つゆ知らず。俺は、コンビニのカゴを手に取った。
日用品や雑誌に目をくれず、トイレの前を曲がり飲料コーナーへ。
迷いも無く、いつものラガーのビールの6缶パックを、下の段から手に取り。ツマミのコーナーへ移動して、乾き物少しと、スモークチキンをカゴに足して。お腹を擦りながら、空揚げ弁当もカゴへ入れた。
レジへ向かうと、未成年らしきカップルが、タバコの銘柄で揉めている。
タバコの銘柄で、イチャイチャシーンを見せつけられて、微妙に微笑みながら。常温の水が足りないことに気付き。2Lの水を1本だけ足して、レジへ戻ると。
カップルは消えていていた。
俺は、ビニール袋を2つ買い足して、飲み物と食品に分けてもらい。会計を済ませた。
コンビニの外では、先程のカップルが、喫煙所で騒いでいて。
「やっぱり、薄いよ。3ミリは」
「だったら、吸わなきゃ良いじゃん。元々私のお金なんだし」
「しょうがないだろ、昨日のハッパ俺が出したんだから」
物騒だな、ハッパなんて。大麻じゃあるまいに。
この時は、学生が大麻に手を出すなんて考えもしてなかった。
両手に大荷物を抱え、暗がりの道をオジサンが一人、ドボドボと歩いている。
クーラーから出てきたせいか、外気が暑く感じて、荷物が重くなる。
汗をかき、いつものアイスは無く。両手が塞がっているので、ビールも飲めない。
「家までの我慢だ」
自分に言い聞かせて、大通りから住宅街に入った。
街灯は遠く、月明かりだけが周りを照らしていた。
不幸の連鎖は、まだ続いていた。
突然、右手に激痛が走った。
一瞬だが、鉄パイプだか、角材のような細い物が、見えたような気がして。
俺は、力の入らない右手を左手で持ち上げる為に、荷物を全部捨てた。
「オジサン、ちょっと面貸せよ」
「あっはははは」
「待て、オジサン。用があんだよ」
「おい。荷物忘れてるぞ」
俺は、振り向かずに走った。
声からして、若い。
コンビニにいた、ヤンキーたちか。
振り向く前に、左手を右手で持ち上げて、街灯を通過する一瞬で、1.5倍に膨れて紫色に変色した腕を確認した。
タバコを吸い、体力の無い若者たちとは、距離を離すことが出来たが。
こちらも、若いとは言い切れない。
奴らは、バイクに跨り。俺を追いかけてきた。
「大人しく暮らしている、一般市民だぞ。何で、お前たちに、生命を狙われないといけない」
公園の中を突っ切り、他人のアパートの駐車場を駆け抜けて、家の前まで来たが。
家の前に、十数台のバイクが並んでいた。
「訳が分からない。何で、家までバレている。おかしいだろ」
帰宅を諦めて、近くの公園へと戻り。スマホを取り出した。
「警察ですか。家の前で、制服を着た女の子が、バイクに乗った非行少年たちに、拉致されそうです。助けてあげてください」
「ご住所をお願いします。急いで、最寄りの警察官を派遣させます」
俺は、健全な一般市民だ。ゴタゴタはゴメンだ。
「俺は、何をやったんだ。ガキどもと接触ないぞ。大人しく、生活しているのに」
手を冷やす為に、公園の水道水を使っていると。
向こうの方から、トイレを使いに公園へやって来た。
「漏れちまうよ」
「オッサンが先だろ」
「歳のせいか、最近近いんだよ」
「バカ言え、お前も俺も10代だろ」
馬鹿な話をしながら、公園のトイレに現れた。
咄嗟に茂みに隠れたが、見つかってしまった。
「オッサンがいたぞ。コッチだ」
「出口を塞げ、逃がすなよ」
「ゼッテー逃がすなよ」
絶体絶命のビンチだったが。サイレンの音が近づいてくる。
ここは、袋小路で。突き当たりの公園だ。逃げ場なんて何処にもない。
「ヤバい、逃げるぞ」
「バイクは、捨ててけ」
「おい、オッサンどうすんだよ」
「今は、諦めろ」
宮城は、路地をバイクで進み。
ハイビームで、パトカーの視界をさえぎり。パトカーとの、僅かな隙間を突き抜けた。
8台が、宮城のあとに続き。パトカーの横をすり抜けて行く。
残りは、階段のある駅へ向かう道へと向かい、警察の手から逃れた。
ガキどもは、誰も捕まること無く、蜘蛛の子のように散り。
俺だけが、事情聴取となった。
「理由が、分からないです。暴走族に追われる事なんて、してませんよ」
「本当ですか。3週間前にも、ボヤ騒ぎで無実を訴えていたようですが。流石に、無理が有ると思いますが、いかがでしょう」
「いかがでしょうも、無いです。無実ですし。腕の骨が、折れているかも知れないのですよ。コッチは、被害者です」
「はいはい。分かりました。被害届を出されても、相手が未成年だとねぇ。それに、現行犯で捕まえられず。この車体カメラでは、ハイビームで相手の顔までは、録画されてませんから」
パトカーの車体カメラは、閃光にかき消されるように、何も映し出されていなかった。
残ったのは、道路の脇に放置された数台のバイクだけだ。
俺が、パトカーの後部座席に乗り、事情聴取を受けていると。
けたたましいサイレンの音を鳴らして、救急車が路地に入ってきた。
もう、近所迷惑なオジサンでしか無い。
ボヤ騒ぎで、大騒ぎとなり。
深夜に、暴走族を集めて、警察と救急車を読んだオジサン。
「おい、早くドアを開けてもらえますか。コッチが、被害者なのですよ」
助手席の窓を開けて、救急隊員と話し込んでいる。
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