モテ男と三股
東江は、羽瀬を追い込んで行く。
階段から、降りてきた動画を、ガレージのカメラが捉えていた。言い逃れの出来ない証拠だ。
「羽瀬信也さんは、勘違いをしてませんか。刑事事件になっていないだけですよ」
俺は、アイパッドを辺土名弁護士から受け取り、テーブルの上に置いた。
少し、操作をして。編集された動画を流した。
「これは、家のガレージから撮られた動画です。偶然にも、貴方が二階へ上がる時と、降りる時の2回。つまり、犯行が行われている時間に。貴方が、アパートに居た事を、証明する動画です」
皆が、動画に集中している。
「この後に、天音ちゃんが二階へ上がり。俺が後に続いてます。少し、離れていますが。警報機の音も拾っています。非常に優秀な防犯カメラです」
「動画からも、警報機の音も流れ。救急隊員が到着して、比嘉さんは病院へ運ばれていきました」
俺の一人語りは続いた。
「これが、会社に流れたら不味い事になりますよね、羽瀬さん。設計の喜舎場さんは、この事をご存知なのですか。喜舎場部長の娘さんの、喜舎場久美子さん」
信也は、動画から目を逸らして、俺を睨みつけた。
「おっと、口が滑ってしまいました。先程まで、ご一緒にデートされていた、取引先の花城桃子さんの事も、秘密にしておきますね。それにしても、なんと言い訳して、デートを断ったのですか」
「黙れ。自分がモテ無いから、ヒガンデいるだけだろ。喜舎場さんは、関係ないし。花城さんとは、まだ、何も無い」
「そうかも知れません。モテ無い男の嫉妬と、取らても構いません。しかし、貴方の事は調べさせて頂きました。比嘉さんの事も片付いてないのに、別な女性に乗り換える、軽快さに」
「黙れ。お前たちは、間違っている。一度しかない人生を、謳歌して何が悪い。俺は、40歳まで結婚する気はない。遊び続けるんだ」
「お前が、謳歌したから、この事件が起こったんだろ。まったく、あと10年もこんな馬鹿を放置していたら、何人の被害者がでているか」
俺は、止まった動画を。別の画面に変えた。
「これは、貴方と喜舎場さんの、ラインのやりとりです。喜舎場さんの方は、指輪を要求しているのに対し。近い内にボーナスで、と返していますが。嘘偽りがあるようですね」
赤裸々なモノまで、描かれていたが。結婚に対して明記されたモノは無かった。
母親が、スクロールさせて全てを読んでいる。
父親は、途中から目を逸らした。
母親は、スクロールを途中で止めた。
『早く2人で独立した、会社を作ろうね。
久美子さんの設計図は、評判だから大丈夫だよ。
最初は、お父さんがお客様の面倒見てくれるから。問題ないと思うの。
喜舎場部長が面倒を見てくれるのなら、問題ないね。大船だね。
楽しみだね』
母親は、自分の息子が馬鹿だと知った。
こんなにも、恵まれているのに。皆さんの心を踏みにじってしまっている。
「今回は、俺は被害者だ。大丈夫だって言ったから、生でしたんだ。子供なんで望んでないよ」
母親は、育て方を間違えたと考え始めて。
父親は、殴るのを堪えた。
『ゴト』
フスマで仕切っていた、寝室で物音がしたかと思ったら。
『カン』
寝室で待機していた、喜舎場久美子さんが、思いっきり、フスマを開けて登場した。
まだ、家事のような匂いが残っていて。壁も、黒く焦げているようにも見える。
マットレスは無く。布団の上下が引かれている。
喜舎場さんは、意外と冷静な顔をしている。
喜舎場さんの方には、1週間前に連絡を取り。今治の土産も渡していて。
ラインのスクショも、彼女が全て提供してくれた。
今日は、会社を抜けて来て頂いて。紺色のパンツスーツのままだった。
昼食後に、アパートの下で合流していて。車は、家のガレージ前に止めさせた。
「羽瀬さん、明日の朝に退職届を持って来て下さい。人事課には、私が話を通しておきますので。退職金やボーナス等は、比嘉さんへ慰謝料の足しにしてもらいます。宜しいですね」
「待ってくれ。誤解だ。コイツラが作った罠なんだ。俺は、無実で悪くないんだ。信じて」
信也は、喜舎場さんに擦り寄ろうとしている。
朱美よりも、少し高く。
170cmの身長に、スラッとした体型で。セミロングまで、朱美に似ている。
「今日は、外で泊まってくださいね。アパートの荷物を取りに行くので。邪魔されたくないのです」
喜舎場さんは、数歩下がって。寝室へ逃げた。
そこは、俺が、間に入り。
辺土名弁護士も、手を止めて。仲裁に入ろうとしたが。
父親が、一発殴った。
「今日は、私たちが面倒見ますので。アパートの荷物を、お取り下さい」
母親としては、複雑な心境だった。
こんな美人が、娘として来てくれたなら。良い関係を、続けていけたかも知れない。
孫を、早くだけたかも知れないのに。
母親は、信也の足を思いっきり、つねった。
日ごろ畑作業をしている、母親の攻撃は、地味に痛かった。
「東江さん。本日は、呼んでいただき、有難うございました。ゆっくりと、あの部屋の掃除をさせて頂きます」
朱美は、アパートに呼ばれる事は無く。最近は、デートも無くて。アパートに、性処理しに来るだけ、だった事に気付いた。
本命で、無かった事を知ったが。
目の前の600万円と、追加の600万が約束されているのも知った。
病院で、散々馬鹿にされた事が、くつがえされて。私は、間違ってなかったと、実感した。
喜舎場さんは、下駄箱に隠してあった靴を取り出して。少し高めのパンプスを履いた。
玄関を開けると、金城くん達が居た。
友達2人と花城桃子さんと一緒だった。
そして、中のやり取りは、テレビ電話で中継されていた。
金城くん達が、朝からデートを尾行していて。
信也と花城さんが別れた後で、アパートの方へご足労願った次第だ。
花城さんも、割と身長が高く。セミロングでスラッとしている。
デートの帰りだった事もあり。かなりオシャレに気を使っている感じだった。
玄関の外で、長らく待機をさせられ。予定では、あと三十分続くと聞いていたが。
喜舎場さんが、暴走を始めて。時間が繰り上がって。玄関のドアを開けた。
「少し待ってて。私も、羽瀬さんのアパートへ連れてって。衝動的に、何かを破壊したい気分なの」
「私の邪魔をしないなら、少し待ってて上げる」
「有り難う」
花城さんは、喜舎場さんに感謝を述べて。
「東江さん、羽瀬と寝る前に助けてくださり。有難うございました。私の分まで、羽瀬に地獄を与えて下さい。お願いします」
2人の美人が、築三十年のアパートの廊下を歩いている。
金城くん達が、3人を階段まで見送り。
部屋の中では、俺が白い封筒をテーブルの上に置いて。羽瀬に、トドメを刺そうとしている。
読んでいただき、有り難うございます。
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羽瀬を、追い込んでいきます。