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タネナシとキュウコン  take2  作者: 愛加 あかり
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お金と沙汰

東江は、松山の温泉街に居た。

大浴場で、温泉に浸かることの出来ない体なので。個室に、浴室のある部屋をチョイスしている。




 東江は、愛媛の道後温泉で、疲れを癒やしていた。

 勿論、お部屋に露天風呂があり、豪勢な料理と、お酒を堪能している。


「ぁ゙〜、日本人で良かった」


 湯船の温泉を両手ですくい、そのまま顔で受けた。


「極楽、極楽」

 風呂場に、お酒の持ち込みは禁止されているが。日本人なら、一度はヤッてみたい。桶に、トックリとオチョコ置いて、湯船に浮かべる。


 慣れない事は、しない方が良かった。

 温泉で、顔を洗ったら。波を立ててしまい。桶のトックリが倒れた。


 急いで、桶を掴もうとして。さらに、波を立てる。余裕が無いと、無様だ。


 最後は、立ち上がり。大きな波を立てて、強引に桶を掴み。

 白けたので、風呂場を後にした。


 明日は、今治。お土産は、タオルと16タルトだな。



 比嘉朱美の事件から、1週間が過ぎた。

 これから、羽瀬を追い込んでいく。




 更に、1週間が過ぎ。


 俺は、朱美と共に、那覇空港にいた。

 ワンボックスの車をレンタルして、羽瀬の両親を沖縄に呼んだ。


 出口で、『羽瀬さん家族』と、スケッチブックに書いて。高々と掲げた。


 羽瀬の両親の顔は、知っているし。会話もしている。

 わざと、罪悪感を植え付けている。


 父親は、紺色のスーツに、セカンドバックを脇に抱え。スーツケースを転がし。農家らしく日焼けをしている。


 母親は、父親の少し後ろを歩き。白いブラウスに、ベージュのロングスカート姿で現れて。

 俺を見つけるなり、ツバの広い帽子を取り、会釈をした。


 父親が、目の前まで来て、スケッチブックを、叩き落とした。


「ここまで着たんだ、逃げるわけ無いだろ」


「初めまして、信也の母です。この度は、息子が、馬鹿な事をしてすみません」


 皆が、足早に家路へと急ぐ中で。母親は、朱美に謝罪をした。


「悪いのは、信也さんの方ですから。お母さんが、謝らないで下さい」


 信也の犯行が無ければ、親子になっていたかも知れない。


「そうですよ、お母さんが謝って終わるのでしたら、警察はいりません」


 ココで、ホッコリと和んではならない。信也を、地獄に落とす、絵は描き上がっているのだから。


「チンピラが、何を言っている」


 父親の方は、戦う気満々で助かる。


「お父さん」

「東江さん、ごめんなさいね」


 母親は、両方をなだめて。穏便に済まそうとしている。




「問題ないです。それでは、行きます。お父さん、表情が硬いですよ」


「うるさい、『お父さん』と、お前が呼ぶな。チンピラ」


「もう、お父さん」


『カシャ』


 俺は、那覇空港と書いてある石の前で、比嘉さんを入れた、スリーショットの写真を撮った。


 そのまま、画像を付けて、羽瀬へラインした。


『お昼を食べて。13∶00に、比嘉さんの部屋に来て下さい。俺たちは、これから早めのランチを食べてから向かいます』


「これでいいですか」


「はい。問題ありません。既読もつきました」


「まだ、スマホに、慣れて無くね」


「それでは、食事に行きますよ」


 俺達は、ぎこちない雰囲気の中で、食事をして、比嘉さんのアパートへ向かった。


 13∶10を少し回り、本日の主賓が現れた。


「朱美。こんな事して、タダで済むと思っているのか」


 羽瀬信也は、比嘉朱美の部屋のチャイムも鳴らさずに扉を開けての、第一声がこれだ。


 ピンクのポロシャツに、短パンのスタイルで現れた。


 着慣れない紺色のスーツ姿の父親が、スッと立ち上がり。止めようとする母親の手を振り払い、玄関へと向かった。


「このバカモン。何ヤッているんだ」


 一瞬、信也が怯んだ顔を見せたが。父親は、お構い無しに、信也の頬を右手で殴り。

 信也は、倒れること無く、玄関で耐えた。


 次に、ポロシャツの胸ぐらを掴み。


 アパートのキッチンで押し倒し、信也は夏物の靴のまま、部屋に上がった。

 大きな音が上がり。近所の方々が、何事かと玄関の外が騒がしくなった。


「お父さん、辞めてください」


 母親が、立ち上がり。止めようとしたが。


「奥さんの仰る通りです。殴って事が、収まるのでしたら。大事にする前に、海に沈めていますよ」


 俺は、元ヤクザらしいことを言うと。

 側にいた、辺土名弁護士が驚き。


「ん゙ん゙。東江さん、発言に注意して下さい」


 信也に、馬乗りになっていた父親が、信也の頭を殴り。キレて、立ち上がった。


『ドカ、ドカ』と、アパートの床を踏み。


 東江の正面に座り直し、ダンヒルのセカンドバックをひっくり返した。


 かなりの年季が入った、セカンドバッグに時代を感じて。バブルを思い出させた。


 父親は、ひっくり返したバッグの中身から、銀行の袋を、真ん中に座る辺土名弁護士に渡した。


「600万入っている。これで文句は無いだろ」


 辺土名弁護士は、袋から帯に付いた一万円札の束を数え始めた。

 朱美は、予想外の答えに驚きが隠せなかった。


「羽瀬さん、四国のド田舎の物差しで、測ってんじゃねぇぞ。何の為に、今治の田舎まで足運んだと思っているんだ。子供のお使いじゃあるまいし。600万だぁ~」


 東江は、興信所を使い。羽瀬の実家の登記も調べている。


「東江さん、私は」


 黙っているように、言いつけていた。朱美が口を挟もうとした。


「問題ありません。こいつらは、来年から始まる。道路拡張工事の内容を知らないと思っているんですよ」


 朱美は、口を閉じて。

 羽瀬の両親は、お互いに顔を合わせる。

 辺土名弁護士は、カバンから書類を出した。


「まだ、金額は記入されてませんが。借用書の準備はしてあります」


 わざわざ、テーブルの上で反転させて。羽瀬の両親に向けて差し出した。


「いくらなら宜しいのですか」


 誰もが納得していないし、戸惑っている中。控えていた母親が口火を切った。


「大丈夫ですよ。家まで取ったりしませんから、安心して下さい。取り敢えず、倍の1200万で比嘉さんは、和解すると言っています」


 俺は、上着を脱ぎ。背中の閻魔大王を晒した。

 色は、薄くなって入るが。無駄な肉のついていない体だ。


「また、黒塗りのレンタカーで、田舎の家を一軒一軒訪れて。羽瀬さんの家を探すことになりますよね」


「お金なら払います。ですから、二度と田舎に来ないで下さい。穏便な暮らしをさせて下さい」


 腹を据えた母親が、煮え湯を飲み込んだ。


「馬鹿なことを言うな。そんな事がまかり通るわけ無いだろ。俺は何も悪くない。こんな奴らに、お金なんか払う必要はない」


 加害者が、被害者面をした。

読んでいただき、有難うございます。

高評価、星とブックマークを、宜しくお願いします。

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