下着と玩具
東江たちは、4階の廊下で警察が消えるのを待った。
朱美の病室が空き、辺土名弁護士が入り。次に俺が入った。
「すみません、比嘉朱美さんの病室を、教えてもらえますか」
今度は、最初から名刺を出し。トラブル無く話を聞けた。
「比嘉朱美さんの病室は、どちらですか」
「弁護士の先生ですか。ヒステリックなるのは、何となく分かりますけど。声のボリームを下げるように伝えてもらえますか」
「比嘉さんは、大声を出しているのですか」
「警察の方々が、何人も来て。同じ質問ばかりするんで、大声を出されるんですよ」
「すみません、比嘉さんは、何に対して大声を出しているのですか」
「それは、自殺未遂についてです。妊娠中に自暴自棄になり、バスタブでリストカット。その後、大量に睡眠薬を摂取。大変だったと聞いてますよ。病院到着早々に、睡眠薬を全部吐かせた後で、胃を洗浄したって。自業自得なのに。男が、罠にかけたって。男の性にしているのですよ」
「それは大変でしたね」
「何を言っているんですか、これからですよ。意識を取り戻してからは、警察の方々が、入れ替わり。立ち替わりで、似たような質問ばかりをして。本人は、『自殺して無い』と、言い出すし。男が悪いと、言って聞かないし。『赤ちゃんが、天音を返して、お家に帰る』これの繰り返し。4時間は、警察の方が質問しては、口論して。うるさくて、周りの病室から、苦情が出ているのよ。私が、訴えるから、弁護してよ」
「それは、少し待った方がいい……」
「お世話になりました」
後ろから、女性の警察官が声をかけた。
「お疲れ様でした」
ナースは、表情を変えて。頭を下げた。
女性の警察官と私服の警察官が、エレベーターを待っている。
「すみません。弁護士助手の宮國ですが。まだ、時間かかりますか」
「殆ど、終わってます。10分くらいじゃないですか」
「そうですか、有難うございます」
俺は、辺土名弁護士に耳打ちした。
「面会まで、少し離れる。お前は、病室の前で待機してろ」
俺は、探偵のように。テレビのホールから雑誌を取り。少し離れた、ベンチに座った。
「有難うございます。病室はこっちですね」
辺土名弁護士は、廊下を進み。そのまま病室の前のベンチに座った。
誰かが、座っていたのだろうか。生暖かい。
少し離れていたが、朱美の口論が聞こえた。
内容までは、聞き取れないが。わー、キャー、ぐらいは分かった。
聞き耳を、立てていたからか。10分は、直ぐに訪れた。
男二人と、女性が一人。
丁寧に、病室を出て。辺土名弁護士が、立ち上がった。
「僕らが、最後の筈だが。どこの所轄かな」
「初めまして、弁護士をしております。辺土名と申します。宜しくお願いします」
警察官に、名刺を渡しているよ。
東江は、頭を抱えた。
「お兄さん、面白いね。無駄足だけど。頑張って」
警察官に、励まされている。
『コンコン』
「どうぞ」
病室の中から、朱美の声がした。
「失礼します」
辺土名弁護士が、病室へ入って。直ぐに、後を追いかけ。
扉が、閉じる前に。ギリギリで、病室に潜り込んだ。
「すみません。凄く怪しいものです。そして、私からの、最初のプレゼントです」
俺は、朱美のタンスから盗み出した物を、リュックサック事渡した。
「これ、私のリュックですよね」
朱美は、恐る恐る、中を開けて。確認すると、直ぐに、閉じた。
朱美の頭は、すごい速さで、色々なことを考えて。
「あれは、違うの。私のじゃないの。彼が、来る度に、置いてって、増えたの。そう、置いてったの」
「俺は、何も見てないし。記憶力も悪い。だから、比嘉さんの家から盗んだ事も、黙ってて欲しい」
あの引き出しには、大量の玩具も入っていて。大量に下着を盗んでも、気付かれ無かった。
「俺の名は、東江昴。第一発見者で、容疑者です。そこで、幾つか確認したい事があります。最初に、あれは、自殺ですか」
「自殺じゃ無いです。何で、私が、自殺をしないといけないのよ」
「自殺の典型でしたから。睡眠薬を飲んで、手首を切る。だけど、不可解な点がありました。氷です。バスタブに浮かんでいた氷、3つ」
2人は、不思議そうにこちらを見た。
「これは、昭和初期まで使われていた、胎児を死産させる方法で。まず、調べないと出てこない」
俺は、少し間を持たせ。
「それに、天音ちゃんが、俺に言ったんだよ。『もう少しで、お姉ちゃんになる』って。その言葉からは、自殺は、考えられなかった」
「それを、警察の方に、伝えてもらえませんか。私は、自殺して無いと。あの男が、犯人です」
「俺も、顔までは見ていないが。天音ちゃんが、階段から降りてきた男に対して、怯えていたのを見ている。だが、証言しても、立証は難しい」
俺は、辺土名弁護士に向かって。
「はい。辺土名弁護士先生、ここで問題です。比嘉さんが、彼を訴えました。辺土名弁護士は、彼からいくら取れますか」
「心神の喪失、部屋のクリーニング代、胎児の慰謝料、入院費、その他含めても、200万から250万だと思います」
「警察の方と、揉めてましたから。元気です」
東江は、いらぬ情報を足した。
「女性の警察の方も、言ってました。訴えても、胎児だから。賠償金は薄いと。それに、刑も望めないらしいです。初犯だと、執行猶予出来る、出てくる可能性が高いと。言ってました」
「私は、泣き寝入りするしか、ないのですか」
「そこでだ。あの男を、地獄に落とす方法が有るとしたらどうする」
「何ですか、どうするつもりなんですか。東江さん」
「お願いします。私は、何だってします。あの男に、地獄を見せて下さい」
「駄目ですよ。東江さん。塀の中から、出て来たばかりじゃないですか。辞めてください」
辺土名弁護士は、朱美に対したも。
「それに、何でもするなんて。思っても、口にしてはいけません。この人、元反社のヤクザなんですよ。訂正しないと、危ないですよ」
俺は、スウェットの上着を脱いで。背中の閻魔大王を晒した。
「大丈夫、問題無い。素人を枠にはめるくらい。簡単です。大船に乗ったつもりで居てください」
「私は、身売りをされるのですか」
「昭和なヤクザでは無いです。身売り何て。人聞きの悪い。臓器の売買もありません。比嘉さんは、あの男の名前をいうだけで良いのです。これは、踏み絵です。後は、全てコッチがやります」
「羽瀬です。羽瀬信也です。C建設で営業をしてます」
「羽瀬信也ね。これから忙しくなるぞ」
俺は、スウェットの上着を着て。
「仕事が出来たから、ここで解散。そうだコレを渡して置きます」
俺は、封筒に入った、30万を朱美に渡した。
「入院すると、物要りだがら」
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