オレンジティーの涙-プロローグ
はじめまして。
作品をご覧いただきありがとうございます。
この物語は、過去の後悔を抱えた青年が、もう一度大切な人と向き合うために時を越えて奮闘する物語です。
切なく、温かく、静かに流れるような恋を描いていけたらと思います。
「過去に戻ってやり直したい。」
誰もが一度は、そんな風に思いを巡らせたことがあるだろう。
あのとき、もし違う選択をしていれば──
ほんの些細な言葉や、一瞬の勇気が、何かを変えていたかもしれないのに。
けれど、現実は非情だ。
どれだけ願っても、過去には戻れない。
何度も繰り返される後悔と、取り返しのつかない過去。
その重さに、何度も心が潰れそうになった。
希望なんて、とうに忘れた。
世界はいつから、こんなにも冷たく、残酷に見えるようになったのだろう。
こんな人生で本当に良かったのか──
その問いだけが、いつまでも胸に残って離れない。
……あれから十年。
大学を卒業して、夢だった仕事にも就けず、俺は警備員として日々を流されるように生きている。
夜勤明けの朝、人気のない公園のベンチに腰を下ろし、空を見上げた。
冬の朝。
冷え込んだ風が、枯れ果てた木々の間をすり抜け、頬を容赦なく刺す。
あまりの寒さに、マフラーに顔をうずめると、まぶたが自然と重くなった。
遠くで鳥が鳴いていた。
公園の外では車が行き交い、どこかで信号の音が鳴る。
人々が一日の始まりに合わせて、忙しなく動き出す。
通りの向こうには、犬を連れたおじいちゃんがゆっくり歩いているのが見えた。
だけど俺には、すべてが遠く、色のない世界に感じられた。
モノクロにくすんだ風景の中、外の騒がしささえ、まるで別の国の音のように聞こえる。
ただ、疲れ切った体をベンチに預け、目を閉じる。
すると、浮かんでくるのは──
やっぱり、彼女の笑顔だった。
夢の中の美咲は、いつもあの日のままだ。
大学の実習帰りに、ふたりで寄った小さなカフェ。
彼女が好きだったオレンジティーを差し出しながら、
「美味しいよ。優斗くんも飲んでみて」
と、恥ずかしそうに笑う。
その笑顔が、何度も俺を救ってくれたはずだった。
でも今では、過去の亡霊みたいに、夢の中にだけ現れては──
「……ちゃんと、言って」
と、何かを訴えるように囁いて消えていく。
それが夢なのか、記憶の残像なのかも、もう分からない。
でも、何度も繰り返されるその夢は、ただの偶然とは思えなかった。
実際、美咲が夢で囁いた言葉が、数日後にふとした会話に重なったことさえある。
まるで未来が、夢となって現れているかのように。
朝起きたとき、枕が濡れていることにも、もう慣れてしまった。
誰にも言えない後悔を、ただ繰り返すだけの日々。
あの夢は、何を伝えようとしているのか。
彼女は今、どこで何を思っているのか──
過去は変えられない。
ずっと、そう思っていた。
けれど、もしも──
その過去に、手を伸ばせるとしたら。
あの別れを、やり直せるとしたら。
僕は、もう一度だけ、
彼女に「好きだ」と言いたい。
ここまでお読みいただき、本当にありがとうございました。
「オレンジティーの涙」は、もし過去に戻れたなら――という、
誰もが一度は抱いたことのある想いを軸にした物語です。
取り返せない後悔と、それでも前に進みたいという願い。
そんな心の揺れを、少しでも丁寧に綴っていけたらと思っています。
このプロローグでは、彼の“後悔の今”を描きました。
次回から、彼の時間が動き出します。
はじめての投稿で至らぬ点も多いかと思いますが、
もし少しでも心に残るものがあったなら、これ以上ない励みになります。
また物語の続きをお届けできるよう、誠実に紡いでいきます。
どうか、またお立ち寄りいただければ嬉しいです。