言の葉(短編小説)「演者」
「カット!オールアップです!お疲れ様です」
拍手とともに、花束を渡された。
私は……普通の主婦だ。
なぜ、カメラマンや、機材がこんなにあるのか?
「はるなさん、大丈夫ですか?」
「はい。えっ?」
水を持ってきてくれた人物を見ると、それは、数年前に亡くなった姑だった
「お義母さん?」
「まだ、役が抜けてませんね。もう、私はあなたの姑では無いですよ」
頭の混乱が私を襲った。
「はるなさん。お疲れ様でした。私、監督の瀬名と申します」
理解はできずも、頭の中で生理をしようとする自分がいた。
「50年という、長い時間、あなたはこの世界から、選ばれた役の世界へと行かれてました。素晴らしい演技でした。」
「演技?」
「はい。あなたがあゆまれた50年は台本通り。NGもなく、素晴らしかった!配役変更はありましたが、ご苦労さまでした。」
「何を言ってるのですか?私は、演じてなんて!」
「言いきれますか?」
瀬名の言葉に反論が出来なかった
「人は生まれ死ぬまで、与えられた名を演じるんです。命終わる日まで。数々の場面で貴方は、あなたの心と反対の言葉を返したり、誰かを助けるために偽りのあなたになりませんか?それと同じ。貴方は貴方という演者を歩み、今終わった。あなたは自由なのです。」
私が自由?
50年間。普通に暮らして普通の人と結婚。普通の主婦で何も無く、最後はガン。
「これは、貴方へのギャラです」
見たことの無い金額が渡された。
「さあ!今からあなたは自由!オフを楽しんでください」
私は、その言葉に押され自由の扉を開いた。眩しいほどの世界。わたしは走った。
ドアの向こうでは、瀬名が呟く。
次の役も頼みますよ