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喪女なのに狼さんたちに溺愛されています  作者: 和泉


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099.粉々

 この世界に来た時、そういえばなんと言っているのかわからなかった。


 わかったのは一緒に召喚されたキョウカさんとメイちゃんの言葉だけ。

 一緒に話していたキラキラ王子の言葉はわからなかった事を今頃ヒナは思い出した。


 キョウカさんとメイちゃんは王子と会話をしていたので、聞き取れないのはたぶん自分だけ。


 ヒナは結界を潜りヴォルフ国側に戻った。


「行ってはダメだ」

「あ、アレクの言葉がわかる」

 ヒナは再び結界を潜りチェロヴェ側に。


「~~~~! ~~! ~~!」

 やっぱりアレクサンドロの言葉はわからない。


 この結界のせい……?

 ヒナはなんとなく結界を見上げた。


 結界が弱まっているから新しく呼ばれた聖女。

 見た感じ壊れそうとかわからない。


「~~! ~~~~~~?」

「~~~~!」


 あー、誰の言葉もわからない。

 イワライとマートンは騎士に囲まれ、ドヤ顔のチェロヴェ王子。

 心配そうなアレクサンドロ。


 ロウエル公爵の銀狼姿、大きくてカッコいいなぁ。


 狼族以外も言葉はわからない。

 誰の言葉も。


「~~~~~~」

「~~~~!」

「~~、~~~~」


 騎士の1人が何かを言いながらイワライの顔に剣を突きつける。

 イワライも何かを言い返しているように見えた。


「もー! なんでわからないの?? なんでもいいから、さっさとマートンとイワライをこっちに寄越しなさいよ、卑怯者!」

 ヒナは右足を思いっきりダンッと踏み鳴らす。

 ヒナの甘い魔力が一気に放出し、半径1km程の範囲を駆け抜けた。


 右足はちょうど結界の膜の上。

 嫌なパキッと言う音が響く。


「……パキ?」

 えっ? と足元を見るヒナ。


 ミシミシッとヒビが広がるような音がする。


 慌ててヒナの腕を引き寄せ、抱きしめるアレクサンドロ。

 アレクサンドロと結界の間にはユリウスが立つ。

 各国の王子達もそれぞれ護衛に守られた。


 バリバリバリバリと大きな音を立てキラキラ光る破片が空から降り注ぐ。


 ただし実体はない。


「不思議だな」

 コヴァック公爵が手のひらを広げたが、何も乗ることはなかった。


 イーグルのフィリップと緑の鳥の幼馴染が光の中を飛ぶ。

 キラキラ光る綺麗な空は何か舞っていそうなのに、何にも触れずに普通に飛ぶことができた。


「は?」

「……まさか」

 怯えるチェロヴェの人族達。


「まさか?」

 ニヤッと笑いながらランディが結界の中だった場所へ足を踏み入れる。


「あぁ、結界は壊れてしまったね」

 グレーの眼を細めて微笑むと、イワライとマートンを囲んでいる騎士達を見た。


 狼のロウエル公爵が大きな声でグァウと吠える。


「うわぁぁ、助けてくれ!」

「逃げろ!」

 一目散に逃げていく騎士。


「おい、お前たち! 王子を置いて逃げるとは!」

 チェロヴェ国第1王子クロードは後退りし、宰相も急いで逃げ出した。


 残されるマートンとイワライ。


「友好国にはなりたくないな」

 レパード国第1王子レイナードが逃げたチェロヴェの人族達を見て溜息をつく。


「卑怯者とは友人にもなりたくない」

 ミドヴェ国第3王子ナットが笑う。


「大丈夫か?」

「う、うん、あー、えっと、壊しちゃった?」

 気まずそうにヒナが苦笑すると、アレクサンドロは「粉々」と笑った。


 イワライに連れられ歩いてくるマートン。

 ヒナの前に来ると深々と頭を下げた。


 マートン・ニールは60歳くらいだろうか?

 おじさんというより白髪のお爺さんだった。


 おかしいな。

 50歳くらいのはずの宰相、コヴァック公爵、ロウエル公爵はイケオジなのに、60歳くらいのマートンは老けている。

 狼族と人族の違いだろうか?


「本当にすまなかった」

 国の命令とはいえ、見知らぬ世界へ呼び、人生を狂わせた。

 雨の中追い出されるのを止めることもできなかったとマートンは涙を浮かべながら謝罪した。


「グーですからね。ちゃんとお腹に力を入れてくださいよ」

 なぜかマートンの隣のイワライを見ながら言うヒナ。


「あぁ。気がすむまで」

 マートンは目を閉じ、下を向いた。


 ふぅと深呼吸したヒナはマートンとイワライの前に立った。


「……本当に殴るんだ」

「マジか」

 レパード国第1王子レイナードとミドヴェ国第3王子ナットは興味津々だ。


 ヒナは左足を強く踏み込み、腰を回転させながら右手の拳を突き出した。


 ロウエル公爵ほど強いパンチはできない。

 でも最初よりは全然強いパンチを撃てるようになった。


「ぐっ、」

 お腹を押さえてその場に崩れるイワライ。


「……な、んで、俺」

 しかも思ったより力が強いし。

 イワライはお腹を抱えてうずくまった。


「連帯責任」

 拳を上げ、ニヤッと笑うヒナ。


 アレクサンドロとユリウス、ランディは呆然とした。

 イーグルのフィリップは上を飛び、レイナードとナットは大きな声で笑う。


「ランディ、そのケースお金入ってた?」

「あぁ。お金はちゃんと入っていたよ」

「1個ここに頂戴」

 ケースは2個。

 国家予算3ヶ月分を要求したので1ケースに1.5ヶ月分入っているはずだ。


 ランディに持ってきてもらうと、ヒナはイワライに「はい、慰謝料」とケースを倒した。


「は?」

 お腹を押さえたまま不思議そうに見るイワライ。


「爵位もらえなかったから」

 今後の生活の不安と精神的苦痛の慰謝料だとヒナが言うと、周りは呆気に取られた。


「いやいやいや、君、何言ってるの? 助けてもらったんだよ、こっちは」


 関係性のわからないほとんどの人達がどういうことか知りたがる。

 何? どういう事? とヒソヒソ話す声が聞こえた。


「君のお金でしょ」

 どちらかといえば助けてもらったこっちがお礼をしなくてはいけないくらいだ。


「私は大丈夫。お嬢様だもん」

「は?」

 文官と武官でほぼ毎日働いているくせにお嬢様とはどういうことなのか。

 イワライはお腹を押さえながら苦笑した。


「ね、お兄様」

 ヒナが兄と呼ぶ視線の先はユリウスとアレクサンドロ。


「喧嘩が強い妹を持った覚えはありませんよ、ヒナ」

 ユリウスが苦笑するとイワライは目を見開いた。


 中央公園で会ったユリウスの妹はヒナという名前だった。


 アレクサンドロとデートし、銀髪の武官と会い、プチィツァの店へ行っていた。

 ユリウスの隣にはアレクサンドロ。

 お金のケースを運んだのは銀髪の武官。

 見上げればイーグル。


「ヒナ・イーストウッドです」

 どうぞよろしくと、ヒナは眼鏡を外して前髪を手で上げた。

 目を見開くイワライ。


 ようやく同一人物だと知ったイワライはガックリと項垂(うなだ)れた。

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