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喪女なのに狼さんたちに溺愛されています  作者: 和泉


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096.推し活

 今日は日曜日。

 朝からクッキーを作り、王子達に渡してほしいとユリウスに頼んだ。

 アレクサンドロは王子同士の昼食会に行ってしまったので、今日の昼食は一人でスープを飲んだ。


 吊り橋効果は継続中。

 朝からなんとなくアレクサンドロと話すのが恥ずかしい。

 急に意識しだして、ぎこちなくなっていると思う。


 アレクサンドロとは森で出会い、ヴォルク国に連れてきてくれた。

 汚い姿だったのにベッドも貸してくれて、食べる物も住むところも用意してくれた。


 今思えば、毎日狼の姿で寝てくれているのは、私がこの世界で不安にならないようになのかもしれない。

 暖かいアレクサンドロの隣にいるといつもすぐ眠たくなってしまう。

 一緒に眠らない日は、布団が冷たくて、寂しくて、なんだかあれこれ考えてなかなか眠れない。


 求婚してくれたのに国王の前で断って傷つけたし、中央公園だって倒れてしまった。

 先日の森でも婚約しようって言ってくれたのに結局は婚約者候補で都合よく利用するだけ。

 

 調印を提案して他国から守ってくれたし、変態からも身を挺して庇ってくれた。

 そういえば変態がドアノブを触った時も側に居てくれた。


 こんなにいろいろしてもらっているのに、ランディとディーンとフィリップとふらふら遊びにいってしまう自分をアレクサンドロはどう思っていただろうか?


 アレクサンドロが行けない街に遊びに行き、武官や文官で働き、今日はこれを食べたとか街にこんな店があったとか、オオカミが可愛いとか。

 無神経だったのではないだろうか?


 普段は色気のない黒いズボンに、髪も後ろで一纏め。

 前髪も長くて眼鏡もして、目も合わせない。


 喪女すぎる!


 どうしよう。

 急に好きかもしれないなんて気づくなんて。

 今までの残念すぎる行動をすべて消してしまいたい。


 急に前髪を留めたら変だろうか?

 眼鏡をやめたら驚くだろうか?

 ワンピースの日を増やしたら変だろうか?


 うわ。どうしよう。

 これでは完全に恋する乙女だ。

 似合わない!


 優しくされて、さらに吊り橋で、ただの勘違いかもしれない。

 イケメンが喪女を好きになるはずがないし、何よりアレクサンドロは王太子。

 こんな一般庶民がどうにかなるレベルの人ではない。


 でも、もし、もしも……。

 いや、そんな期待も喪女はしてはダメだ。


 推しだ! 推し!

 アレク推しで行こう。


 喪女はそれが限界。


 そう思いながらもワンピースを手に取ってしまう自分にヒナは苦笑する。


 もう少し動きやすいもの、ロングのキュロットパンツでスカートっぽく見えるものを作ろう。

 ミシンを買った時にユリウスが買ってくれた布があるし、ボタンもある。

 部屋着を型紙代わりにすればいけるだろうか……?


 今日のやる事が決まったヒナは布を手に取り作業を始めた。


「ヒナ? そろそろ夕食の時間ですが……」

「えっ? 6時?」

 ユリウスに声をかけられたヒナは時計を見て驚いた。

 ずっとミシンをしていたので夕飯を作っていない。


「あ、えっと、まだ夕飯ができていないので、アレクとは別で……」

「何を作っているのですか?」

 部屋の中は広げた布、床に置かれたままのハサミ、紐、ボタン、いろいろ置いてある。


「自分の服……です」

 ヒナはもうすぐ完成しそうなキュロットパンツをユリウスに見せた。


「服が足りないなら買いますよ?」

 遠慮しないでくださいねというユリウスにヒナは首を横に振った。


 動きやすくてちょっと可愛く見える服がほしいなんて言えるわけがない。

 街にユリウスの妻エリスと行ったとき、キュロットパンツは売っていなかった。

 この世界ではズボンは男性が身に着けるもの。

 女性用のズボンは見かけなかった。


「前の世界でよく売っている服なので」

 困ったような顔でヒナが微笑むと、ユリウスもそうですかと困った顔をした。


「一緒に食べないとアレク様が寂しがります。何か簡単に作れるものはないですか?」

「あ、10分くらい待ってもらえれば」

 お昼の残りのスープと、パンならある気がする。


「ではお待ちしていますね」

「すぐ行きます」

 急いで床のハサミだけ片付け、スープを温める。

 卵焼きを焼いて、ハムとレタスと一緒にパンに挟んだら完成だ。


「お待たせアレク」

 夕食を一緒に摂りながらいつものように雑談する。


 アレクサンドロは王子達がヒナのクッキーを喜んで持って帰ったことや、ヒナに会いたがっていたと教えてくれた。

 不満に思うことや悩みはなんとなく似ていて、結構仲良くなったのだとアレクサンドロは笑った。


 ヒナは今日は昼からずっとミシンで自分の服を作っていたと報告した。

 ユリウスが呼びに来るまで夕飯の時間だと気づかなかったと。


「急いだ?」

「う、うん、急いだ」

 なぜそんなことを聞かれるのかわからないヒナが首を傾げると、アレクサンドロはニヤッと笑った。


 そういえばアレクサンドロが見やすい気がする。

 いや、見やすいどころじゃない。

 ヒナは慌てて顔に手をあてた。


 ミシンをしていたので邪魔な眼鏡をしていない。

 もともと度の入っていない伊達眼鏡だ。

 前髪も邪魔だったので、孤児院の子が作った貝のピンで右側半分を止めている。


 つまり右側はまる見えだ。


「!」

 ヒナは慌ててピンを外し、前髪を下ろした。

 その様子をアレクサンドロが笑う。


「残念。教えなければよかった」

 ヒナの前髪に触れながら顔を覗き込むアレクサンドロと、真っ赤になるヒナ。


 意外にいい雰囲気なのではないだろうか。


 イーストウッド使用人カレブがやったことは許せないが、2人の距離を近づけた事だけは褒めてもいいかもしれない。

 ユリウスは紅茶を淹れると静かに退室していった。

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