092.請求
国王同士、王子同士の歓談は意外に楽しいものだった。
お互い国王ならではの悩みは似ており、共感できる相手ができた事が喜ばしい。
もっと早く仲良くなるキッカケがあれば良かったのに。
なぜいがみ合っていたのだろう。
「ヒナのクッキーのお陰で生まれつきよく見えなかった目が見えるようになったんだ」
鳥族のフィリップが言うと、豹族のレイナードは国王の腰が治ったんだと報告する。
熊族のナットは宰相の妻の病気が治ったと言い、本当にスゴいとヒナを讃えた。
「フィルのお陰で効果に気づいて……」
全然知らずに食べていたとヒナが言うと、そうなの? と王子達が笑った。
あ。
チェロヴェの王子だ。
キョウカさんを連れて行った方の王子。
ヒナはアレクサンドロの手にそっと触れた。
ヒナの手は少し震えている。
アレクサンドロはヒナの腰をグイッと引き寄せた。
ユリウスに合図を送りロウエル公爵とコヴァック公爵を呼ぶ。
「大丈夫。側にいる」
アレクサンドロが小さな声で囁くとヒナは頷いた。
「歓談中すまない、各国の王子とお見受けする」
青い服を着たチェロヴェの王子。
相変わらずキラキラの王子服だ。
あの日は白と金の王子服だったけれど。
「先ほどいた聖女がどちらに行ったかご存じないだろうか?」
真面目な顔で尋ねるチェロヴェ国第1王子クロード。
フィリップは笑いを堪えながらヒナを見た。
レイナードもナットもヒナを見る。
その視線の先の女性。
チェロヴェ国第1王子クロードは驚いて目を見開いた。
黒髪の小柄な人物。
前髪は横に流されているが長そうだ。
眼鏡はない。
「まさか」
「キョウカさんはお元気ですか?」
ニッコリ笑うヒナにクロードは固まった。
詐欺レベルだろう。
最初からこの姿をしていれば追い出したりしなかったのに。
「キョウカはレパード国へ行ってしまった」
「追い出したんですか?」
私みたいにとヒナはニヤッと笑う。
「い、いや、本人の希望で」
慌てるクロードに、「追い出した?」とフィリップが食らいついた。
「雨の中、説明もなく追い出されて」
本当に酷いとヒナが言うと、王子達はそれは酷いと同意した。
「お待たせしました」
手に2枚の書類を持ち、優しい笑顔で歩いてくるコヴァック公爵。
アレクサンドロは書類を受け取ると1枚目をヒナに手渡した。
「チェロヴェ国の王子様。私、貴方達に慰謝料を請求します」
はい、どうぞと書類を手渡すと、チェロヴェ国第1王子クロードは目を見開いた。
慰謝料の金額はチェロヴェ国の国家予算5年分相当。
生命の危機・精神的苦痛・誘拐罪などの理由が書かれ、ヴォルク国王のサインとヴォルク国法務大臣のサインがある正式な書類。
「……は?」
思いもよらない書類にクロードは固まった。
「お支払期限までによろしくお願いしますね」
ニッコリ微笑むヒナ。
熊族のナットは横から覗き込みながら、「誘拐、へぇ、これはヒドイ」と呟いた。
「は、払えるわけがないだろう、こんな金額!」
馬鹿げていると書類を突き返すクロード。
「じゃぁ、こちらでも良いですよ」
ヒナはアレクサンドロから2枚目の書類を受け取り、クロードへ差し出した。
慰謝料請求の理由は同じ。
だが金額が全然違う。
『マートン・ニールを差し出せば、慰謝料は国家予算3ヶ月分で可』
「マートン・ニール?」
誰だそれは。と首を傾げるクロード。
あぁ、この人は聖女召喚に成功した人の名前すら覚えていないんだ。
ヒナがギュッと手を握ると、アレクサンドロの手がヒナの手を優しく包んだ。
「聖女召喚の中心人物だとプチィツァ国が調べてくれた。こいつを差し出すのなら慰謝料は減額しよう」
「こいつを手に入れてどうする気だ」
アレクサンドロの言葉に、クロードは眉間にシワを寄せた。
「殴ります」
ヒナは手でグーを作り身体の前に出す。
「この人のせいで私は死にそうになったし、家族に会えないし、食べる物もなく大変だったんです。恨みを晴らしたいじゃないですか。だから、死なせたり、ケガさせたり、記憶を無くさせたりしたら怒りますよ」
私がやるのだとヒナはニヤリと笑った。
「……聖女のくせに仕返しするのか」
「キレイなキョウカさん、優しいメイちゃん。そして治癒能力を持ってしまった私。聖女が3人に分かれてしまって召喚は失敗でしたね」
1人だったら理想の聖女だったのに。とヒナが笑う。
ヒナはクロードから書類を奪うと、2枚合わせてコヴァック公爵へ返した。
「正式に国経由で送らせていただきますので、ご検討よろしくお願いします」
ヒナが微笑むと、王子達は面白いことになったと笑った。
「うちだったら召喚者を渡すかな、国家予算5年分なんて大臣が反対するに決まっている」
「でも国の命令で召喚させておいて罪をそいつにきせるのもな」
「いやでも、5年分だぞ? 無理だろう。そいつ1人で済むなら家族の生活は保証して……」
フィリップ、レイナード、ナットが勝手なことを話しだす。
クロードは手をギュッと握ると挨拶もなしに去っていった。
「……大丈夫かな?」
今更ながら手が震えてくる。
ヒナがアレクサンドロを見上げると、アレクサンドロは大丈夫だと頷いてくれた。
「正式な書状としてすぐにチェロヴェ国宰相へ渡しましょう」
コヴァック公爵の言葉に、ヒナはお願いしますと答えた。
少し離れたところで、クロードが誰かに何かを訴えている。
青い服を着ているのでチェロヴェ国の誰かだろう。
すぐに国王っぽい服のおじさんも合流した様子が見える。
「で、結局その、マートン? をどうするの?」
豹族レイナードがヒナに尋ねる。
「え? グーで殴りますよ?」
おかしいですか? と首を傾げるヒナに王子達は笑った。




