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喪女なのに狼さんたちに溺愛されています  作者: 和泉


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090.夜会

 豪華な黒いドレスは不思議な紐がつき、少し着るのが難しい。


 後ろ髪はダサく1つで縛り、前髪は目が見えないくらい長く、黒縁眼鏡をかけたアンバランスな姿。


 喪女が無理してピアノの発表会に出た感じだろうか?

 いや、もっと豪華だから、お見合い写真を撮った感じ?

 喪女は結婚できないから結婚式という設定はあり得ない。


 うん。

 ドレスに申し訳ない。


「……本当にそのお姿で参加されるのですか?」

 しゅんとする侍女達。


「宰相様のご命令でも、やっぱりいつもの方が」

 せめて前髪だけでも横に。と言いながらいい匂いの香水をシュッとかけてくれる侍女。


 ヒナはありがとうと微笑んだ。


「ごめんねアレク。こんなの連れて歩きたくないよね」

 本当にごめんねと謝るヒナに「面白い姿だ」とアレクサンドロは笑った。


 今日のアレクサンドロは白と黒の変わった服装のキラキラ王子。


「今日は黒なんだね」

 白の正装しか見ていなかったヒナは新鮮! と笑った。


「国ごとに色がありまして。ヴォルク国は黒なのです」

 今日はいろいろな国が集まるので国王と王子は色分けしているのだとユリウスはヒナに教えた。


 狼族ヴォルク国は黒。

 鳥族プチィツァ国は緑。

 人族チェロヴェ国は青。

 熊族ミドヴェ国は赤。

 豹族レパード国は黄。


「だから私のドレスも黒?」

「そうです。ヒナはヴォルクの物だとさりげなくアピールしています」


 ピンクとかじゃなくて良かった!

 ピンクだったら絶対悲惨な姿だった。

 ヒナはホッと胸を撫で下ろした。


「ヒナ、俺が必要な時は目を合わせるか、手を握ってくれ」

 ヒナから頼まれないと動けない『婚約者候補』。

 たくさん頼ってほしいとアレクサンドロはヒナに言った。


「私ね、この国の人にもオオカミにも怪我をしてほしくないの。あとはそれとは別でチェロヴェからこの国に1人呼びたい」

「マートン・ニール?」

「うん。私をこの世界に呼んだ人」

 ヒナの言葉にアレクサンドロとユリウスは目を見開いた。


「そいつを連れてきて、」

 まさか元の世界に帰るつもりなのか?

 アレクサンドロが思わずヒナの腕を掴む。


「帰る方法はないんだって。フィルが調べてくれたよ」

 泣きそうな顔で微笑むヒナを見たアレクサンドロは慌ててヒナの腕を離した。


「……だからその人を連れてきて、グーで殴るの」

 手でグーを作るヒナにアレクサンドロとユリウスは呆然とする。


「……は?」

「ちゃんとロウエル公爵に殴り方を教わったし!」

 親指で人差し指と薬指をしっかり押さえるんだってと説明するヒナ。

 ユリウスは手を額に置き、溜息をついた。


「慰謝料はビビらせるためで本命はこの人をもらうこと!」

 協力してねと笑うヒナに、アレクサンドロも笑った。


 グーで殴りたいという令嬢はヒナくらいだろう。

 本当に面白い。

 アレクサンドロはヒナの手を握ると手の甲に口づけを落とす。


「好きだよ、ヒナ」

「な、な、なんで今?」

「婚約者候補だし」

 ニヤッと笑うアレクサンドロ。


「ヒナの願いが叶うように協力しよう」

 優しく微笑むグレーの眼。

 ヒナはありがとうと微笑んだ。


 夜会の会場へと続く扉の前でヒナは深呼吸した。


「大丈夫か?」

 心配そうな眼で覗き込むアレクサンドロ。


「心臓が口から出そう」

 ヒナの変な例えに、なんだそれとアレクサンドロは笑った。


「ヒナ、会場には宰相、コヴァック公爵、ロウエル公爵はもちろん、私もエリスもいます。隣にはアレク様が。何かあれば、些細な事でもすぐ言ってください」

「はい、お兄様」


 アレクサンドロの手の上に震える手を重ねると、アレクサンドロはヒナの手をギュッと握ってくれた。


 大丈夫と言ってくれているのだろう。


 胸を張れ。

 俯くな。

 相手の僅かな表情を見逃すな。

 感情は笑顔で隠せ。


 社長をしていた父によく怒られた。

 こんな時に思い出すなんて。


 ここから先は『聖女』。

 ヒナはゆっくり顔を上げた。


 アレクサンドロのエスコートで会場に入る。


 眩しい光、豪華な会場。

 綺麗なドレスなのに残念な喪女。


 黒髪を後ろで縛った前髪が長く眼鏡をかけた小柄な人物。

 彼女が聖女で間違いない。

 各国の国王、宰相、王子は目を見開いた。


「何あの格好」

 貴族達は王太子がエスコートするには相応しくない喪女をくすくすと笑う。


「そうきたか」

 眼鏡のヒナを初めて見るフィリップも、鳥族プチィツァ国王も、あれならウワサ通りだと笑った。


 さっきまで震えていたくせに。

 堂々と歩くヒナをエスコートし、アレクサンドロは国王陛下の前で礼をする。


 宰相はヒナに思いっきりやってこいとばかりに頷いた。


 アレクサンドロを見上げるヒナ。

『俺が必要な時は目を合わせるか、手を握る』

 ヒナと決めた合図だ。

 アレクサンドロはグレーの眼を細めて微笑んだ。


 アレクサンドロが2段先に階段を降り、振り返るとヒナと同じくらいの目線になった。

 見つめ合いながら手を取り合いゆっくり階段を降りる2人。


 あんな喪女相手に?

 貴族の年頃の令嬢達は王太子の紳士振りにときめいた。


 階段の下には鳥族プチィツァ国王とフィリップ。

 

「なかなか面白い姿だ」

「いつものヒナの方が好きだ」

 アレクサンドロと繋いでいない手を取り、口づけを落とすフィリップ。


 ヒナは淑女の礼をし、本日はよろしくお願いしますと微笑んだ。


「もうっ! 令嬢は礼をしないのよ!」

 教えたのに! と会場の片隅で溜息をつくユリウスの妻エリス。

 ユリウスはヒナらしいと笑った。

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